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農政:許すな命の格差 築こう協同社会

【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】現地ルポ:JA秋田しんせい 農業経営支援 持続可能性確保への挑戦2021年8月30日

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今、国際社会では「持続可能性な社会づくり」が最大のテーマである。農協においても「農業・地域・農協」における持続可能性を確保しなければならない。その視点で見ると、農家組合員を確保し地域農業を維持することと、准組合員の位置付けを明確化して拡大することは農協経営基盤を左右する大きな課題である。JA秋田しんせいが、この課題に対して専門部署を設置し、全役職員で取り組んでいる内容を紹介する。(取材・構成:客員編集員 小林光浩)

鳥海山と秋田由利牛鳥海山と秋田由利牛

1. 二つの専門部署を設置して全体の総合力で取り組む

JA秋田しんせいでは、2020年度に新たな専門部署を設置した。それは、「農業経営支援室」(6名体制)と「Agri・Food未来企画課」(9名体制)である。

経営で大事なのは役職員や組合員の問題意識の共有化と改革の見える化を進め、組織力によって実践することである。JA秋田しんせいは、経営課題を「農業・地域・農協の持続可能性向上」とした。具体的には、「第9次中期総合3か年経営計画」(令和3年度から)を作成し組織合意を得て、正組合員である農業者との結びつきを強化するための専門部署と、准組合員の位置付けを明確化して拡大するための専門部署を設置して取り組んでいる。

こうした専門部署を設置して新しい取り組みをすることは経営効果が大きい。新しい業務を専門部署・専任に担当させるのは、確実に実践するためには必要なことである。それとともに、その専門部署・専任担当を確保する行為は、全体の要員数を増やさないで行うことが経営面では肝要である。それは、新しい部署を設置するための要員確保に向けた現状体制での要員削減が求められるからで、リストラ効果(業務の見直し効果)による効率化・生産性向上等が期待できる。当然に業務の見直しによる要員削減を行わないでリストラすれば、労働環境の悪化を招き、結果として労働生産性が悪化する。または単純に要員を増やして実施するのであれば経営能力を必要としないであろう。

JA秋田しんせいでは、合併前の11JAで行われていた営農経済事業を四つの営農センターに集約、あるいは支店である金融共済店舗の再編等にも取り組んでいる。合併当初から見れば相当の職員減少である。それらは、業務体制の集約化・再編による業務のやり方を見直さなければできなかったのである。

2. 農業者・農業法人の悩みに対応する農業経営支援室

農業経営法人室の現地検討会農業経営法人室の現地検討会

農業経営支援室の6名は、正組合員である農業者・農業法人の悩みを聞いて、各組織との対話を通じて、問題点を「見える化」することから始める。そして、その問題点を解決するためにJA内部、関係団体との連携によって解決を図る。具体的には、雪害被害、労働力不足、営農技術、資金調達、農業経理・会計、経営不振、後継者問題、資金調達、ビジネスモデルの将来性等、多岐に渡る。これらの悩みは、農協に対する期待でもある。

それらの問題点を「見える化」することで、JAの各部署との連携が強化できるので、JAの総合力の発揮が期待できる。具体的には、営農指導員、経済担当者、融資担当者等の各部署との連携を通じ、農業者に対しての具体的な提案をしていく取り組みである。この取り組みで目指しているのは、農業経営支援室による「ワンストップソリューション」の実現である。組合員がそれぞれの部署を回らなければ農協の総合事業を利用できないことを無くする取り組みである。

同様の考え方から、金融店舗の再編に合わせて、営農および資材センター等との併設を行い始めており、また、他企業店舗(DCMニコット株式会社)におけるインショップも行い、地域住民・利用者のワンストップソリューション化に努めている。

また、労働力不足に対しては、農協の無料職業紹介所を通して、農協職員が休日を利用した農業労働力対応をすることを認めている。いわゆる職員の副業を認める形をとっている。この取り組みは、農業経験のない農協職員の農業理解にも役立っている。

あるいは、農業法人を対象とした「単収アップで所得向上を目指す法人座談会」を開催したり、豪雪による被害農家への支援をしたり、農業法人を対象とした圃場管理システム(Z-GIS)の導入等も取り組んでいる。この農業経営支援室の取り組みは幅が広い。

3. 准組合員の位置付けと拡大

一方、JA秋田しんせいは、准組合員を「正組合員とともに地域農業や地域経済の発展を共に支える組合員」であり、「農業の応援団」と位置付けている。そのためには、准組合員の意志反映・運営参画ならびに事業利用機会を拡大し、正組合員と准組合員の協同による農業振興、組合運営を実現することにしている。

具体的には、准組合員として、(1)地元の農畜産物を食べる事で応援してくれる人を増やす、(2)さらに進んで「農業と食の大切さを理解して」応援してくれる人を増やす、(3)さらに進んで「手伝って」応援してくれる人まで繋ぐことを目指している。

この取り組みは、全役職員が営業マン(伝達者)となって「農業と食」の応援者としての准組合員を増やす取り組みを進めているのである。さらには、女性部の力、農畜産物・食育の力を組み合わせて促進している。

「Agri・Food未来企画課」では、准組合員の「農業の応援団」づくりと加入促進のために、季節のおいしい福袋お届け便(年4回)やお肉セット(年2回)、野菜セット(年2回)、

新米直売会等、JAの農畜産物の直接販売や農業理解を進めるイベントを企画している。

農業経営法人室の現地検討会

女性大学の料理教室

4. 単収アップと所得向上で農業振興

JA秋田しんせいの販売額は115億円(うち米穀85億円、畜産18億円、野菜4億円、花き・花木4億円)である。米は、「土づくり実証米」の商標登録をしてのブランド化を図っている。それは、「資源循環型農業」に取り組み、ペレット堆肥を投入することによる土づくりを積極的に推進して、高品質・良食味米の生産への取り組みである。その堆肥は、黒毛和牛のブランド化である「秋田由利牛」の畜産との耕畜連携である。

また、アスパラガス、ミニトマト、りんどう、小菊、ネギ、菌床しいたけ等の生産・販売にも力を入れている。新たにシャインマスカット(ぶどう)栽培への支援もしている。

土づくり実証米の直売イベント土づくり実証米の直売イベント

農協の農業支援による農畜産物の維持・拡大は、准組合員を「農業応援団」と位置付けて拡大する取り組みによって更に進むことが期待できる。そして、生産者と消費者が農協の事業を通じて地産地消の産地づくりを進める取り組みは、農協による食料自給率の向上を目指す取り組みである。それは農協の存続意義となる。そんなことをJA秋田しんせいが農業・農協の持続可能性向上に挑む姿から学ぶことができた。

※現地ルポ:JA秋田しんせい 小松忠彦組合長インタビュー「次の世代へ農業をバトンタッチするために農協はどうするのか」へ続く

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