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農政:迫る食料危機 悲鳴をあげる生産者

【迫る食料危機 悲鳴をあげる生産者】畜産農家支援のJA都城「価格補填追いつかない」 村田武・九州大学名誉教授2022年7月19日

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過去最高水準で推移する生産資材の高騰で生産者が危機に追い込まれる中、産地のJAは農家の負担軽減などにどう取り組んでいるのか。シリーズ特集「迫る食料危機 農業資材高騰で悲鳴をあげる生産者~守ろう食料安保~」、今回は飼料が高騰する中、九州を代表する畜産地帯で独自の事業展開で農家の支援にあたるJA都城の取り組みを、村田武九州大学名誉教授が取材した。

JA都城の粗飼料センターJA都城の粗飼料センター

宮崎県県南にあるJA都城は、1975(昭和50)年に南九州の中核都市・都城市の4農協と周辺5町(合併して現在では三股町1町)の5農協が合併して誕生している。矢吉照美代表理事組合長のもと、南九州の肉牛・豚畜産地帯を代表する農協として大変積極的な事業展開を行っていることが知られている。農畜産物販売高286億円という大農協である。正組合員6934人にうち、肉牛繁殖経営が1154戸、肉牛肥育経営が87戸、酪農経営が95戸、養豚経営が29戸と、約2割が畜産経営である。したがって、販売高のなかで、子牛が1万6155頭で106億円(37%)、肉牛が6474頭で76・5億円(26・7%)、生乳が2万9771トンで30・9億円(10・8%)、肉豚が3万8210頭で13・4億円(4・7%)と、畜産物が8割を占めている。

飼料高騰に対する農協の取り組みを、新地(しんち)国明常務理事(農産・経済担当)と(有)アグリセンター都城・中原順朗専務取締役のお二人にお聞きした。取材は、村田武(九州大学名誉教授)と髙武孝充(元JA福岡中央会営農部長)である。(敬称略)

JA都城の新地国明専務理事(右)と中原順朗アグリセンター都城専務取締役JA都城の新地国明常務理事(右)と中原順朗アグリセンター都城専務取締役

3割超える飼料価格上昇で補填追いつかず

―まず、この間の畜産飼料の高騰の状況について

新地 配合飼料はこの1年8か月で、1トン当たり6万円であったのが、2万1450円アップしており、3割を大幅に超える価格上昇です。ところが、この間に子牛せり市での子牛価格は1頭85万円から70万円台に落ちています。農協として、配合飼料価格上昇の一部を補填したものの追いつきません。また乾草も1kg当たり70円からアルファルファが100円、チモシーは103円にもなっています。

―JA都城は粗飼料の安定供給に力を入れてきましたね。

新地 JA都城が1993(平成5)年頃に開始した輸入物のイタリアンライグラス、オーツヘイなどの乾草の「粗飼料即売会」が好評でした。この即売会が定着するなかで、自給飼料の栽培には手が廻らない組合員への粗飼料安定供給が農協の責任だろうということで、2001(平成13)年には、「経済部粗飼料センター」を立ち上げました。粗飼料センターの現在の役割としては、輸入乾草の安定供給と、地場で稲作農家の水田30~40ha分の稲わらを買い上げてロール約1000本(1本は105~110kg)の製造です。JA都城は、和牛では「都城牛」の増体改良、乳牛では体形改善・乳量アップ(とくにアルファルファの多給)をめざして「粗飼料多給運動」を続けてきました。都城盆地の恵まれた農地資源を活かして、畜産経営の飼料自給率を現在の30%からもう一段引き上げたいと考えています。

農業生産法人設立で農家の飼料供給支える

自走式コーンハーベスタ自走式コーンハーベスター

―粗飼料センター立ち上げと同じ年の2001年に「(有)アグリセンター都城」をJA96%出資で立ちあげていますね。

中原 JA都城は1995(平成7)年に「営農支援センター」を立ち上げていました。この営農支援センターと合併前の都城市農協が1972(昭和47)年に導入していた「農業機械銀行」(農産センター)を統合して、JA都城から分社化して、資本金1000万円で設立したのが農業生産法人「有限会社アグリセンター都城」です。アグリセンターの事業は、従業員50名余り(他に臨時従業員が100名程度)で、売上高が12億円を超えています。水稲関係での水稲栽培26・5ha、育苗・籾乾燥調製・精米、農業経営部門では露地野菜72ha(うち甘藷17・4ha、ほうれん草21・7ha、ごぼう11haなど)、茶園152haなどがあります。さらに重要なのが、畜産農家の飼料供給を支える事業です。細断型ロールベーラーの導入で、サイレージ飼料作業が延べ面積で2230haになっています。さらに2015年に導入した自走式コーンハーベスター(ドイツ製)がデントコーン収穫で活躍しています。その作業受託面積は120~140haに達しています。

輸入飼料依存からの脱却へ自給飼料率引き上げを

―今年度は、JA都城「第14次地域営農振興計画」の初年度ですね。

新地 そうです。第14次地域営農振興計画は「持続可能な地域農業の実現」をめざします。畜産部門の「重点方策と具体的実施方策」では、「農家経営の安定化」のなかで、「飼料高騰に対応した生産費コストの引き下げを図る」を掲げています。飼料価格は高止まりが続くでしょう。JA都城は都城盆地の1万haを超える豊かな農地資源に恵まれています。生産費コストの引き下げには、何よりも自給飼料率の大幅な引き上げが求められます。つまり輸入飼料に依存した畜産から地域の農地資源と結合した畜産への方向を着実なものにしてこそ「持続可能な地域農業」です。現在の飼料高騰は、JA都城のこれまでの粗飼料センターやアグリセンターを拠点にした「飼料供給体制事業の充実」が間違っていなかったことを確信させてくれています。JA都城はこの事業のさらなる発展あってこそ、組合員に信頼される存在になれるのだろうと考えています。

取材を終えて

村田武 九州大学名誉教授村田武 九州大学名誉教授

この4半世紀におけるJA都城の「営農支援体制」が、都城農業の主幹部門である畜産を安定的・持続的農業にしていくために戦略的に取り組まれてきたことに驚かされた。今回の取材から外した2005(平成17)年設立のJA直営農場「Mの国牧場」は、子牛の買い支えを目的にした牧場であり、2農場(従業員8人)で合計1200頭の和牛繁殖・肥育一貫経営をおこなっている。次の機会にぜひ取材したいと考えている。

さて、JA都城を、この「夏季特集」の西日本の代表事例として取材したのは、「畜産県宮崎県において飼料高騰に対する農協の取り組みで注目すべきはJA都城だ」と、JA宮崎中央会・三田井研一専務理事と曽我部学農業振興部部長に紹介いただいたことによる。現地への案内は、同じくJA宮崎中央会の渡邊靖仁農業振興部課長補佐にお願いした。取材をお世話いただいた皆さんに心より御礼申し上げたい。

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