農政:全国会議員に聞く「どうするのかコロナ危機」
コロナ収束 政治の役割 「どうするコロナ危機」 全国会議員アンケートから【政治評論家 森田 実】2021年10月6日
農業協同組合新聞は、新型コロナ感染症の第5派が猛威を振るっていた今夏、「どうするコロナ危機」と題して衆参両院の全国会議員に緊急アンケートを行った。様々な意見がある中、政治評論家の森田実氏にアンケートの分析をしてもらった。
本アンケートは、「JAcom農業協同組合新聞」が、2021年8月時点において、衆参両議院の全国会議員を対象に実施したものである。10月1日から解除されたが、本アンケート発送時においては、13都府県に緊急事態宣言、19道県にまん延防止等重点措置が発令されている状況であった。アンケートは9月27日時点で全135人の議員よりの回答があった。
回答は、それぞれの議員ごと、さまざまな内容であり、全回答を読むのには、かなりの時間を要した。
さて、本アンケートは、全て記述回答方式であり、論点として、(1)現在の政府のコロナ対策についての評価 (2)今後のコロナ対策についてのご提案 (3)コロナ禍で見えてきた日本の政治のあり方について思うことがありますか? の3項目である。
今回のコロナ禍が、わが国のみならず世界的な災禍であることに加え、「農業協同組合新聞」が長い歴史を持つ媒体であり、JAcomが非常にアクセス数の多い農業・農協関連サイトであることを鑑み、各議員が回答行動に出てくれたのであろうと思う。多忙な中、アンケートへの回答の労をいとわなかった国会議員の皆さんには、心より敬意を表したい。
回答数については、多いか少ないかを論じる意味はあまりないと考える。アンケートの目的そのものが、国会議員における特定の事項についての賛否を問うものではなく、コロナ禍についての対応策や今後の政治のあり方についての意見を述べてもらうことが目的であったからである。
そうしたことを前提として、アンケート回答の全文を読んでの感想や私見を述べてみたい。なお、本稿は、全国的に緊急事態宣言・まん延防止等重点措置が解除された10月2日時点において執筆したものである。
◆現在の政府のコロナ対策についての評価
政府の対策への評価を問うているが、デルタ株が猛威をふるっていた状況下にあっては、野党だけではなく、与党からも厳しい指摘が多かった。
設問では、(1)ワクチン接種の問題点と今後の課題(2)医療体制の問題点と今後の課題(3)国民生活や経済活動の規制(「外出自粛」「営業自粛」「リモート作業」等)への補償(4)検査体制の拡充について――の4点を具体的な観点として列記しての設問となっていた。
(1)のワクチン接種については、一時的に供給面において難渋した点を指摘するものが多かった。全国民を対象としてのワクチン接種という事態であることを考えると、多少の混乱や運営面における不備は避けがたい。「ワクチン接種開始時が遅れたことがコロナ制圧の遅れにつながった」という指摘もかなりあったが、「ワクチンの国内治験が不十分なうちに接種を進めるべきではない」というワクチン早期接種に反対した議員が、ワクチン接種開始の遅れを今になって問題にする姿勢には違和感をもった。
一方、「多少の混乱や不手際はあったが、ワクチン接種の実践において、諸外国に比しても優れたスピードで接種率を上げることができた」ことを評価する回答が与野党を問わず存した。
ワクチンに一定の効果があることは誰もが是認するところである。多少の不手際はあっても、大筋としてワクチン接種に関して国も地方自治体、そして各職域団体も、よく努力していると評価できるのではなかろうか。
(2)の医療体制については、それぞれの指摘はいずれも納得できるものであり、コロナという災禍に対して、万全の医療体制を整備し、国民の生命・健康を守り通すことが政治の役割であることが与野党を問わず、共通した認識であることが分かる。
ただ、問題はそれぞれの提案のどこまでが現実的に実現可能であるのか、またその具体的方法はどうなのか、の検討が必要だろう。具体策の検討が必要であると思う。
