農政:今こそ 食料自給「国消 国産」 いかそう 人と大地
【今こそ食料自給・国消国産】世界の食料需給から我々が問われるもの(1)宮城大学・三石誠司教授2022年10月18日
世界的な食料危機が叫ばれる中、食料自給率が38%に低迷するわが国の「国消国産」について考えるシリーズ。世界の食料需給について詳しく分析している宮城大学・三石誠司教授に、「食」への危機感が拡大する中、われわれにはどんな意識改革、行動が求められるのか、寄稿してもらった。
食品価格の上昇とともに、世界の食料需給への関心が高まっている。「食料安全保障(フ―ド・セキュリティ)」という言葉も脚光を浴び始めたようだ。忘れ去られるよりは関心を持たれた方が良いが、この問題は流行り廃りのトピックスとしてではなく、しっかりと正面から取り組むべき課題である。
OECD/FAO報告は断固たる決意表明か、無理宣言か
2022年7月、OECDとFAOは合同で2022-2031年までの農業観測を公表した。内容は、不確実性を伴う複数の前提のもと今後10年間の世界の食料需給の見通しである。より具体的には、1)昨今注目されているSDGs(持続可能な開発目標)17項目の第2項「飢餓の撲滅(Zero Hunger)」を達成し、2)2030年までに温室効果ガス(GHG)を大幅に削減させ「パリ協定」の目標を達成させる、そのために報告書の総論に相当する第1章ではシナリオ分析の手法を元に、何がどの程度必要かということを検討している。
結論はこうだ。現在の傾向(business-as-usual path)が継続すると、2030年までに「飢餓の撲滅」は達成されず、農業部門からのGHG排出も増加し続ける、と警鐘を鳴らしている。その上で、先の2目標を達成するためには、2030年までに農業部門は生産性を世界平均で28%増加させる必要があるとしている。
「飢餓の撲滅」の具体的基準として「栄養不足まん延率(PoU)」を2.5%未満に収めること、そのためには低中所得の国々での10%のカロリー摂取増と、低所得の国々での30%のカロリー摂取増が必要とし、GHG削減は農業からの直接排出を6%減少させることなどが試算の前提である。
しかしながら、同報告が示す過去10年間の農作物生産性増加の実績は13%、かつ今後、現行の政治・経済・社会情勢が継続した場合の見通し(ベースライン予測)でも10%に過ぎない。さらに、畜産の生産性増加は途上国を中心に期待できるとはいえ、ベースライン予測は5%である。世界平均で28%増加というのは、実は過去10年を大幅に上回る水準が必要であると報告書自体が明言している。
報告書本文の英語表現「very challenging」を、ほぼ無理と見るか、やるしかないと見るかは人によるであろう。好意的に見れば、現在の流れに任せているだけではなく何かしら他の抜本的対策が必要、というのがロジックである。
その具体的内容は、例えば、GHG排出削減の直接的な規制、食品ロスや廃棄の減少、高所得の各国における動物性食品からの過剰なカロリーとタンパク質の摂取の制限、などとともに、栄養不足の人々に対する社会的なセーフティ・ネットの構築を通じた食料アクセスの改善や食品配給の仕組みの構築などである。
なお、このシナリオ分析では国際的な食品価格変動は対象としておらず、あくまで穀物や畜産物などの需給面のみ検討している点は注意が必要である。なぜなら需給ひっ迫による価格高騰で被害を受けるのは常に弱者である。現実にはより丁寧な対応が必要ということだ。
また、農業生産性の向上には、大規模な農業投資、イノベーションの促進や、知識、技術、技能の移転を可能にする包括的かつ迅速な行動が早急に求められるとしている。
やや安心できる記述もある。現在急騰している輸送コストは、2022年以降はコロナ以前の水準に戻ると想定している。これが示唆する点は、余り目の前の変化に右往左往するなという程度かもしれないが、若干の安心材料ではある。
仮に、今後の方向性がこの見通しのとおりならば、世界はかなり厳しい状況に直面している。人々が毎日を必死に生きた結果として食料危機が発生し、地球温暖化が進展するということは、やはり我々一人ひとりが意識を転換するタイミングなのであろう。日本の人口は世界の1/80に過ぎないが、それでも現代の日本型食料調達と食生活には見直すべきところがあると考えれば何をすべきかが見えてくる。。
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