農政:許すな命の格差 築こう協同社会
【許すな命の格差 子ども食堂の現場から】インタビュー・湯浅誠氏(NPO法人全国子ども食堂支援センター・むすびえ理事長 東京大学特任教授)(上)2021年9月2日
「子ども食堂」は今、全国に約5000カ所ある。この4年間で15倍に急増した。コロナ禍でも粘り強く活動を続け、地域の暮らしを支えるセーフティネットの役割を果たしている。そんな子ども食堂とは何か。どんな思いで人々は運営しているのか。今回は「子ども食堂の支援を通じて誰も取りこぼさない社会をつくる」を掲げて2018年に設立されたNPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえの湯浅誠理事長に聞いた。(野沢聡)
みんなが集まる場所
湯浅 誠
NPO法人全国子ども食堂支援センター
むすびえ理事長 東京大学特任教授
--「子ども食堂」は食べられない子どもたちのための場所ではないということを強調されています。改めて「子ども食堂とは何か」からお聞かせください。
厚労省の調査によると、参加条件をつけず誰でも参加していいという「子ども食堂」は78.5%になります。今、全国に5000カ所ありますが、4000カ所はどんな人でもどうぞ、というかたちで運営されています。
実際、高齢者が来ていると回答したのは62.7%ですから、3分の2は高齢者も来ているということです。
ですから、子ども食堂は食べられない子どもが行く場所、あるいは子どもだけの専用食堂というのは基本的には誤解であることがデータ上も明らかになったわけです。
その理解が大事だと思っている理由のひとつは食べられない子どもが行く場所だとなると、結果的に食べられない子どもも行けない場所になってしまうからです。
食べられない子どもたちが行く場所に自分の子どもを行かせたいかと考えると、親はあまり行っておいで、とは言わないと思います。逆に食べられない子どもだけが行く場所だということが噂になって、余計に行きづらくなる。
そういう意味ではみんながいる場所だから混じることができる、みんなが行っているから気兼ねなく行けるわけで、そういう場所であることが食べられない子にとっても大事だということになります。
イメージとしては学校と同じだと思っていただければいい。学校にはお金持ちの子どももいれば貧乏な家の子どもいますが、だからといって学校は貧乏人の子どもが行くところだと言う人はいませんよね。子ども食堂も同じで、なかには食べられない子どももいますが、だからと言って食べられない子どもが行く場所だということにはならないわけです。それが子ども食堂の実態だということです。
つながりつくる「準自治会」
--この4年間で数は15倍になりました。なぜ、子ども食堂が増えているのでしょうか。
空き家が増えたり小学校が統廃合したり商店街がシャッター通りになるなど地域が物理的に寂しくなっていますが、それだけでなく、気持ちの上でも人との距離が開いていると思います。盆暮れだから親族一堂が集まるという機会も減ってきましたし、今はコロナ禍だから集まれないといいながら、実はコロナ前から日本全体でこうした機会が減っていたと思います。そういう無縁社会といわれる社会になりつつあることに対して、つながりを作っていこうというのが子ども食堂だと思います。
その意味で私は子ども食堂を、福祉マインドを持った準自治会、だとも言っています。自治会は地域のつながり作りをする場所です。敬老会もやれば子ども会もあります。しかし、敬老会をやるからといって自治会は高齢者のための組織だと言わないし、子ども会をやるからと言って、自治会は子育て支援団体だとも言いません。私の自治会は古紙のリサイクルをやっていますが、だからといって環境リサイクル団体だとも言いません。つまり、つながりをつくるためには何でもやるということです。
子ども食堂も同じように子どもから高齢者までつながりを作るためには何でもやるということですから、みんなで海水浴に行ったりバーベキューをしたりもします。農地を借りてみんなで農業をしているところもあります。自分たちで食べるものは自分たちで作りたくなるからです。そんな子ども食堂も増えてきました。
都会だけの現象か?
--それも全国で増えているということですね。
子ども食堂はともすると都会の現象だと思われますが、私たちは都道府県別に小学校数に対する子ども食堂の割合を出しています。いちばん高いのは沖縄県です。小学校は約260校ありますが、160の子ども食堂があり半分を超えています。
2位は滋賀県、4位が東京都ですが、では3位はといえば鳥取県です。鳥取県は人口が少ないですから小学校の数も多くはありませんが、3分の1以上の小学校区のなかに子ども食堂があるという状況になっています。ですから、決して大都市の現象ではないということが分かると思います。やはり地域が寂しくなってきたということをむしろ地方のほうが実感するからです。人が歩いている姿を見なくなった、たまに見るのはおばあちゃんが買い物車を押している姿ぐらいという、そのように日本の地域社会は疎に向かっていたんだと思っています。
コロナ禍になって「密」というフレーズや考え方が出てきて、適当な「疎」が必要だなどと言っていますが、コロナ前の日本は決して「密」に満ちていたわけではない。むしろ「疎」に向かっていたんです。
そういうなかでつながりを作ろう、要するに「密」な場所を作ろうとしてきたのが子ども食堂のみなさんだったということだと思います。
「疎」に抗う人々
--どんな人が子ども食堂を開いているのでしょうか。
鹿児島で初めて子ども食堂を始めた30代の女性は、自分の子どもができてみて、久しぶりの地域再デビューという感覚になったそうです。彼女自身も中学生ぐらいまでは地域とのつながりがあったわけですが、高校生以降になるとやはり地域から離れてしまった。そして自分の子どもができてもう一度地域とつながることになったわけですが、20年経ってみると自分の子ども時代とは明らかに地域が変わっていると感じたそうです。
30代といえば私からすればまだ若い世代ですが、そんな人でも地域の変化を実感するようです。彼女の世代でも小さいころはまだ友達の家に遊びにいってそのまま晩ご飯を食べて帰ったということもあったそうですが、今はそんなことあり得ないと。しかし、地域のつながりがないなかで一人で子育てするのは無理だと仲間を集めて子ども食堂を始めたということです。こういう事例はとても多く聞きます。
自分の子育てが一段落して子ども食堂を始めたという人もいます。自分の子どもの子育てにはホッとしていても、何かのきっかけで地域にはいろいろな課題を抱えた子どもがいることを知って、それで何かできることがないか、食事を作ってみんなで食べるということであれば何十年もやってきていることだから、と始めた人も多いです。50代から60代の中高年の方々が地域に目を向けたということです。
さらに最近はお寺が子ども食堂を開いたり、地域の交流拠点だという認知が広まってきましたから自治会がやるようにもなっています。地域のつながりづくりということであればもともとお寺はそういう場所でしたし、自治会は言うまでもないことで、これは自分たちがやるべきことだと捉えるところも増えてきています。
多世代交流を大切に
ですから、名称にはこだわっていません。「みんな食堂」でも「地域食堂」でもいいと思います。大事なことは多世代交流の機能があることです。高齢者しかいない居場所、子どもしかいない場所にくらべて、いろいろな世代が関わる機能があれば名称は何でもいいと言っています。
ただ、現場が「子ども食堂」という名称を手放さないですね。子どもたちのために一肌脱ぐ人いませんか、となればやはりみなさん、よっしゃ、となる。みなさんの力が引き出されるという意味では、自分たちの活動も子ども食堂なんだと言いたいというのが現場のリアルな実感だと思います。
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