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農政:迫る食料危機 悲鳴をあげる生産者

【迫る食料危機】飼料、肥料の安定供給 国と歩調 JA全農の構え 野口栄理事長インタビュー2022年8月8日

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肥料・飼料・燃油など農業にとって欠かせない生産資材の高騰は、生産の現場に深刻な影響を与えている。安定供給と生産者の負担軽減のため、JA全農は、どのような取り組みを行っているか。野口栄理事長に聞いた。(聞き手は作山巧・明治大学教授)

JA全農・野口栄理事長(左)と明治大学・作山巧教授JA全農・野口栄理事長(左)と明治大学・作山巧教授

難局の長期化必至 政府の備蓄と資源外交に期待

作山 農業資材高騰についてうかがいます。まずは全農を含むJAグループとしてどのような対応をしていますか。

野口 2008~9年にも原料価格の高騰がありましたが、その状況と今はまったく違います。あの時は短期で終わりましたが、今回は長期化しそうな様相です。

今までの対応とすれば、国際市況が上がっていくことを踏まえて、全農は資材原料については安定供給を優先して取り組んでまいりました。全農創立以来50年の歴史の中で築いてきたこと、飼料でいえば全農グレインを中心とする飼料穀物のサプライチェーンがあったので、今回の危機に対応でき安定供給の務めを果たせたと思っています。

肥料については、リン安(リン酸アンモニウム)は中国の輸出規制のため急きょモロッコからの調達に切り替えました。以前からリン鉱石での取引があったため緊急調達ができたのです。塩化加里(塩化カリウム)も、ロシアからの調達分を埋めるためカナダのカンポテックス社等に増量を要請し、応えていただきました。尿素については、長期契約を行っているマレーシアのペトロナス社から安定的に調達することができました。

作山 全農の取り組みもあって5月までは輸入量が確保できたと報道されていますが、それ以降の見通しはどうですか。

野口 6月以降も計画的な調達を確保しており、秋需要で供給不安が起こるようなことはありません。生産者、組合員から積み上げていただいた予約数量は守らなければなりません。組合員・生産者の要望に応えていくためには我々だけでは限界もあります。

政府の価格高騰対応には感謝しています。政府に望むことは供給不安を起こさないための備蓄の体制づくりと、資源外交の展開です。武部新農水副大臣にモロッコに行っていただいたり、中村裕之副大臣には全農の乗富副会長と一緒にカナダに飛んでいただくなど、対応いただき感謝しています。

また、必要なこととして、堆肥も含めた国内資源のさらなる活用のための規制・制度の整備があります。

春肥は積立金取り崩し 肥料価格補填の恒久制度を

作山 飼料については備蓄や価格補填(ほてん)の制度が充実している印象があったのですが、肥料ではまったくなかったのですか。

野口 JAグループとしては、肥料協同購入積立金という制度はもっています。JAと県域、全農が一緒になって財源をつくっていて、国際相場の急激な変動があった場合に活用しています。

具体的にいうと今年の春肥にこの制度による対応を行いました。昨年の11月から5月まで、生産者・農家から、「この価格、この数量で」と予約をいただきました。しかし、海外原料価格が急騰しましたので、どうしても今年2月にメーカーからの受け入れ価格を大幅改定しなければならない状況になりました。組合員から事前予約をいただいたものについては供給価格を維持するために、春肥では積立金を取り崩しました。ただ、配合飼料のような国が関与する価格差を補填する制度はまだ肥料にはありません。今後の大きな課題と認識しています。

作山 恒久的な制度の創設を求めていきたいということでしょうか。

野口 そうした制度も必要だと思います。足元の短期的な緊急対策と長期的な制度をどうつくっていくか、課題は二つだと思っています。長期的な制度は息長く、よいものをつくっていく。一方、足元の問題は、肥料コストが大きく上昇する状況ですので、「上昇分の7割補填」などの即効性のある対策が必要です。また、手続きの簡素化も求められています。

