農政:今こそ 食料自給「国消 国産」 いかそう 人と大地
【今こそ食料自給・国消国産 座談会】野村農相らが農業の展望語る 「今年は日本農政のターニングポイント」(2)2022年10月17日
野村農相らが農業の展望語る 「今年は日本農政のターニングポイント」(1)から続く
(出席者)
農林水産大臣 野村哲郎氏
JA鹿児島きもつき代表理事組合長 下小野田寛氏
東京大学名誉教授 谷口信和氏
身の丈に合った経営の重要性
谷口 生産資材価格の高騰が小規模な農家にも影響を与えているのは大規模な経営と同じですから、私は大規模か、小規模かということばかりを議論するのはあまり意味がなく、農業は地域ごとに違いがあり、それぞれで何を伸ばしていくかということを考えるべきだと思います。問題なのは日本全体が一つの方向だけに行き過ぎてしまったことにあると思います。いかがでしょうか。
野村 先日、福島県の復興の状況を視察に行きました。まだ相当の農地が耕作されていない状態でしたが、そこで設立された法人で農業大学校や農業高校出身の若者が8人働いていました。
その若者たちと意見交換をしましたが、みんなこの法人で勉強したことをもとに将来的には独立したいと言っていました。多くの住人は地域外に出ていってしまっていますから、経営者の方はわれわれが地域の農業を守らなければいけないと思うから、この法人を拡大していきたいとも言っていました。最終的には500haにしたいそうです。
私はここは教育の場だと思いました。どんどん若者を受け入れて今は114haを経営しています。無人のトラクターを使うなど、いわゆるスマート農業そのものを実践していました。経営能力もあるし、そこで働く若者が生き生きとしています。
だから大規模だからだめだ、ということではありません。私が身の丈に合ったといっているのは、その人の能力やマンパワーに合っているかということです。
その法人のように規模を拡大していく人もいるし、そこから巣立った若者は最初は規模は小さいものの、きちんと農業をやっていくでしょう。福島の農業復興の先駆者になってほしいと激励してきました。
ああいう姿を見ているとやはり農業というのは捨てたものじゃない、若い人たちが福島の農業を興していくんだという気持ちを持っているところが素晴らしいなと本当に思いました。
それから審議会ではこんな話も出ました。果樹園経営の委員でしたが、今までにない現象が起きているというんです。これまで自分たちの法人に雇ってほしいという人はあまり来なかったが、今年は農業大学校を出た人やサラリーマンを辞めた人などが8人も訪ねてきてくれたということでした。
農業の魅力を感じている人たちも増えてきているということです。
チームジャパンをめざして地域から
谷口 現場からは農政に何を求めますか。
下小野田 今の危機を乗り越えるためには、国、県、地域、あるいは消費者がそれぞれ役割分担をして取り組む必要があると思います。
国にぜひともお願いしたいのはやはり輸入原料です。飼料にしても肥料にしてもそれがなくては生産現場は立ち行かないです。すべてを自前でまかなうことはできませんので、国にお願いしたいのは輸入原料をしっかり確保する手当をしていただきたい、ということです。
われわれの地域は畜産が盛んな県ですから、畜産の副産物をいかに生かして耕種部門と連携していくかということだと思います。地域内資源をいかに有効活用するかということで、たとえばでん粉工場から出たでん粉かすと青刈り稲と混ぜてTМRとしてJAの子会社農場の母牛1800頭のエサとして使っています。この取り組みはもう10年ほど経っています。
水田を活用して青刈り稲を作っていただく生産者とJA、子会社農場が連携をしており、こうしたことをもっと増やしていかなければいけないと思っています。
JAは農業生産法人を3つ経営していますが、それによって農家のみなさんをサポートしたり、農家の後継者の方々に働いていただいて経験を積み、いずれは後継者になってもらうということにつなげていきたいと考えています。
これも地域農業の基盤を落とさない工夫の一つです。ここに消費者も加わって国産農産物を食べて応援するといった、いわばチームとして取り組んでいけば日本の農業ももっといろいろな展開ができるのではないかと考えています。
食料安保とみどり戦略のドッキング
谷口 食料安全保障の問題は、これを単独で捉えるのではなく、みどりの食料システム戦略の枠組みのなかで考えなければいけないと思います。今までと局面が変わっているわけですが、どうお考えですか。
野村 最初にみどりの食料システム戦略を農水省が打ち出したときに、こんなことができるのかと思いました。特に有機農業を100万haにするという数字を挙げても絵空事ではないかと。その後は、自分の考え方は古かったのかと思いました。
