農政:許すな命の格差 築こう協同社会
【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】現地ルポ:京都にのくに スリムで強固な経営確立へ2021年9月13日
JA京都にのくには、京都府の北部の綾部市、舞鶴市の全域、それに福知山市の一部をエリアとするJAである。大半が中山間地域からなり、「万願寺甘とう」や丹波大納言小豆、丹波黒豆、丹波栗など、地域に根付いた伝統のある特産物は多いが、「丹波」のブランドを十分に生かし切れていないのが実状だ。このためJAは米を含め、農産物の販売強化に力を入れ、マーケットインによる産地づくりのため、営農・経済事業に力を入れる。そのため生活購買事業は外部に移管するなど、「スリムで強固な経営」を目指す。
営農経済事業の強化 組合員とつながる「場づくり」
JA京都にのくにの農産物販売高は、トップの米が6億9000万円。全体の35.1%を占め、次いで青果物(野菜)が5億2000万円で26.6%。この二つで6割を超す。米は約11万袋を集荷。「コシヒカリ」は、「丹波のコシヒカリ」として関西ではブランド力があり、全量買い取りで、そのほとんどを売り切る。
園芸作物では、京都の伝統野菜である「万願寺甘とう」がある。甘くて辛くないトウガラシとして知られ、単品で4億1000万円を超す販売高がある。大手うどんチェーン店やコンビニエンスストアで「万願寺甘とう」を使った商品も販売されている。生産者約340人が15㌶で栽培しているが、初期投資が少なくて済み、販売も伸びており、地域農業の有望な作目として生産の拡大に力を入れている。
GI登録もされた万願寺甘とう
直売所を核に栽培促す
JA管内は、その大半が中山間地域で、それぞれの地域でさまざまな野菜が作られているが、「万願寺甘とう」や茶などを除き、産地としてまとまった作目は少ない。このためJAは地元農産物の直接消費に力を入れており、4カ所の農産物直売所「彩菜館」がその拠点として、農業者の栽培意欲の向上や地場野菜のPRの場になっている。
優良農地の保全にも努めている。2017(平成29)年に、JA出資法人の「(株)アグリサポート夢」を設立。高齢で耕作できなくなった農家の水田を預かるとともに、ドローンなど最新の技術を取り入れ、水田利用のモデル経営をめざす。今後は、担い手の就農研修や、地域雇用の創出、食と農を基軸にした都市との交流などに事業を拡大し、地域の活性化にチャレンジする考えだ。
同JAは今年の2月、3カ年計画の策定に向けて組合員アンケート調査を実施した。「JAは農業・地域にとって必要な組織か」について、82%が肯定的な回答を寄せた。その理由は「地域に根ざした組織」(39.1%)、「総合的サービス」(31.5%)だった。またJAの構成員については4割強が「農業者と住民利用者」、JAの組織目的は5割強が「農業振興を主として地域住民のくらしの向上」を挙げた。
組合員自主運営の彩菜館
応援者をコア組合員に
このように、組合員のJAへの期待が大きい半面、農業従事者の高齢化や組合員の世代交代などで、JAに対する組合員の帰属意識が低下している実態がある。
こうした組合員の意識の変化に対応して、同JAは、組合員とJAが共に関わる「場づくり」に努めている。つまり、「場」に組合員の参加を促すことによって「食・農の応援者」からコアなパートナーへの転換をはかろうというものだ。
こうしたアクティブメンバーシップ強化のため、「学びの場」、「集まる場」、「複合利用への誘導・拡充」、「届ける場」、「叶える場」として、各種の生産者部会や総代等懇談会、支店活動活性化委員会など、JAのすべての活動を「場づくり」につなげている。
なかでも、支店協同活動による「場づくり」は、支店管内のJAのあらゆる組織の代表からなる支店活動活性化委員会が大きな役割を果たしている。同委員会は地元選出の非常勤理事が主宰し、地域のニーズをくみ取り、JAの理事会に伝える。また女性の活躍を促す「場づくり」では、女性大学や農産物加工場の開設、女性のための農機具講習などを企画している。
「塾」で学ぶ協同の理念
同JAの迫沼満壽代表理事組合長は「学びと発信による協同組合理念の浸透」の必要性を強調する。このため設けたのが、「にのくに未来塾」だ。満20歳以上の組合員を対象に2年間で基礎講座と専門講座をそれぞれ年5回、10講座を受講し、JAの存在価値を学び、組合員意識を醸成し、次世代の地域・JAリーダーを育てる。また中堅職員を対象とする「にのくに次代塾」も開講し、日常業務で協同組合の理念を実践できる職員を育てる。
JA自己改革の柱である営農経済事業改革では、広域化による拠点整備と部門収支の改善に取り組んでいる。主なものだけでも畜産(和牛繁殖)の事業移管(2021年度)、移動購買車・葬祭の事業移管(2020年度)、米の共同乾燥施設の再編・整備、支店併設購買店舗の閉鎖、受託販売手数料の引き上げ(2020年度)などがある。
こうした取り組みを迫沼組合長は「スリムで強固な経営をめざす」という。「農産物の販売力を強化し、生産拡大や新たな特産物の育成、担い手支援などを強化するとともに、営農経済部門の収支の改善に取り組む」と抱負を語る。
(日野原信雄)
【JAの概況】
1997(平成9)年、綾部・舞鶴・福知山市内の6農協、および三和・夜久野・大江町の旧3町の3農協が合併して発足。13支店、3広域営農経済センターのほか、農機センター、茶業センター、農産物直売所「彩菜館」(4カ所)を持ち、女性部、青壮年部、年金友の会、生産者部会(42部会)の生産者組織がある。農産物は米、万願寺甘とう、小豆、紫ずきん(黒枝豆)、茶など。
▽組合員数=2万791人
▽販売品取扱高(買取販売含む)=19億5000万円
▽購買品供給高=20億7000万円
▽貯金残高=1600億円
▽長期共済保有高=5077億3000万円
▽職員数=298人(うち常用的臨時雇用者63人)
(2020年度末)
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【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】「スリムで強固な経営」確立へ JA京都にのくに 迫沼満壽組合長に聞く
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