農政:今こそ 食料自給「国消 国産」 いかそう 人と大地
【今こそ食料自給・国消国産 座談会】野村農相らが農業の展望語る 「今年は日本農政のターニングポイント」(1)2022年10月17日
8月に発足した第二次岸田改造内閣で就任した野村哲郎農相は9月29日に食料・農業・農村政策審議会に現行基本法の検証と見直しについて諮問を行った。就任以来、今年は農政のターニングポイントになると強調する野村哲郎農相と、JA鹿児島きもつきの下小野田寛組合長、谷口信和東大名誉教授に、日本農業の課題と今後の展望を語り合ってもらった。
(出席者)
農林水産大臣 野村哲郎氏
JA鹿児島きもつき代表理事組合長 下小野田寛氏
東京大学名誉教授 谷口信和氏
稲盛語録に学ぶ
谷口 鹿児島出身の稲盛和夫さんは「100年に一度の機会を無駄にしてはならない」と言っています。機会を「危機」と読み替えればまさに今、この危機を無駄にしてはいけないと思います。
危機を生かすことがなぜできるかといえば、そのとき人々は真剣になるからです。誰もかれもが何とかしないといけないと真剣になる。
今回は2つの問題が大きいと思います。1つは地球温暖化、気候危機です。この問題に対応してCО2削減の問題をどう考えていくか。これは今後ずっと続く問題で、常に考えていかなくてはなりません。
もう1つはウクライナ戦争前から進行していた危機が激化したものです。戦争によって燃油、飼料、肥料、電力など生産資材のすべてが高騰し、経済成長の鈍化が深刻です。農業については生産資材高騰などで入口も大変ですし、需要減退によって出口も大変です。まさに100年に一度という言葉がふさわしい時期です。
そこでまず今の日本農業の危機をどう捉えたらいいかについてお話ください。
農林水産大臣 野村哲郎氏
野村 9月29日に食料・農業・農村政策審議会(以下、審議会)を開き、食料・農業・農村基本法(以下、「基本法」)の見直しを諮問しました。基本法ができて20年以上になります。
その中身を見ていきますとこのご時世に合致していないといいますか、矛盾がいくつかあります。それは世の中が変わってきたし、日本の立ち位置も変わってきたからで、これからの農業、5年後、10年後の日本農業の姿を想定しながら議論をしていただきたいと審議会にお願いしました。
私は大臣就任時から今年はターニングポイントになると言っています。日本農業を変えていかなければならないということです。
日本の食料が大変な時期を迎えるということであり、可能な限り国内にある資源を活用して食料生産をやっていかなければならないと思います。輸入すればいいという考えはとてもではないが、そうはいかないということも申し上げています。
審議会で農業者の委員の方は、もう農業は崩壊してしまうかもしれないとまで言っていましたが、そうなっては困ってしまいますから基本法の見直しを進めようということをお願いしたわけです。
参議院選挙のときに私は2つのことを訴えました。1つは食料安全保障をどうしても確立していかなければならないということです。そして食料安全保障は農業者だけの問題ではなく、消費者の問題でもあるということです。
これを訴える中で驚いたのが、歯科医師会のみなさんとの意見交換で食料安全保障のことを話すと、日本の食料はこんな状態に置かれているんですか、と目の色が変わったんです。私はこれは農業者の問題ではなくて消費者の問題だと強調しましたが、みなさんに真剣に考えてもらえると実感しました。
深刻な生産資材価格高騰
谷口 生産現場ではどんな思いがありますか。
下小野田 昨日も農家のみなさんと意見交換しました。本当に悲痛な叫び、思いです。まだこれから生産資材価格が上がっていく。国の肥料や飼料に対する対策に農家のみなさんは感謝していますが、ただ、ここで終わるのだろうか、まだまだ値上がりが続くのではないかと心配しています。
農家のみなさんの意欲の喪失に対する危機と言いますか、みな不安がいっぱいです。JAとしては何としてもみなさんの意欲をつなぎとめる、不安を1つでも取り除いていけるようにJAとしても対策を打ちます。農家にいちばん身近なわれわれが危機感を持って対応しなければならないと考えており、先日も理事会で対策をまとめ上げました。
これからいかに消費者、国民のみなさんに農家の危機、農業の危機を伝えていくか、われわれも一緒にやらなければいけないと考えています。今回は農家の危機だけでは終わらず、国民の危機につながっていくんだということをわれわれは現場から発信していきたいと思います。