鹿児島の場合は畜産のふん尿で肥料を作り始めました。豚糞、牛糞、鶏糞でペレットにして使いやすくして今年の秋肥から販売します。地元にあるものを使えばコスト削減にもなります。
それから地域にあるものといえば米です。この米には、すでに麺用の米、パン用の米という品種があります。飼料用の米はすでにあるわけですから、水田では主食用以外にパン用、麺用、飼料用をそれぞれの専用品種で作ってもらうということが大事ではないかということです。
今までは、水田で主食用以外の他のものを作れば交付金が出るということでしたが、今年は主食用、今年は飼料用米と安定しない。農家の心理としては分かりますが、やはりここは麺に向いた米を植えよう、ここはパンに向いた米を植えようという形で契約栽培ができるような取り組みでないと水田の交付金は出さないというぐらいのことをだんだんと決めていかないとならないと思っています。
下小野田 われわれはやはり和牛をきちんと守り育て、これを輸出の大きな柱にしていくということが大事だと思います。3年前にオーストラリアに行きました。昔、和牛の遺伝子が流出したことがありましたが、実際にWAGYUという牛を見せてもらいました。WAGYUは小さい牛で、日本の状況をオーナーに話すとびっくりしていました。「900キロから1トンにもなるんだ」、と。
これから和牛の強みが発揮されるのではないか。サシが入る、増体がいい、味もいいというこの三拍子がそろえば世界では絶対に負けないと思います。
国消国産と耕畜連携
谷口 地産地消、国消国産が大事ですが、基本は耕畜連携だと思います。これが日本農業に欠けている最大のウィークポイントだからです。これが実現すればその段階で大規模な経営から小規模な農家までさまざまな経営が地域農業に参加して経済を回していく仕組みに変わっていくことができるのではないかと思います。
野村 現行の基本法でいくと規模拡大ということになるわけですが、やはり国内に目を向けて、国内にあるものを活用しようということだと思います。瑞穂の国ですから米だと思いますが、それを先ほど申し上げたように、麺やパンに向いた品種も作っていく。そういうかたちで、国内で食料を何とか確保しようということです。それをやっていかないと食料不足が生じてくるのではないかと思います。
すでに水田の4割は米を作っていないわけですし、水もあれば技術もある農家は多いわけです。まだまだ本当にいろいろなことがやれると思います。
下小野田 一方で鹿児島は中山間地域が多いです。そういうなかでいろいろな地域で家族経営で牛を育てています。へき地でも牛であれば成り立つ。そうすると草を作りますから遊休農地があまり出てこないということになります。
家族経営でそれぞれの地域で回しながら、なんとかやっていける。ですから地域政策としても和牛は大事なのではないかと思っています。
谷口 地域の条件をどう生かすかということが最も大事だと思います。
野村 みなさんのお話を聞いて改めて思うのは、現状の統計的な数字を見れば高齢化が進み厳しい現状が示されていますが、自分の地域を考えるとがんばっている農家が残っています。
畜産では農水省が繁殖雌牛の増頭を進めていますが、鹿児島のなかでいちばん増えているのが奄美群島です。島です。草があれば繁殖雌牛は飼うことができますから、条件のよくない島でもそれならできると目をつけた。ほかにサトウキビとじゃがいもです。その3本柱で夢の島になっている、と私は言っています。
下小野田 現場は非常に厳しいですが、今のような力強いメッセージをお願いします。
野村 そうしましょうよ。とにかく暗い話ばかりではだめですから。
谷口 本日はとても元気がでるようなお話が聞けたように思います。本当にありがとうございました。
【座談会を終えて】
東京大学名誉教授
谷口信和氏
▼現場を知悉した農林水産大臣誕生への期待は"はちきれんばかりに"大きかったが、その期待に見事に応えて下さった座談会▼規模拡大・法人化か家族経営か、という長年のやりきれない"空中戦の論争"に"身の丈にあった経営"という、何とも洒脱な決着をつけた野村大臣のセンスに脱帽▼現場実態に深く根ざし、農業生産者の目線に立つ一方、食料産業関係者から消費者までの心を理解する地域農業のリーダー下小野田氏が農協組合長であることに鹿児島農業躍進の謎の一つが氷解▼座談会で示された"初心"が貫かれれば、食料安保とみどり戦略を包含するような基本法の抜本的な見直しも決して不可能ではないとの微かな期待が膨らんだ
(谷口信和)
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