農政:今こそ 食料自給「国消 国産」 いかそう 人と大地
【今こそ食料自給・国消国産】JA組合長座談会 国民的課題の自給力 誇りと所得を両輪に(2)2022年10月20日
【出席者】(写真左から)
JAぎふ組合長(岐阜県) 岩佐哲司氏
JAグリーン近江組合長(滋賀県) 大林茂松氏
JA松本ハイランド組合長(長野県) 田中均氏
(司会・進行)文芸アナリスト 大金義昭氏
JA組合長座談会 国民的課題の自給力 誇りと所得を両輪に(1)から続く
食料自給率の向上は農協の役目なのか?
岩佐 食料自給率についてですが「これって農協の仕事?」とふと思ってしまうんです。
消費者が国産ではなく輸入物を選択する。価格が安いから。そういう時、生産者に何ができるか。一つは「卵が1個50円でも、おいしくて安心なのがいいよ」と啓発していくことや、コスト低減することはわれわれの仕事ですが、食料自給率を上げるのが農協の役目だというのはちょっと違うのではないでしょうか。
田中 同感です。
岩佐 私たちは、消費者や事業者、生協などもメンバーになってもらうコンソーシアム(共同事業体)を立ち上げようと考えています。もちろん農家、そして有識者にも意見をもらいます。
その関係で先日、有機・無農薬が大好きな女性と話したのですが、彼女が先日「何で日本には有機が根付かないのか」と聞かれ、「農協があるから」と答えたそうです。私が「ひょっとして農協のことを悪(ワル)だと思っていませんでした?」と聞くと、「昨日までそう思っていました」。そういう誤解も払拭(ふっしょく)したい。きちんとした理解をまず得て、次に農産物を買ってもらい、農業の応援団になっていただく。応援団になった人が准組合員になる。そうなると「准組合員問題」の一つの解決にもなるかなと思っています。
こういう取り組みを通じて、もっと生産力、県の自給率を上げることができるのじゃないかとは思います。
大金 大林さんが紹介する「地域商社」といい、岩佐さんが語る「コンソーシアム」といい、新しい発案と受け止めましたが、「消費者と課題を共有する」といった理念的な訴えではなく、具体的な事業方式を提案し、これを共に実践していくという着想は大いに刺激的ですね。田中さんは、いかがでしょう。
田中 大林さんの地域は正直うらやましいですね。畜産がそれだけあって「耕畜連携」ができる。われわれにも畜産はありますが、30億円程度で年々減っているのが現状です
食料安保は国民マター
JA松本ハイランド組合長(長野県) 田中均氏
そのなかで自給率問題については私も生産者の問題じゃない、消費者の問題だと思っています。過去、国産米が不作でタイ米を輸入したことがありましたね。だけど、のど元過ぎれば熱さを忘れてしまう。生産者にとって自給率は「経済の問題」ですが、消費者にとっては「生存の問題」だと思うんです。そこを追求しないと。「お願いします」調の消費拡大では消費者に刺さらないかなと思います。
短期的には異常気象で不作が続き、長期的には人口増で世界的な食料不足になっていくのが目に見えています。その危機意識を消費者の皆さんの胸に刺さるようにどう展開していくか。「あなた方の問題ですよ、生産者の問題じゃないですよ」と。
米の消費拡大でいうと、鍵は「米粉」だと思うのです。米粉の需要量は年4・1万tです。米の生産量776万t(2021年)の1%にもいきませんが、12年で8倍に伸びています。米粉を使ったパンなどを広げたいのですが、米粉は高い。製造業者が中小零細で製造工程にコストがかかるためです。米粉の検査も普通の米と同じで、胴割れがあるとランクが落ちます。米粉は砕くので割れていても構わないじゃないですか。だから米粉専用の検査規格を設ける。JAグループとしても行政としても「米粉」に力を入れていく必要があります。国産米粉パンを一人が月3個食べると自給率は1%上がります。
大金 家族農業を中心に、国内農業は農畜産物の貿易自由化政策などによって未曽有のピンチに追い込まれてきたわけですよね。そのなかでJAは地域を守りながら懸命に農家所得の向上に汗を流してきました。大林さんは「向かい風だからこそ風車を回そう」と唱えておられますが、「自助努力」をベースに、いったいどうしたら農業と地域を復興・復活させることができるのでしょうか。
