農政:原子力政策方針転換 思い起こせ3.11 産地は訴える
【思い起こせ3.11】深刻な生産基盤の崩壊 福島の農村復興なお途上 農中総研客員研究員 行友弥氏2023年3月10日
2011年3月11日、東日本大震災が発生してから12年。津波被害とともに東京電力福島第一原子力発電所事故で大災害となった。この事故をどのように見るのか、また、農業再建の道のりはどうあるべきか、被災地にいち早く入って地域再生に取り組み、研究する農林中金総合研究所客員研究員の行友弥氏に寄稿してもらった。
農中総研客員研究員 行友弥氏
原発事故は終わらず コミュニティー解体が深手
岸田文雄政権は12年前の東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて導入された原発の「原則40年、最長60年」という運転期間の上限を撤廃し、建て替えや新増設にも踏み込む方針を打ち出した。しかし、福島では今も復興へ向けた苦闘が続き、原発事故は決して終わっていない。エネルギー価格の高騰や脱炭素の要請だけで原発回帰を進めていいのか、被災地の現状を踏まえた議論を求めたい。
原発事故の農業への影響といえば、多くの人が「風評被害」を思い浮かべるだろう。しかし、それは被害の一部でしかない。より深刻なのは生産基盤の崩壊であり、特に人口減少と高齢化、コミュニティーの解体といった社会的な変化が大きい。
原発事故では、福島県浜通り地方の12市町村で住民に避難指示が出た。うち9町村は全域が避難指示区域になった。段階的に解除が進められ、現在の面積は最大時の3割程度になっているものの、それでも337平方kmと東京23区の半分を超えている。
農林業センサスで2010年(原発事故の前年)と2020年を比較すると、この12市町村の基幹的農業従事者は1万1992人から3858人へと3分の1以下に減り、70歳以上の割合は47・7%から56・1%へ8・4ポイント増えた。避難指示が解かれた地域でも若手・中堅世代の帰還が進んでいない。
休止農地の営農再開は4割 「寄りあい開けぬ」10年で4倍
農水省によると、原発事故の影響で営農が休止した農地は16市町村で計1万7659haに上る。うち2022年3月末までに営農が再開されたのは7618haと4割だ=図1参照。当初の休止理由は米の作付け制限や野菜の出荷停止などだったが、今は担い手不足と高齢化が主因だろう。
被災地では、農地の受け手として法人形態の営農組織が次々と設立された。しかし、国や自治体の支援で結成された法人は高齢者が主体で、次世代へのバトンタッチには不安もある。
スマート農業を駆使して大規模な稲作経営を展開し、若手の就農の受け皿になっている組織もある。しかし、経営者は「農地周辺の草刈りや獣害対策の電気柵の管理をしてくれる住民がいないことが悩み」という。人口の急減で集落機能が失われたことが背景だ。農林業センサスによると、12市町村で「寄り合いが開かれない」集落は10年には16だったが、20年には66と4倍になった。
一言でいえば、原発事故被災地では農業を支える人的資本や社会関係資本(人と人とのつながり)が大きく損なわれたのだ。その変化は不可逆的で、カネ(復興予算)やモノ(最新鋭の農業設備)を注ぎ込んでも回復が難しい。
農地の荒廃を防ぐために行われている和牛(繁殖牛)の水田放牧=福島県飯舘村で2018年9月、筆者撮影
農産物の販売不振も同様だ。福島県の主要作物である米、桃、牛肉の価格は原発事故をきっかけに大きく下落し、全国平均との差は今も埋まっていない=図2参照。原因は消費者の買い控えではなく、流通上の位置づけにあると小山良太・福島大学教授らは指摘する。たとえば福島県産米は原発事故以後、8割近くが業務用米(中食・外食用)として販売されるようになり、それが安値の背景になっている。これも回復困難な被害だ。
地元の法人代表「復興って一体何なんだろう」
公共インフラや産業の基盤設備が整備されても、かつてのような人々の暮らしが戻るとは限らない。南相馬市のある法人代表は筆者にこう語った。「おれたちが農業を再開したのは、以前のような景色やにぎわいを取り戻したかったからだ。でも、地域の姿は元に戻らない。復興って一体何なんだろう」
原発は一時の経済的豊かさを地元にもたらすかも知れない。しかし、一度事故を起こせば、失われるものはあまりに大きく、取り返しがつかない。再稼働や運転延長が焦点になっている地域の住民だけでなく、電力の消費地も含めた国民全体でよく考えてほしいと思う。
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