持続可能な生産環境へ 消費者の理解も

作山 農家の対応に関する課題はいかがでしょうか。

野口 三つあると思っています。一つは土壌診断をもとにした適正施肥にさらに取り組んでいくことです。全農が持つ全国の土壌分析センターも積極的にご利用していただきたいと思います。二つめは国内地域未利用資源の有効活用、とくに畜産堆肥の利用促進です。
三つ目は生産性の向上をはかることです。ICT技術やドローンの利用なども含め新しい栽培技術・施肥技術の導入も支援していきます。

作山 肥料も飼料も燃料も上がるとなると農産物の価格を上げざるを得ないですよね。それを消費者にどう納得してもらいますか。

野口 全国のJAグループの皆さまからもご意見が多く寄せられています。工業製品のように、販売希望価格を提示する方法もあるのですが、農畜産物は需要と供給で価格が決まっていく面があることも否定できません。最終的には、持続可能な農家経営ができる販売価格にすることだと思います。そのためには実需者、消費者の理解醸成が重要です。私たちの販売チャンネルを通じて実需者への働きかけもしていますし、グループ全体では国消国産のPRをさらに強化していきます。

適正価格の実現と消費拡大は、やはり消費に合わせた商品開発と品目栽培の提案、加えて輸出対策も重要です。商品開発については営業開発部を中心にすすめています。お米についてはパックご飯の普及などに力を入れています。また、拡大が期待されている国産小麦への対応としては日清製粉グループとも提携し、これまでより汎用性の高い小麦の作付け提案をしていきます。輸出については産地リレーの品目を多くし販売強化することで、最終的には生産者の所得向上に寄与していきたいと思います。

当面は輸入頼み 耕畜連携に未利用資源活用も

作山 今までは食料自給率の向上など「生産の確保」ばかりに頭が行き、生産資材の安定供給になかなか目が向いていなかったと思います。食料安全保障にもつながりますね。農産物だと国産への代替がありますが、肥料ではどれだけ国産への代替ができるのでしょう。調達先を代替して量を調達できるのでしょうか、それとも国内での使用量自体を減らしていかなければならないのでしょうか。

野口 あらゆる施策を実施していきます。一つは化学肥料をどうやって低減できるのかです。国内の資源活用では耕畜連携だけではなく、汚泥などの国内の未利用資源の活用もあります。ただ現状のメインは輸入原料に頼らざるをえないですね。

作山 国内資源だけでは限界があると。

野口 その通りですね。様々な技術開発が進められていますが、当面、肥料原料は輸入がメインになると考えています。これまでのサプライヤーとの有効な関係を維持して安定的にやっていくことが大事だと思うのです。

一方、飼料での国内資源の有効活用では、飼料用米だけでなく、宮城県では、今年、飼料用子実トウモロコシの実証も始めています。

作山 トウモロコシを国内で生産というのはコストを考えると夢のような話に思えますけど。

野口 まだまだ大きなコスト差がありますし、生産性向上、水害対策や鳥獣被害の防止など、解決すべき課題が数多くありますが、まずはやってみようということです。米、大豆などを含めた輪作体系のなかでトウモロコシも位置付けてすすめます。

みどり戦略 必然性確信

作山 今回の生産資材やエネルギー価格の高騰は長期的にはみどりの食料システム戦略の方向性と合っていると思いますがどうでしょうか。

野口 今回の危機は国内資源、国内食料を見直す機会になったとも言えます。為替の関係もありますが、私はよく「世界の主要都市の中で、7ドル(約960円)で昼食がとれる都市がどこにあるのか」という話をします。もちろんニューヨークやロンドンはその価格では食べられません。20ドルか25ドル(約3440円)かかります。ところが東京の大手町では7㌦で、しかも椅子に座って食べられます。日本の食は安過ぎるのではないかと感じますね。

今回の地政学的リスクは、輸入に依存した構造を見直すよいきっかけになったと思います。みどりの食料システム戦略の必然性が改めて明らかになったとも言えます。実現に向け新たな技術開発や生産提案など、われわれも大きな役割を果たし、農業者の経営をサポートしていきたいと考えています。

作山 全農の取り組みがよくわかりました。ありがとうございました。

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