そのためには多くの国民のみなさんに農業の現場、生産の現場をぜひ見ていただきたい。農家のみなさんがどういう思いで作っておられるのかを目の当たりにしていただければありがたいという思いです。
谷口 生産資材価格の高騰問題では、これまでの規模拡大と法人化という農政路線の枠組みであまり想定していなかった危機が現れているのではないか。というのは大規模な経営は資材を大量に買うからコストダウンできるはずですが、その資材は外国に依存しているものが多くなっていて、今回の危機では大規模経営ほど厳しくなっているのではないかと考えられるからです。
ということは今までのいろいろな考え方を総反省しなればならない時期に到達しているのではないでしょうか。まさにターニングポイントにあると思いますが、いかがですか。
錦の御旗ではない規模拡大と法人化
野村 20年前に制定した基本法を読むと、これから先は規模拡大し法人化をどんどん進めないといけないという考えでした。というのは農家人口が減っていくので、余った農地をどうするのかということになりますから、どんどん専業農家を、しかも法人や、非常に規模を拡大した経営を耕種でも畜産でも作っていこうということでした。
しかし、規模拡大した農家が今大変苦しんでいます。審議会でも、農業者の委員から、これだけ規模拡大を進めてきたけれども人手も足りない、この先どうなるのかという声が聞かれました。集落の農地のほとんどはその人が引き受けているということですが、集落から人がいなくなってしまって、残っているのは法人化したその経営者だけだということでした。
規模拡大してコスト低減を図り収益を伸ばす、というのが20年前の基本法で描いた姿だったと思います。なかなかそうはいかなかった。農産物価格の低迷に加えて、資材価格の問題もあるし、そしてマンパワーの問題もある。
私はJA出身ですからやはり家族経営がいちばん必要だとずっと言ってはいましたが、今、それが立証されたようなことになっているのではないかと思います。規模拡大した法人や、家族経営でも認定農業者として大規模に経営している人もいて、それはそれとして今後も経営をやっていただかなければなりません。
今、苦しいのは畜産でいえば酪農だと思います。私はいつも言っているのは、身の丈に合った経営をやってきましたか、ということです。国の補助事業を使って施設を大きくし牛を増やし、一方では草地はつくらないで乾牧草を外国から購入し、大規模化を進めている人もいたんです。
その人たちが今、乾牧草が高いので何とか国で支援してくれないかという話をよく聞きました。
輸入乾牧草の価格は今は倍近くになっています。そこでやはり牧草をつくらなければいけないということがようやく分かってきた。やはり草地をしっかりつくってそれに見合う牛を飼うというのがスタンダードなやり方だったわけですが、逆に牛を増やして後から牧草地を拡大していくという後追いになっています。
重大な転換となる基本法見直し
野村 規模拡大、規模拡大、で来た20年ですが、その農家に合った経営規模だったのかということを考えなければならないと思います。国の補助事業もあわせて見直していかなければならないと思っています。
谷口 今のお話は、決して一方的に農林水産省が悪い、政府が悪いということだけではなくて農業生産者もそれに乗ったところもあるということですね。生産者だからこそ分かる課題もあったはずで、それをもっと問題提起して政策の中身を変える努力が少し足りなかった面もなくはないということでしょうか。
JA鹿児島きもつき代表理事組合長 下小野田寛氏
下小野田 われわれの地域でも園芸農産、畜産で大規模化、法人化が進んでいます。
その一つの課題には人手不足があります。人手がいないのでこれ以上増やせない、大きくできないという切実な声があります。
一方、大規模経営がいちばん厳しいと思うのは販売単価が下がっていることです。この価格が安定していれば、コストをコントロールしてなんとか収益が出るんでしょうが、コストをいくら抑えても販売単価が下がっているものですから経営が苦しくなっている。販売単価が安定すれば大規模化のメリットはまだまだ生かせると思いますが。
やはり自給率を上げていくことを含め、政策としても販売単価を安定化してもらえば、まだ大規模化は進められると思います。
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