農政:迫る食料危機 悲鳴をあげる生産者
【迫る食料危機】耕畜連携の地に怒り 食料の重要性説く教育を 佐々木衛・JAみやぎ登米常務理事2022年9月22日
コロナ禍による消費低迷に加え、ロシアのウクライナへの侵攻などの影響で生産資材の高騰が続いている。米価の低迷も続き、生産現場が存続の危機に直面する中、JAとしてどう向き合い、打開しようとしているのか、JAみやぎ登米の佐々木衛常務理事に寄稿してもらった。
JAみやぎ登米 佐々木衛常務理事
一生懸命取り組んだ農家ほど大打撃
JAみやぎ登米(1998年合併)は「赤とんぼが乱舞する自然環境の復活」を目指し、2003年より「環境保全米づくり運動」にいちはやく取り組んできた。JA合併以前から数えると1996年からとなり四半世紀に及ぶ取り組みでもある。これは、稲作を基幹としながら畜産との耕畜連携による循環型農業への取り組みであり、地域資源を活用することによって、人にも自然環境にも優しい農業へ挑戦しながら、経費の低減にもつながる可能性をも模索し、その米づくりを「環境保全米」と呼び、JAだけではなく、登米市を筆頭に、管内の土地改良区・農業共済組合、農業改良普及センター、産業高校等も含め地域一体となっての取り組みである。消費者の皆さんに、安全・安心でおいしい米を届けたいという一心での取り組みなのだ。
そのような中で、2021(令和3年産米)年産米が大暴落した。米づくりに一生懸命取組んできた農家ほど大打撃を受け谷底に落とされた。価格暴落を防ぐべき取組みに登米市農業再生協議会と一体化して米の作付け調整に取り組んできたにもかかわらず、その努力が水の泡と消えた。玄米一俵(60㎏)当たり1万円を割るような生産者米価は、悪夢を見ているような衝撃を受けた。食糧管理法が消え、1995年に食糧法になってから米価は低下の一途を辿り、生産者の米価は半額以下となったが、資材等で下がったものは無い。いくら経費の節減に努めても、価格低下に追いつかない実態がある。農家は、国策という支援を受けつつ真摯に国民の主食となる「米」の生産に勤しんできた。今、不足感無く毎日ご飯が食べられる現実を国民全体で再考してもらうことができないものか。農家の努力と農地の果たす役割をもっと見つめなおす教育ができないものか大変残念に思うところがある。国産の製品で高品質、安全・安心を求められ、価格が半分以下になった商品を私は知らない。
それにもかかわらず、コロナ禍が長引き消費はさらに減少し、当JA管内でもこの2年間で主食米の生産を面積で約1400ha減産した。それでも米価は暴落したのだ。
JAに入組以来、厳しいという言葉を当たり前のように聞かされ約40年になるが、今思うと、昔の厳しさはどういう厳しさだったのかと不思議な感覚を覚える。厳しいと言っても生産が確保され、地域の生産力に多少でも余力があり、農業後継者が確保されてきた時代。現在は、国策に準じ規模拡大が進んではきたが、農業者が減少し、農業後継者は不足、あるいは後継ぎが地域にいないといった状況を生んでいる。
国の支援超す配合飼料の価格高騰
そういう中で、ウクライナとロシアの戦争が始まった。その影響が農業生産現場にも大きく及ぼし、燃油高騰から始まり、為替変動による円安が更なる価格高を引き起こし、輸入に頼る配合飼料は天井知らずに高騰を続けている。
燃油高騰は、特に冬場の施設園芸、米の収穫時期、畜産の粗飼料生産等には直撃である。施設園芸等における冬季の安定生産には暖房によるコントロールは必須だ。米の収穫期は乾燥という作業に大きく関係する。畜産の作業機には必然である。燃油がなければ機械は動かない。馬力の無い作業機では農作業には適さず、大型機械になればなるほど燃料は必要になる。行政等の支援はあるが十分とは言えない状況でもある。
そして、畜産に大きく影響する飼料の高騰。当地域は、耕畜連携による畜産が盛んな地域でもあり、生産する肉牛の約7割を「仙台牛」が占める。言い換えると、最高級の肉質を誇る仙台牛は登米の代名詞と思って頂いても良い。上質な肉牛を生産するために配合飼料は欠かせないのだが、春先依頼、価格の高騰が止まらない。補填制度により、国の支援は受けているものの価格の上昇はその上を行き、肉牛経営に大きく影響が出てきている。肉牛の販売価格は飼料高騰をカバーできる状況にないため経営を圧迫し、繁殖牛経営への影響が懸念される。要するに、肉牛が儲からないと子牛を高く買えないため、全体が意気消沈傾向の懸念がある。これまでは、米価が下がっても畜産でカバー、あるいは園芸でカバーということもできたが、生産費だけが上昇しては、部門間相互扶助も成立しなくなり、経営環境は厳しい。
生産者にはあたりどこの無い怒り
さらに、肥料の高騰である。ウクライナ紛争により原料の収奪競争がおき、原料価格が高騰し、これまでにない肥料の価格上昇という状況を引き起こしている。化学肥料の原料を輸入に頼っている日本においては、国際環境による影響をもろに受けることから、現状では原料コストの上昇は避けられない。今回の肥料価格の上昇はこれまでにない上昇率だ。
