農政:今こそ 食料自給「国消 国産」 いかそう 人と大地
【今こそ食料自給・国消国産】国産農畜産物PRをより深化 農家と日本の食守る(2)JA全農・菅野幸雄会長に聞く2022年10月7日
(国産農畜産物PRをより深化 農家と日本の食守る(1)JA全農・菅野幸雄会長に聞く)から
日本の農業支える意識は消費者にも 食農教育も重視
姉歯 国消国産の中で、消費者の役割についてはどう考えたらいいでしょうか。以前、イギリスにいたときにスーパーで並ぶ農産物は、イギリス産だけ「セーブブリティッシュフーズ(イギリスの食料(生産)を守ろう)」というシールが貼ってあって、商品を手にするたびにあなたは国産を選ぶかどうかが確認させられました。むしろ日本はおとなしいというか、日本の農業をあなたたちは救わなければいけないと強く消費者に訴えかけるものはなかったように思えます。
菅野 原産地など表示の問題はだいぶ改善していますし、消費者の皆さんにも結構見ていただいているとは思います。やはり日本産の農畜産物については、自国の産業といいますか国民の皆さんに食べていただくために作っていますから。興味は持ってほしいと思います。
それと食農教育も重視し、工夫しながら長く取り組んでいます。例えば食べ物への意識が高くなる小学4年生あたりになると、愛媛の場合、保護者も一緒に3台のバスに分かれ、 1台は果樹園、1台は選果場、もう1台は直売所に行ってお昼はソムリエが食材を説明してから食事をします。地域に応じたこうした取り組みを全農も支援していますし、将来のお母さんや消費者になる子どもたちに、少しでも農業の現状やおいしい料理の仕方などを伝えて農業への理解を深めてほしいと思っています。
姉歯 子供たちの話が出ましたけど、給食現場でもだいぶJAが国産のものを提供するようになっていますね。子供たちに安全安心を提供するとともに、食農教育に繋がる点は非常に大きいと思います。国消国産を進めるうえで学校給食も含めて攻めの姿勢で展開すると考えてよろしいですか。
菅野 その通りです。学校給食で、例えばこの地域のニンジン作りのうまい人のニンジンを入れてもらうとか、これは地産地消ですが、大きい意味で国消国産にもつながると思います。それと子供の貧困の問題もありますが、様々な経済状況のご家庭のお子さんがクラスにいても給食は皆、公平なんですね。同じものを食べて同じ味を味わうという非常にいいシステムだと思います。農産物を知っていただくうえで学校給食は農業者にとっても重要だと考えています。
牛乳の廃棄回避へ 酪農家の窮地支えた商品開発と国民理解
姉歯 国産のものに親しんで国内の農業を支える意識を消費者に持ってほしい気持ちは全く同感です。一方で賃金の低迷や、コロナでかなり落ち込んだとはいえ外食化率が結構高いなど、食を取り巻く環境は厳しくなっていて、経済的に国産に目を向くほど余裕のある消費者層が極めて少なく、国産に興味はあっても買って家で調理する時間もない。買い物に行く時間も限られてコンビニで食べ物や食材を売っている時代です。
菅野 食を取り巻く環境が以前と違う中で、国民理解を醸成することの難しさはあると思います。こうした中で全農として国産農畜産物の消費拡大に取り組んでいます。例えば昨年末に牛乳50%を使ったミルクティーとカフェ・オレを販売しました。背景には学校が冬休みで給食がなくなり、5000トン位の牛乳が廃棄されるおそれが生じたことがありました。そこで全農みずから牛乳を使用した商品を開発しました。スーパーの皆さんも特売を組んでくれましたし、国民の皆さんの理解もありました。そのおかげで、酪農家も窮地を乗り越えることができました。国民の皆さんに協力していただいた、これは非常にありがたいと思っています。
国産農畜産物の魅力PR さらに深化を
姉歯 実は私は農産物などが目の前にないと消費者は選べないので「国消国産」より、むしろ「国産国消」なのではないかと思っていましたが、国消の意味が分かりました。その国消を推進して理解を深めるため、生産者と消費者との間を繋げるような商品づくりと、アピールを行っていくということですね。
菅野 それぞれの産地に素晴らしい農畜産物がありますから、それをPRして販売することはもちろんですけど、全農はそれをさらに加工食品化することを通して産地とそれに関係する業者の方や消費者をつなぐ関係ができます。農家の方と消費者のつながりに加え、こうした3者の繋がり、全農も入ると4者がそろった中で、様々な国産農畜産物の魅力のPRができると思いますし、今後も深化していきたいと思います。
(インタビューを終えて)
姉歯暁 駒澤大学教授
ナショナリズムが台頭し、再びグローバルサウスの問題が衆目を集める中での「国消国産」の語感には違和感があった。だからこそ、菅野会長の「一国主義ではダメ」とのメッセージ、増大する世界的飢餓、毎日の食にアクセスできない国内の貧困に対して「農家」「農村」とJ Aが果たすべき機能に言及し、これらを含めた多面的機能の担い手である農家を支えるための理解をとの大事なメッセージがもっと伝わればとの思いを強く持ちつつインタビューを終えた。(姉歯暁)
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