(3)「規制」と補償については、ほとんどの回答において、「補償なければ規制なし」との内容であったように思う。感染防止のためのなんらかの規制を行うのであれば、それに見合う補償をすべきであるというのは、当然ではある。
ただ、どのような「規制」が可能であるのか、今回、飲食業の営業について強い制約を加えたのだが、それが適切であったのかどうかという検証も必要であろう。
先日、私は山梨県庁を訪問し、長崎幸太郎山梨県知事と懇談した。山梨県では飲食業を含め原則として営業規制を行わず、同時に経済的補償を行うことなくコロナ感染を最小限にとどめた、いわゆる「山梨方式」についての詳細を聞いた。
補償を行わない代わりに、感染症防止対策を施す場合には飲食業に限らず補助を行ったという。この「山梨方式」は国民の支持を得て、多くの自治体が取り入れた。今後の対応策としても、大切なヒントになるだろう。
「完全な防止策を徹底するには、ロックダウンやむなし」との意見も散見された。コロナはまだ現在進行形ではあるが、日本の場合、権力による強制力を行使せずに、国民の「自粛」と国民の自発的「防止努力」によって、コロナに対応することで、なんとか現在の被害レベルに抑えられている。世界でも珍しい状況である。
他国のような公権力による「ロックダウン」が、我が国民性に馴染むものであるのかは疑問である。
(4)「検査体制の拡充」については、昨年来のコロナ禍のもと、その検査体制についての検証を客観的に行ったうえ、今後も予想される感染症対応として、検査体制を拡充すべきであるという点では、多くの議員が共通した認識を有している。
しっかりした検証を行い、感染症対策の基本となる検査体制をできるかぎり拡充していくことは急務の課題である。
◆「今後のコロナ対策についての提案」
現在、ようやく第5波が鎮静しつつある状況で、緊急事態宣言・まん延防止等重点措置が解除された段階ではあるが、遠からずして第6波が襲ってくることが懸念されている。そうしたなか、今後のコロナ対応策として、多くの議員が、「科学的エビデンスに基づいた施策」の重要性を提案している。また、迅速かつ的確な対応のために、ITの効果的活用の必要性も強調されている。さらに、国産ワクチンの早期開発の必要性を指摘している。国産ワクチン開発に向けて、我が国の場合、研究開発費が少なすぎるのではないかという指摘もある。国産ワクチン、経口治療薬等の開発に尽力すべきことに異論はなく、それらを速やかに進展させる努力を続けてほしいと思う。
withコロナ時代においては、コロナ感染症から国民の生命と健康を守り、同時に経済活動をも円滑に行っていく知恵が必要となる。
◆「コロナ禍で見えてきた日本の政治のあり方について思うことはありますか?」
コロナ禍という未曾有の厄災に対して、政治がなにをなすべきか、なにができたのかという反省のうえに、今後の日本の政治をどうしていくべきかを、国政の当事者である政治家に問う設問である。
本アンケートにおける核心的な質問でもあるのだが、回答する国会議員としては、やや抽象的な問いかけと受け止められたのか、詳細な回答がなされていない傾向がみられた。しかしながら、回答したそれぞれの議員が、日本政治へのビジョンを語っている。期待したい。それぞれの声に耳を傾けてみたいと思う。
政治家が説明責任をきちんと果たすことの重要性を指摘する声も多かった。同時に、国民の声が、どれだけ実際の政治に反映できる仕組みになっているのかも考えるべきであろう。
現在の衆議院議員選出の前提となっている小選挙区比例代表制が、すでに我が国においては不向きであり、さまざまな問題が噴出している。近い将来において、人口動態に対応した議員定数の是正が実施されることによって、小選挙区が改悪され、人口の少ない地域の声は、さらに国政に反映しにくい状況が加速されかねないことが憂慮されている。これは大きな問題である。コロナ禍総括のための根本的議論を始めるべきだと思う。
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