農政:今こそ 食料自給「国消 国産」 いかそう 人と大地
【今こそ食料自給・国消国産】建設業の「分業」導入 次世代につなぐデータ農業 静岡・浜松の「アイファーム」(1)2022年10月26日
農業の経験ゼロから参入し、14年で延べ約140haのブロッコリー生産を軌道に乗せた企業がある。静岡県浜松市の(株)アイファームは建設業の経験を生かし、農作業に「分業」の考えを取り入れ、技術力を高めるとともにブロッコリーの生育状況や作業管理をDX(デジタルトランスフォーメーション)でデータ化し、経験に頼らなくてもできる農業の確立をめざす。「データ化で農業をビジネスとして確立し、次世代につなげることが農業の持続性につながる」と、社長の池谷伸二さん(45)は考えている。
データについて説明するアイファーム 池谷伸二社長
「畑、無料で貸します」の看板きっかけに
新規参入にかかわらず、農家にとって何の作物を作るか、その選択が難しい。アイファーム社長の池谷さんがなぜブロッコリーを選んだか。きっかけはきわめて単純だった。もともと建設(内装)業を営んでいたが、2008(平成20)年のリーマンショックで仕事が減り、元受けの発注に左右されるのではなく、自分でモノをつくる仕事がしたいと考えていた。そこで偶然目に付いたのが「畑を無料で貸す」の看板だった。
家庭菜園向けだったが、資材置き場の確保にも苦労する建設業では考えられないことだった。さっそく地元のJAに相談すると、営農指導員から、育苗センターに余ったブロッコリーの苗があるので、試しに作ってみないかと勧められ、約30aの農地を借りて栽培した。
JAの栽培指導を受けて作ったブロッコリーをJAへ出荷したところ、10a当たりの売上高が30万円を超した。「これはいける」との感触を得て、就農前に一緒に働いていた仲間に声を掛け、本格的にブロッコリー栽培に乗り出した。「無知の勢いだった」と振り返る。
アイファームのブロッコリー畑
アイファームのある浜松市の南区は天竜川の右岸の沖積平野からなる水田地帯で兼業農家がほとんど。高齢のため農業からリタイアする農家が多く、またJAや農業委員会など紹介もあり、農地は、借地料10a1万~1万2000円で比較的順調に集まった。今年の延べ作付面積は、秋冬・春ブロッコリーを合わせて約140haになる。今年の秋冬ブロッコリーでさらに10ha増やす予定だ。
まったく農業の経験のない池谷さんにとってJAとぴあ浜松の支援も大きかった。就農初期の営農指導から、中期の資金面の相談、そして現在のコラボ商品の開発、生産情報の共有など、規模拡大していく段階で、さまざまな支援を受けた。地元の出身ではあるが、農業や農地と縁のなかった池谷さんにとって、JAとの連携は「農家の信頼を得ることにつながり、農地を借りるとき助けになった」(同JA南営農センター)。
お客と市場ニーズの違いに着目 業務用の出荷規格に
JAとコラボで商品化したパック詰めのブロッコリー
一方、ここまで規模を拡大できたのは業務需要向けに独自の出荷規格をつくったことが大きい。静岡市のレストランで「ブロッコリーがお客さんのニーズと市場ニーズに違いがあることに気づいた」と池谷さんは言う。市場へは茎(芯)を付けて出荷するが、レストランの料理になると茎を除いて房(花蕾)の状態で出てくる。この違いに目を付けた。
花雷だけパック詰めして、最初は地元市場の仲卸やスーパー、県内のハンバーグチェーン店などに提案した。調理の手間が省け、野菜の残渣(さ)も出ないことから評価を得て、総菜会社や外食、コンビニなどに販路が広がった。現在、販売量の7~8割を10社ほどの大手スーパーが占める。またカット作業は加工業者に委託しているが、花蕾だけの出荷規格は、サイズの制限がなくなるため一斉収穫が可能になり、栽培面でも大きな省力効果がある。
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