農政:迫る食料危機 悲鳴をあげる生産者
【迫る食料危機 悲鳴をあげる生産者】作物価格下落で大痛手 畜産の友人は「青色吐息だべさ」 農業・歌人 時田則雄2022年7月15日
コロナ禍やウクライナ紛争などによる生産資材の高騰は、日本最大の産地、北海道の生産者を直撃している。国内有数の畑作酪農地帯である十勝地方で長年にわたって農業に取り組んできた生産者は、この事態をどう受け止めているのか。今回の「迫る食料危機 農業資材高騰で悲鳴をあげる生産者~守ろう食料安保~」は、十勝地方で農業を営む歌人、時田則雄さんに寄稿してもらった。
ナガイモ価格が30%下落 栽培農家に大痛手
私は十勝のほぼ中央に位置する帯広市の郊外で百姓をしている。8年前に娘婿に経営を移譲しているが、農繁期には早朝から畑に出て、老骨に鞭打って働く。トラクターやダンプカーの運転もする。
十勝は日本有数の畑作酪農地帯であり、1戸当たりの耕地面積は45haを超えている。食料自給率はカロリーベースで1200%。ちなみに私の農場の耕地面積は約40haで、小麦、大豆、ニンジン、ナガイモ、加工用スイートコーン、生食用スイートコーン、ゴボウを栽培している。7月の下旬から8月の上旬にかけて収穫する小麦は穂も膨らみ、生育は今のところ順調である。ナガイモも太いつるがネットに絡まりながら勢いよく伸びている。葉も繁ってきた。
しかし、心はパッとしない。ナガイモは私の農場の目玉作物であり、販売用は2ha栽培している。ナガイモは栄養価が高いので人気が高く、国内各地に出荷しているが、コロナ禍の影響をもろに受け、価格はコロナ禍前と比較すると約30%下落している。また、台湾、シンガポール、アメリカなどにも輸出しているが、燃油の値上がりによって輸送費がかさみ、買い控えの要因となっている。ナガイモは手間暇、経費のかかる作物なので、栽培農家にとっては大痛手である。コロナ禍の影響はナガイモ以外の野菜やバレイショなどにも及び、消費も価格も低迷しているのが現状である。
「踏んだり蹴ったりでよ、青色吐息だべさ」
十勝は昔から「豆の国」と呼ばれている。とくに「十勝産小豆」は有名であるが、やはりコロナ禍の影響で人の流れが鈍り、餡(あん)を原料とする贈答用の菓子などの消費が低迷している。
酪農のほうはどうなのかー。本紙(6月15日)によると、中央酪農会議が実施した全国酪農家197人を対象としたアンケート調査では、減少していると感じている収入は「牛販売」が67%、「生乳販売」が61.9%だという。こうした現状を踏まえ、同紙で鈴木宣弘東京大学大学院教授は次のように述べている。「とくに十勝の大規模経営が厳しく、国の政策によって借金し、増産に取り組んできた酪農家が先に倒産してしまいかねない状況にある」ー。
私には牛を飼う多くの友人がいる。過日、そのなかのひとりに電話をかけたら、次のようにぼやいていた。「飼料代はトン当たり1万1400円も上がったべさ...。バカ上りだべさ...。ルーサン(牧草)もキロ50円だったのが、倍の100円だべさ...。生乳も出荷制限されてるしよ...、バターやクリームなどの乳製品も売れ行きが悪いべさ...。個体も安いべさ...。踏んだり蹴ったりでよ、青色吐息だべさ」ー。
肥料代値上げで400万円の支出増
6月18日、ホクレン農業協同組合連合会が、化学肥料を平均78.5%値上げすると発表したので、百姓の間に衝撃が走った。地元紙は「主な調達先のロシア情勢悪化が直接要因だが、世界的な需要増や中国が自国優先で輸出制限したことで、昨年から上昇基調だった」と報じている。円安の影響も極めて大きい。ちなみに私の農場で1年間に使用する肥料の代金は約500万円。つまり、支出が約400万円増えるということになる。岸田首相は値上げ分の70%を補填すると表明しているが、残りの30%はどうなるのだろう。詳細は定かではない。肥料代のほかに燃油代も上がっている。ビニール、パイプなどの諸材料代も上がっている。それだけではない。農機メーカーの大手4社の値上げも相次いでおり、最近は中古品が売れているという。
百姓をおちょくってはいけない
農業・歌人 時田則雄
参院選が終了した。結果は予想通りに自民党の圧勝であった。私の手元に自民党が日本農業新聞(6月24日)に載せた公告がある。見出しは「食料安全保障を確立し、『農林水産業』を成長産業に。」ー。私は長年にわたって政権を握ってきた自民党が、いまだに「食料安全保障確立」と、公然ということに驚きを隠せない。『最新 北海道農業用語事典』(北海道協同組合通信社)で「食料安全保障」を引くと、「予想できない国内外のさまざまな要因によって食料の供給が影響を受けるような場合のために、食料供給を確保するための方策や、その機動的な発動のあり方を検討し、必要な準備をしておくこと。(以下略)」とある。本紙にもたびたび書かせてもらっているが、日本の食料自給率はカロリーベースで37%。先進国の中では最下位である。こうなってしまった理由ははっきしている。政権与党がTPP発効、日欧EPA発効、日米貿易協定発効などによって自由化を推し進め、農業潰しを続けてきたからである。百姓をおちょくってはいけない。
政府は2030年までに食料自給率を45%に引き上げるというが、どのようにして引き上げるのか。掛け声倒れに終わらないようにしてもらいたい。
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】JA全農(2025年1月1日付)2024年11月21日
-
【地域を診る】調査なくして政策なし 統計数字の落とし穴 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年11月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如2024年11月21日
-
加藤一二三さんの詰め将棋連載がギネス世界記録に認定 『家の光』に65年62日掲載2024年11月21日
-
地域の活性化で「酪農危機」突破を 全農酪農経営体験発表会2024年11月21日
-
全農いわて 24年産米仮渡金(JA概算金)、追加支払い2000円 「販売環境好転、生産者に還元」2024年11月21日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
鳥インフル カナダからの生きた家きん、家きん肉等の輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
JAあつぎとJAいちかわが連携協定 都市近郊農協同士 特産物販売や人的交流でタッグ2024年11月21日
-
どぶろくから酒、ビールへ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第317回2024年11月21日
-
JA三井ストラテジックパートナーズが営業開始 パートナー戦略を加速 JA三井リース2024年11月21日
-
【役員人事】協友アグリ(1月29日付)2024年11月21日
-
畜産から生まれる電気 発電所からリアルタイム配信 パルシステム東京2024年11月21日
-
積寒地でもスニーカーの歩きやすさ 防寒ブーツ「モントレ MB-799」発売 アキレス2024年11月21日
-
滋賀県「女性農業者学びのミニ講座」刈払機の使い方とメンテナンスを伝授 農機具王2024年11月21日
-
オーガニック日本茶を増やす「Ochanowa」有機JAS認証を取得 マイファーム2024年11月21日
-
11月29日「いい肉を当てよう 近江牛ガチャ」初開催 ここ滋賀2024年11月21日
-
「紅まどんな」解禁 愛媛県産かんきつ3品種「紅コレクション」各地でコラボ開始2024年11月21日
-
ベトナム南部における販売協力 トーモク2024年11月21日
-
有機EL発光材料の量産体制構築へ Kyuluxと資本業務提携契約を締結 日本曹達2024年11月21日