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農政:許すな命の格差 築こう協同社会

【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】提言:働く機会をいかに広げるか 堀口健治・日本農業経営大学校校長(早稲田大学名誉教授)2021年9月3日

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人口の減少や高齢化によって、農業の働き手の不足が深刻になっている。一方で、コロナ禍などで、都市では仕事を失った人も少なくない。JA全農おおいたは、パートナー企業とともに、主婦やフリーターを含めた働き手いを確保する仕組みを軌道に乗せている。

雇う人、雇われる人の間を結ぶ農協への期待

堀口健治・日本農業経営大学校校長堀口健治・日本農業経営大学校校長


全農おおいたの挑戦

1. 都市に住む人に呼びかけるJA全農おおいたの取り組み

農家にとって最大の問題は労働力手当てで、常雇、臨時雇ともに確保が難しくなっている状況がある。他方、コロナの関係で仕事を失った人が都市では多いにもかかわらず、それらの人に農業で働く機会の提供や情報が十分に流れていない。残念である。

農協も承知していることだが事業として人材紹介業を設けるところは少ないので、具体的な取り組みは多くはない。そうした状況下で全農おおいたが取り組む仕組みは注目される。特徴は、パートナー企業による雇用、農家が作業委託に出す請け負い、そして収穫物の全農の販売戦略と単協による受託契約のチェックである。

パートナー企業と提携

2. 募集・受け入れ・割り当て・支払いのパートナー企業・菜果野(なかや)アグリ

公共事業で請け負いの仕組みに慣れている福岡のナカヤ土木は子会社・「菜果野(なかや)アグリ」を発足させた。全農おおいたの敷地に事務所を構え、仕事を請け負い、人を提供するのである。土木分野ではチームをつくり現場に出すのがあたりまえなので、登録者の特徴を把握し作業にあったチームを編成するのに慣れている。
採用面接は基本的にすべて受け入れを前提として、運転免許証も履歴書も不要である。だから「引きこもり」など事情を持つ人も応募しやすい。現場は県内全域で、都会から離れた農業地帯に送迎する。仕事を終えた後、その日の給与を事務所で現金払いしているのは印象的だ。初めての人は、仕事が続きそうであればそれでいいし、難しい場合はその日でやめることがあってもいいとして、まずは仕事をしてから考えてほしいというスタンスである。週一日や二日といった希望も受け入れ都合に合わせている。
加入し仕事を始めるハードルを下げ、仕事をしながら考えてもらう。現在は登録者270人(大半は市内居住の非農家出身で平均40歳、うち女性が6割)に増えて来ている。すぐに動ける人は120人、週5日働ける人は40~50人いる。次の転職を考え「つなぎ」として登録する人が多いようだ。結果として仕事に慣れ週5日の人が増えている。経験を積めば賃金単価が上がり現場のリーダーは1000円の手当てが付く。運転手当は500円である。
こうしたなかで農作業に自信を持ち、新規就農に舵を切る人も出てきているし、正社員を目指し継続する人も多くいる。農家に仕事ぶりを見て常雇として引き抜かれる人も結構多い。

延べ年間2万人超確保

3. 最初の2015年は延4000人 19年は2万人超の仕事量

2019年は延べ作業従事者2万1000人、依頼は収穫・選別・調整だけでなく育苗、定植や管理、選果場や加工場、ハウスの新設・被覆張りと実に多様である。委託者数は163件で最近は200件に拡大している。周年で仕事が多いのは、ねぎの調整・選別、キャベツの収穫、花の育苗などで、キャベツ収穫だと19年は17件の依頼者から延2200人の委託があった。1件当たり延べ133人、月にすれば10人強だから多いといっても同じ仕事が毎日続くほどではない。

事務所から1時間~1時間半のマイクロバスの範囲内で受けて、県内をほぼカバーする。8時間現場で働けば6,800円、リーダーであれば1000円加わるので、20日出勤だと15万6000円の金額になる。一般は13万6000円が収入になる。

2021年春先のある日、49人が12チームに分かれ10数台のマイクロバスで現地に向かっている。菜果野アグリは25台のバスを有するが、半分弱がこの日は稼働している。仕事はさまざまで張り付く人数もいろいろだが、いずれも現場責任者を設け、委託された作業を予定通り終わらせている。そのキャベツ収穫チームの編成表を見せてもらった。

