農政:迫る食料危機 悲鳴をあげる生産者
【迫る食料危機】食料自給力向上は国民的課題 施策練り上げ急務 コープデリ生活協同組合連合会・土屋敏夫理事長2022年7月22日
生産資材の高騰で生産者が追い込まれ、農業農村の存続が危ぶまれる事態は、食料自給率が37%の日本の食料危機に直結する。こうした事態を国民全体でどう受け止めて行動すべきか。今回の「迫る食料危機 農業資材高騰で悲鳴をあげる生産者~守ろう食料安保~」は、消費者の組織として「産直」などを通して産地支援にも取り組んできたコープデリ生活協同組合連合会の土屋敏夫理事長に寄稿してもらった。
国民全体の問題として受け止め、改善を
コープデリ生活協同組合連合会
土屋敏夫理事長
新型コロナウイルス感染症により、これまで先送りにしてきた多くの問題が顕在化してきました。日本の農業問題も「待ったなし」の最重要な問題ひとつです。この間の燃油・資材の急騰から、生産現場が深刻な事態に追い込まれていることに、大きな危機感を持つとともに、短期、中長期的対策を明確にして、国民全体の問題として受け止め着実に改善していくことが急務です。
コロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻で、消費者の食料安全保障への不安と食料自給力(率)強化を求める声は一層強くなっています。現在の農業の危機的な状況について、適切な情報提供と合理的な提案があれば、消費者の理解は進み購買行動も変化していくと確信しています。
食料自給力(率)向上の着実な施策は国民的な課題
当面続くであろう資材高騰に対し、生産維持・食料確保の緊急問題として国政レベルでの補助・補填などの対策が急がれます。今年度下期から来年にかけて、資材高騰による生産量の低下は回避しなければなりません。また、農産物の2つの価格(生産者出荷価格、店頭価格)形成が主に市況相場によることから、生産に費やされたコストを回収できないリスクが生まれます。生協の産直事業では事前に値決めを行いますが、市況との乖離が大きい場合には様々な問題が生じ、調整が必要になることもあります。市場機能を含めた流通機能で、生産コストを部分的にも担保する制度的な枠組みの必要性が高まっています。農業に安心して従事できる環境整備は、農業が展望のある魅力的な産業であるためにも大切です。
食料安全保障が脅かされる事態は、これからも原油高や自然災害などにより必ず発生することを前提に、国際的な食料システムの強靱化の課題として、実効性は薄いが食料輸出国の輸出制限抑制のための国際的な合意づくりが求められます。しかし、まずは足下の日本の食料自給力(率)向上の着実な施策を、生産者・消費者・国・自治体が国民的な課題として練り上げていくことが急務です。また、国際的な港湾・物流機能の強化・合理化と、国内の食料流通についても、隅々まで無駄なく斑なく、適切に食品を配分する流通システムを日本のサプライチェーン全体で実現していくことが求められます。
学校給食や公的調達での国産農産物位置づけ強化も
世界では長期間にわたり十分な食が得られず、生存と社会的な生活が困難な飢餓人口がコロナ禍により10人に1人、8億人を超えたと報道され、ウクライナ危機によりさらに急増すると警告されています。国連のSDGsでは2030年に飢餓を無くすことを目指していますが、このままでは大変困難な課題です。また、日本においても貧困と格差の拡大が大きな問題となっています。200万円未満の所得の方々は2割、首都圏のひとり親世帯では200万円未満が6割弱、300万円未満が約8割です。今の日本で誰でもがお米のご飯をお腹いっぱい食べられる環境にある訳ではありません。ナショナルミニマムとして、貧困問題や子育て支援などでの国内米のフードチケットや割安なクーポンの給付なども考えられます。生協でも子ども食堂やフードバンクなどへの食品提供を進めていますが、学校給食や公的調達での国産農産物の位置づけの強化も重要です。
しかしながら、日本では米の余剰と価格維持の問題から、生産力の発揮ではなく抑制する流れが長く続いています。日本の国土にあった水田と生産力を維持し、意欲ある農業の担い手を確保していくためにもしっかりした議論と、様々な角度からの政策を動員して大きく変えていくことが求められます。
国産農産物の供給促進へ工夫と努力の余地あり
生協は、消費者の組織であり、食品の供給を中心とした事業を通じて消費者のニーズに応えてきました。1960年代以降は食品の安全と安心、消費者の権利確立を求める中で、生産者と消費者を結ぶ「産直」の取り組みが、生協の成長の大きな推進力となりました。その後も生協は多様な消費者の願いに寄り添い、その事業規模を拡大してきましたが、根幹にあるものはやはり「食と農」です。日本生協連では、政府の2020年「食料・農業・農村基本計画」改定にあわせ、日本の農業について議論し、「消費者の願い」を視点に、①日本の農業を元気にしたい(元気な農)②安全・安心で新鮮な農産物・食品を食べ続けたい(確かな食)③豊かな地域社会や自然環境を守りたい(豊かな地域)④食や農業について知り、日本の食文化を未来につなぎたい(つづく未来)の4点に整理しました。「元気な農」に向けて、農業や農産物の特性や仕組みを組合員・消費者に伝えることの重要性や、産地とのコミュニケーションを促進すること、災害時の産地支援は元より、産地との連携や産地の実情に合わせた柔軟な供給システムの構築により、農業者から選ばれる出荷先となることが必要であるとしています。
JAグループの提唱する「国消国産」(国民が必要とし消費する食料は、できるだけその国で生産する)は、消費者にとって、とても心強く深く共感しています。生協でも国産・地場産農産物を使った商品の展開を積極的に進め、国産農畜産物の普及を推進しています。コープデリグループでは、日本の米づくり・酪農応援のため「未来へつなごう」をスローガンに消費促進の活動やキャンペーンを進めています。生協には国産の農畜産物を求める多くの組合員の声が寄せられています。国産農産物の供給促進のための工夫と努力の余地は、まだ十分にあると思います。
「確かな食」に欠かせぬ「元気な農」
日本の食料自給率は37%と1ポイント後退しました。消費者の求める「確かな食」のためには、足元の「元気な農」が欠かせません。国民的な課題として、農地や担い手・労働力、農業技術など必要な基盤を国内に確保する必要があります。また、人口構造の急速な変化により、このままでは国内農業の基盤を育むべき地域社会が崩壊しかねない状況にあります。生協は、助け合いの組織として、JAの皆さんや生産者の方々との協力関係を築きながら、地域社会とくらしを支える役割を果たしていきたいと考えます。
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