大林 先日、鹿児島の「全共」に行きました。会場には若い方が多かったので、「おいしいお肉」になる牛の餌のことを話したのですが、みなさんキョトンとしている。私も機会があったらいろんな場所で食にまつわることを話すようにしていますが、とくに女性の方は遺伝子組み換え作物などには関心が高い傾向があると思います。つまり、「食の安全・安心」に関することが出発点にならないと、自給率の話もなかなか腑に落ちないということでしょう。国のいう「みどりの食料システム戦略」も生かしながら、目に見える作り方で目に見える人が「安全・安心」を提供する。地道ですが、そういうことが必要だと思います。
食の安心感 農協を核に
岩佐 日本はずっと「農業はどうでもいい」という政策ではなかったかと思うことがあります。「農業は悪者」「農業は金食い虫」だと。欧米のほうが補助金は余程多いけれど、消費者には教えない。先ほど大林さんが遺伝子組み換えの話をされましたけど、大豆を買う時には必ず表示を見ますよね。
一方、養殖の「近大マグロ」はブランドで売っていますよね。それに比べて農協はイメージ戦略が足りないと思います。だから全国連は国産農産物の安全性、あるいは環境への配慮、ここに情報発信を傾注すべきだと思うんです。地道なところでは、それぞれの単協が地域の人たちと信頼関係をどう結ぶか。ただ、そこで問題なのは単協職員の「やらされ感」です。
大林 ありますね。
岩佐 特に行政に協力すると、行政に言われたことのみを行って受け身でやっているという感じになりがちです。「やらされ感」が出てしまっている。
たとえば、最近も「台風に備えてハウス総点検運動をやろう」と言ったのですが、頭では分かっていても、動く職員がそんなに多くない。むしろ、「これは組合長マター」などと言って、組合長が言っているから取り組むといったような感じもあります。職員に理解してもらい、自発性が出てきてこそ初めて単協は輝くと私は思っています。
「子ども食堂」との連動でJAの心や志の浸透も
大金 農業を支え育む「国民意識の醸成」が求められていますが、生産者団体だけで自給率向上を唱えても「我田引水」のように聞かれてしまう。なにか説得力のある事業・活動がないかと考えたときに、「格差と分断」の狭間で生活に困窮している皆さんなどに「安心して顔が見える生産物」を提供しているJAが総合事業の一環として「子ども食堂」のようなものをファーマーズマーケットなどと連動して地域で全面展開していけないかと思うのですが。そうすれば「協同組合としてのJA」が持つ温かい心や高い志が広く国民の皆さんに具体的に伝わるのではないか。「協同組合原則」が掲げる「地域社会への関与」の仕方ですね。
田中 岩佐さんが言われた「JAが悪者になっている」というのは、利益・圧力団体と見られているからだと思うんです。かつての米価運動から始まって。そういうイメージを変えるためには、言われたような活動は確かに必要だなと反省しています。
その上で、まずは同じ協同組合セクターのなかで連携し、互いに理解し合って運動を広めていきたい。もう一つは政府に対してですが、たとえばノルウェーのサーモン、ニュージーランドのキウイフルーツ、この生産と世界への輸出を伸ばしたのは各国の「国策」です。だから米粉も民間任せでは高くて普及しないので、思い切って予算を付けてほしい。「もっとご飯を食べよう」といくら言っても、宣伝でし好は変えられないので、消費者のし好や需要にあった供給努力を、政府としてもJAグループとしても「一点突破」で進めることが必要だと思っています。
大林 JAとしても一所懸命やっていますが、それ以上のことはやっぱり国でやってもらわないと。自給率を考えて旗を振るのは、国の役割だと思います。
岩佐 国でいうと、「みどり戦略」を出したのは評価しています。ただ、裏付けとなる予算が生産者側にはあまりにも少ない。「川下」には経産省の予算がいっぱい付くのですが、農業は軽んじられている。「後ろ向きの補助金」ではなく、農業が自立できるような「前向きの補助金」をつくってほしい。単協は、たとえば「子ども食堂」のような取り組みをわれわれ三つの単協から全国に発信しましょうかね。
大金 知る人ぞ知る三つのJAが県境を越えて連携されたら、インパクトは大きいでしょうね。JAの高い志を「見える化」して広く伝える底力を発揮してほしいと思います。
岩佐 確かに、国民の皆さんに「農協って素晴らしい」と思ってもらいたいですね。
大金 本日はお忙しいところ、大変ありがとうございました。
【座談会を終えて】
3JAともに地域特性を生かした名うての広域合併JAだ。その先頭に立って試行錯誤を重ね、現状突破に挑んでいる前傾姿勢に脱帽するばかりだ。地域農業を双肩に担い、果敢に奮闘しておられるトップの皆さんのご自愛を切にお祈りしたい。(大金)
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