農政:今こそ 食料自給「国消 国産」 いかそう 人と大地
【今こそ食料自給・国消国産】地産地消推進へ多様な連携が全国一の産直市場生み出す JA糸島2022年9月30日
ロシアのウクライナ侵攻や急激な円安などは「迫る食料危機 日本をどう守る」という危機感をもたらしている。特集「今こそ 食料自給 『国消国産』 いかそう 人と大地」のテーマをまさに実践している福岡県糸島市にある地産地消の拠点「伊都菜彩」について、直販課長の高橋悟志さんに伺った。(取材・髙武孝充元JA福岡中央会部長)
JA糸島産直市場「伊都菜彩」
「輝く小さな街」世界ランク第3位の「糸島市」
英国を拠点にした世界的な情報誌『MONOCLE(モノクル)』が、人口25万人未満の街を対象とする『輝く小さな街』2021年ランキングで、糸島市を世界第3位に選んだ。糸島市は福岡市と佐賀県唐津市に接する人口10万2936人(22年4月時点)の都市で、昔から「山紫水明」の地と呼ばれ第一次産業を中心としたところである。モノクル第3位に選ばれた大きな根拠がこの点にある。
「JA糸島は合併以来60年間、第一次産業をリード」
JA糸島は、1962(昭和37)年11月に当時の糸島管内の14農協と2連合会による広域合併により、行政区域を超えた全国最初の1郡1農協として誕生以来60年の歴史がある。19年12月中国・武漢で発生し世界中に広がった新型コロナ禍の下でも、毎年販売品販売高100億円以上を達成している。多くの専門部会がある中で、特筆すべきは、1976(昭和51)年に設立された全国稲作経営者会議(25県の組織会員、準会員1組織)の傘下にある福岡県稲作経営者協議会設立のきっかけとなった、1985(昭和60)年12月にJA糸島を事務局として設立された糸島稲作経営研究会である。全国でもJAが事務局として世話をしているのはJA糸島のみであり、2014(平成16)年には30年史「糸島稲作経営研鑽の軌跡」を出版している。コロナ禍で落ち込んではいるもののJA糸島の販売高102・5億円(21年度)のうち「伊都菜彩」が41億円(40%)を占めている。
JA糸島直営の地産地消拠点「伊都菜彩」
JA糸島の直売所構想は、1995(平成7)年に策定された「ロマン溢れる糸島農業」の中で頭出しされている。その後、03(平成15)年に策定された「生命産業をめざす糸島農業」が直売所建設に拍車をかけ、JA糸島直営の直売所「伊都菜彩」は、07(平成19)年4月に設立された。実に12年の歳月をかけ設置場所、商圏調査などを綿密に調査したうえでの直売所だ。そのコンセプトは以下の言葉に要約され「伊都菜彩」の入り口正面の天井に掲載されている。
糸島産を表すマーク
『語りたいことが、いっぱいあります。糸島を愛するみんなの温かなこころ、糸島の大地での農業への情熱、信頼を守ること、お客様にいただく歓び。どれだけ語っても、言い尽くすことのない想い。それを、私たちはブランドという上手な言葉で伝えるのは苦手です。だから昔、糸島産を表すこのマークは私たちの静かで熱い誇りでした。糸島を心から愛し、しっかりと大地を踏みしめながら営々と、農業一筋に生き抜いてきた。そんな糸島の生産者が育んだ恵みをみなさまにお届けするため、「伊都菜彩」は生まれました。採れたての新鮮なおいしさに、私たちが伝えたい「糸島産」の全てがそのままいっぱい詰まっています。』
JA糸島 髙橋悟志直販課長
JA糸島の本店には、中国を語源とする「身土不二」の看板がたてられている。高橋課長曰く「伊都菜彩」運営の強化のために、以下のような取り組みを進めている。
①売り場での品切れ防止のため、売上速報メールの配信、バックヤードに掲示そして出荷促進及び時期的な不足・問い合わせのある情報を伝え作付け拡大を図っている。
②出荷者の維持・拡大のために営農部署などとの連絡を密にし、現在の出荷者は1532人を確保している。
③食品事業者(福岡市を含む)への供給拡大のため、糸島市が認めた「地産地消応援団」加入事業者などへの売上げは3898万円(21年度:対前年比144%)となった。また、「伊都菜彩」へ来店できないお客様・飲食店への宅配・代金決済の活用により868件、ECサイト販売を令和3年12月1日に開始し148件に留まったが、このシステムは販路拡大の可能性がある。