当地域は稲作と畜産からなる地域的耕畜連携が基軸の農業経営となっているが、コロナ禍によって沈滞ムードが漂う中、このような資材価格の高騰は生産者にとってあたりどこの無い怒りがこみ上げる。
8月の日本農業新聞に、農水省の2021年の農業物価指数の確報公表の記事があった。それによると、15年を100とした指数で生産資材は106.9となり、前年より5%上昇。統計が残る1951年以降で最も高い。一方、農産物は107.9で同2.8%下がった。資材価格が高騰しても、農産物の価格に適切に反映できていない農業者の厳しい実態が改めて浮き彫りになったというものである。2021年なので今回の肥料高騰以前と思うが、5%資材が上昇して2.8%農産物が下がったのだから、実質7.8%となる。その数字に今回の上昇分は含まれていないようだ。販売価格に転嫁できない状況下では、ますます農家の経営はじり貧になりかねず不安だけが大きくなる。
耕畜連携に取り組み、化学肥料節減栽培を実践している当地域においても、必要以上の化学肥料の削減は作物の品質、収量を低下させることにつながる危険がある。急激な有機栽培への転換でこれまで同様に生産することは、ほぼ不可能と言っても良い。転換していくためには、それなりの時間とプロセスが必要なのだ。土は生き物である。
食料安保が一過性なら国家存亡の危機
このような環境下に今の農業はおかれ、日本の食糧自給率は37%という。この数字が素直に見て高いという人がいるだろうか。先進国の中で最低の食糧自給率であり、自国で自国民の食料を賄えない国が「日本」という国の現実である。そして、コロナ禍とウクライナ紛争によって明らかになったのは食料だけでなく、車や電化製品等も国内で賄えていないという現実であり、いつの間にか、日本という国は他力本願の国になっていた。食料自給率の低さは常に感じていたが、これが先進国「日本」の姿でいいのだろうか。
今回のロシア・ウクライナの紛争は対岸の火事とは言えない。近頃、食料安保(食糧安全保障)という声が少し大きくなってきたように感じる。しかし、これが一過性のものであるとしたならば、それこそ、国家存亡の危機といっても過言ではないだろう。食糧自給率37%という現実を国民全体で共有することが肝要ではないだろうか。やはり、人が生き文明を維持するためには、食料と自然は大切な財産なのである。
食料生産は、今日○○不足だから3日後まで○○増産しろと言われてもできるものではない。生産する農業者がいなければならない。そして、食料を作れる土地が維持されていなければならない。さらに、食料を安定供給するためには生産資材は必須である。これらが常にそろっていなければ、食料を安定的に生産し供給することができないのだ。あと一つ、農業は「自然を相手にしなければいけない職業」だということを消費者の皆さんには是非ご理解を頂きたいのである。
当地域においては、農業は管内の基幹産業である。農業の盛衰は、地域の活性化に大きく影響する。コロナ禍、燃油高騰、飼料・肥料等生産資材の高騰と立て続けに大砲に打たれている中にあっても、生産者は、消費地においしい農産物を安定生産するために炎天下の中、一生懸命汗をかいている。
食料の重要性を説き育てる教育が重要
今頑張っている生産者が笑顔を取り戻し、自信と誇りを持って取り組む農業でなければ、そのような環境をつくらなければ次代の担い手は育たない。今取り組んでいる生産者が良い環境になれば必ず後継者は育ち地域農業は維持される。そのためには、食料の重要性を説き育てる教育が大変重要と思う。幼児教育から食料の重要性を説く教育に国全体として力を入れていただきたい。今すぐ改善させることは困難であると思うが、おいしい食料を作るのに時間がかかるのと同じで、未来の担い手に説き育てるにはそれなりの時間を要する。そして、自分自身の課題として食料について考える人を一人でも多く育ててほしい。食料生産は、経済的価値観だけでは図れない。農地の果たす役割も含め、是非、国策としての本来の食料生産について食料安保の観点からも良く検討して頂くことを願う。
JAはこれまでも地域とともに、地域の農業者と一緒に地域と営農の改善・発展に努めてきたが、これからもその取り組みが変わることは無い。地域農業とJAはこれからも常に一体なのだ。昔から「継続は力なり」というが、農家はこれまでも幾多の困難を乗り越え、自然と闘いながら農地を切り開き、国民の食料生産のために、食べてくれる人の笑顔を励みに「継続」して取り組んできた。農家の戦いはこれからも続く。消費者の皆さんが安心して食べられる食料の安定供給を目指して。
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