19人だからその日に30~40㌃の収穫を予定していた。表には、個人別に菜果野アグリで働いた期間・動機・年齢・補足が載っている。チーム編成担当者はこれを使い現場責任者に説明している。すでに準社員になっている3人、期間が長くリーダーになれる力を持つ3人、その他は最近就職した者からすでに2年経過しているものなど、主婦やフリーターを含めさまざまである。

大事なのは補足で、「コミュニケーションに難あり」とか、「引きこもりだったが働く気持ちはあり」、「コロナで本業が休み」、「作業は問題ないが協調性が欠ける」とか、各人の特徴が述べられている。現場責任者は他にリーダーを務める力のある人の応援を得て、作業の仕方や協力のやり方を参加者にていねいに説明している。この組み合わせは大事な仕事で、かつてはナカヤ土木の出身者が行っていたが、今では農協を退職した人が多く勤めていて、仕事の内容を知ったうえでチーム編成が可能である。

請け負いだからチームのペースで仕事ができ、仲間意識を作る。Mさんのキャベツ圃場での収穫作業を見させていただいた。9人のチームで、運転手を兼ねる2人を含む男性4人と女性5人の組合せだ。1枚16㌃の圃場だが、Mさんから見ると特に作業は遅いようにはみえないという。男性の1人は調理師からの転職で25歳、1年目だが自立就農を目指すという。他の1人は造園業からの転職で2年目、準社員になっている。いずれもつなぎのつもりで転職してきたが、勤務が続いている。女性は、1人は40歳で3年目、スーパー店員から、1人は保育士からで34歳、1年目、いずれも週5で働いている。

農家の規模拡大も

4.請け負いの仕組み

農業法人の経営者Mさんは30㌶規模で、20年は稲作21㌶、麦25㌶、大豆6㌶、キャベツ12㌶の作付けだが、そのキャベツの半分の収穫を委託に出している。家族3人にMさんは9人雇用し、うち3人が常雇いの主力だが、キャベツも定植・管理はすべて自力でやる。しかし早期米準備のため、それまでにキャベツを収穫することが必要なので半分は依頼する。委託して3年目で水田の状況などを考慮するとこれ以上の委託はないが、委託した分、他の仕事をこなし規模拡大できるメリットがある。

キャベツの請負の仕組みは、6㌶の収穫量にキロ当たり税込み25円(業務用)を乗じた金額がMさんの収入になる。どの畑のキャベツを対象にするか全農・農協と協議し事前に決める。単収が上がれば収入は増えるので、委託とはいえ生産者は栽培に熱心になり単収を上げるようにする。

年間の栽培計画の時に、収穫後の販売を引き受ける全農・農協等と協議するが、25円はそのときに提示された価格である。これに同意すれば、全農・農協への契約栽培となり、菜果野アグリへの収穫作業依頼となる。全農は、キロ25円で収穫量に乗じたMさんに支払う額と自身が販売する額との差で、菜果野アグリの請負料と全農・農協のコストを賄うことになる。なお生産者が25円に納得しなければ請負は成立しない。だから委託者が魅力に感じるだけの有利販売になる「出口戦略」を全農が持ち、それだけの価格提示が必要である。

他方、Mさんは自力で収穫するキャベツ6㌶も同じく栽培計画を立てる時に農協と契約栽培を決めており、今年はキロ当たり税込み51円(業務用出荷:運賃及び鉄コンテナー代はここから控除される)になっている。生産者はこれですべてのコストを回収する。Mさんによれば概して収益率はこの方が高いが、請け負いにも出すことで自らの雇用以上の規模拡大と売り上げ増ができたと評価していた。

全国展開めざす

5.受け入れ手順と受託内容のチェック

委託者が作業を農協に要請するのが最初だが、圃場状態を調べ受託料について協議することになる。後になってもめないように圃場の細かな確認や覚書が大事である。農協は菜果野アグリ、全農と協議し、料金を決め委託者の了解を事前に得る。全農は手数料を取っていないが、この仕組みのキーマンで、収穫物販売に関わり、農業機械のレンタルで菜果野アグリを応援し、全体を推進している。この仕組みの全国展開を全農は志向していて、菜果野アグリの役割はJTBや大企業が関心を示しており新たな展開が期待される。

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