④6次産業化への取り組みとして、糸島産小麦・ミディトマト・糸島みるくぷらんとのチーズを使用した冷凍ピザ、JA女性部と連携して甘酒ジェラートを商品化した。6次化商品全体で3155万円の売上げ実績であった。6次化商品売上のうち、糸島産小麦100%使用したラーメンとうどんで1800万円を占めている。
また、JA女性部との連携で子ども食堂や九州大学生への「食」の支援「糸島市フードパントリー」を月に数回行っている。お礼の手紙も紹介したいが紙面の関係で割愛する。さらにユニークな取り組みは、令和4年1月から始めた来店できない高齢者のために買物代行業者との連携である。福岡市をも含めて徐々に増えてきているそうだ。こうした産直市場「伊都菜彩」、言い換えれば「地産地消」推進のための日々の努力が多様な出荷品の維持・拡大及び糸島市との連携、さらには糸島市内外の食品業者、飲食店等々との意識を共有し、JA糸島産直市場「伊都菜彩」が全国1位の売上げを維持していることは今更言うまでもない。
「糸島市とJA糸島とは表裏一体」 市がコメ162トンを買い上げへ
新型コロナが拡大し、とりわけ全国的に小・中学校、高校が休校される中で農産物の販路が縮小した。JA糸島は20年産米概算金を据え置いたものの、21年産米概算金は引き下げざるを得なかった。加えて、21年産米はコメ余りで在庫が膨らんでいる。22(令和4)年9月、糸島市は162トンを買い上げ、家畜飼料用、生活困窮世帯や子ども食堂などへの支援米として活用する方針である。
糸島市と推進する地産地消
糸島市「農力を育む基本計画」(22年8月)の地産地消推進によれば、「地域食材の利用促進、PR 、糸島市直売所ネットワーク会議による直売所間の連携や機能拡充する事業に対し直売所活性化事業により助成を行い18 直売所の売上向上を図ることで地域食材の利用促進に努める」とある。
具体化の一つは、「糸島市学校給食地産地消推進検討会議」を設置し、学校給食のオーダーに応えられる生産者グループや直売所と連携した流通システムを検討するなど、地産地消率の向上や食育の推進。
二つは、市内の地産地消に賛同する飲食店などで糸島市が認めた「地産地消応援団」に加入した店舗数は118 店(令和2年3月末)に増加し、市内農畜産物の地産地消に協力いただいているが、市内の協力店舗 の更なる掘り起こしが必要。
三つは、今後の取組の方向性として ①学校給食の他、保健福祉施設、飲食店、食品加工事業者、宿泊施設などでの糸島産食材の利用促進。②直売所の魅力を向上する取組により集客数を増やし、地域食材の更なる利用促進。③直売所が地産地消の情報発信拠点となるような仕組みを検討。④生産者グループの担い手不足の解消。
四つは、主な取組として、「地産地消応援団」の加入拡大及び加入店舗のPRの実施 ・直売所間の連携・協力体制の構築及び直売所活性化事業の実施 ・地域食材の消費を促すための情報の発信 ・学校給食への地域の食材の納入をさらに進めるための流通システムの構築 ・学校給食に納入する生産者、生産者グループ、直売所18か所から40か所へ育成。
五つは、数値目標として、現状売上高(令和元年)62億円を令和7年65億円、糸島産農林水産物を購入している市民の割合73.1%を78.0%へ向上。
髙武孝充・元JA福岡中央会部長
(取材を終えて)新型コロナ禍の影響よる売上げ減少、またロシアのウクライナ侵攻、円安の影響による消費の落ち込みに屈することなく、関係機関や関係部署との積極的な連携で、もの静かに見える高橋悟志課長からはJA糸島産直市場「伊都菜彩」へのゆるぎない拡大意欲への確かな手ごたえと行政の視野を超えた産直に携わる喜びを感じた。また、糸島市「農力を育む基本計画」は市役所主査の岡本由貴氏に教えていただいた。感謝致します。(髙武孝充)
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