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【クローズアップ・農薬危害防止運動】周りに配慮し正しい農薬使用を 6月1日から3カ月間2022年6月1日

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農林水産省は厚生労働省、環境省等と共同で、「令和4(2022)年度 農薬危害防止運動」を6月1日から実施する。本年度の運動テーマを引き続き、「農薬は 周りに配慮し 正しく使用」と設定し、周辺環境への農薬の飛散防止の徹底などを重点的に指導する。農薬を使う機会が増える6月から8月にかけての3カ月間、農薬使用者をはじめ、毒物劇物取扱者、農薬販売者等を対象に、農薬の取り扱いに関する正しい知識の普及と啓発に取り組み、農薬の不適正な取り扱いやそれに伴う事故等を未然に防止する。

農薬危害防止運動ポスター農薬危害防止運動ポスター

農薬の適正使用の徹底を

農薬は、農薬取締法をはじめとする関係法令により、使用方法や残留基準等が厳密に定められており、適正に使用する限り安全性が担保されている。

また農薬は病害虫・雑草による農作物の収量低下や品質劣化を防ぐ役割を果たし、農業生産性の向上と食の安定供給に大きく貢献している。

しかし、不適正な使用により農薬使用者や周辺環境などでの被害事例や農作物から基準を超えた農薬成分が検出される事例が発生しているのも事実である。農薬危害防止運動の趣旨と目的を理解し、より実効性のある取り組みを進めなければならない。

運動通じて農産物の安全確保と農業生産の安定、国民の健康保護を

農薬危害防止運動実施要綱の趣旨の冒頭、「農薬の安全かつ適正な使用及び保管管理の徹底は、農産物の安全確保及び農業生産の安定のみならず、国民の健康の保護及び生活環境の保全の観点からも極めて重要である」とされている。

従来、農薬取締法や毒物及び劇物取締法に基づく取り締まりが行われ、また食品衛生法に基づく残留基準に対応するため、農薬の飛散低減対策を含めた農薬の適正使用の指導も行われてきたが、農薬の使用に伴う使用者や周辺環境等に対する被害の発生事例、農薬の不適正な使用により残留基準を超える農薬成分が農作物から検出される事例が依然として確認される状況がある。

また、学校や公園等の公共施設内の植物や街路樹、住宅地に近接する農地及び森林等に農薬を使用するときは、農薬の飛散を原因とする住民、子ども等の健康被害が生じないよう、飛散防止対策の一層の徹底を図ることが必要である。

さらに農薬登録を受けることなく、農薬としての効能効果をうたっている資材や、成分からみて農薬に該当する資材が販売・使用される事例も確認され、このような資材の販売及び使用を根絶するための周知・指導の強化を図っていく必要がある。

平成30(2018)年12月1日に施行された改正農薬取締法で「農薬使用者は、農薬の使用に当たっては、農薬の安全かつ適正な使用に関する知識と理解を深めるように努める」とされたことを踏まえ、改めて農薬の適正使用等に関する必要な知識の普及、農薬の使用に関する情報提供等を通じて農薬使用者の自発的な知識・理解の向上や農家の適正使用を図っていく必要がある。

なお本運動の実施に当たっては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に十分配慮し、密閉空間、密集場所、密接場面を避けて実施するほか、外出自粛などの各都道府県等の状況に応じて、取り組みを柔軟に進めることとしている。

指導や連携大切 住民への周知徹底も

「農薬は 周りに配慮し 正しく使用」を運動テーマに、重点指導項目としては、①農薬ラベルによる使用基準の確認と使用履歴の記帳の徹底②土壌くん蒸剤を使用した後の適切な管理の徹底③住宅地等で農薬を使用する際の周辺への配慮及び飛散防止対策の徹底④誤飲を防ぐため、施錠された場所に保管するなど、保管管理の徹底――の四つが掲げられている。

三つの実施事項について

本年度の運動における具体的な実施事項は、次の3項目。
1.農薬及びその取り扱いに関する正しい知識の普及啓発
 ①広報誌等による普及啓発
 ②啓発資料の配布や情報発信、講習会等を通じた啓発普及
 ③指導・周知が行き届きにくい農薬使用者への普及啓発
 ④医療機関等に対する農薬中毒発生時の対応についての情報提供等
2.運動中に実施した活動や取り組みに係る検証の実施
3.農薬使用者、農薬販売者等の関係者への指導等

昨年度から盛り込まれた、1.③の「指導・周知が行き届きにくい農薬使用者への普及啓発」では、講習会等の開催や巡回による指導・周知が行き届きにくい農薬使用者に対しても指導・周知の徹底が図られるよう、地域の実情に応じて、生産者団体や作物ごとの部会及び出荷先に加えて、農産物直売所、青果市場、農薬販売店等を通じた情報発信を行うこととしている。

また、無人マルチローターを利用して農薬散布を実施する場合、通常よりも高濃度の農薬を使用する可能性があるため、農薬の適正使用に関して十分理解しておくことが必要である。このため、無人マルチローターの関係団体、メーカー、販売店、教習施設等に対して、無人マルチローターを用いる農薬使用者への普及啓発資料の配付や講習会参加の呼びかけを要請することとしている。

新型コロナに関しては実施要綱の趣旨で触れるとともに、「新型コロナウイルス感染症への対応」の項を設け、「本年度の運動の実施に当たっては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に十分配慮し、講習会等や対面での農薬使用者等への指導については、対面によらない方法で実施する、対面で実施する場合は、時期を変更する、感染防止対策を徹底する等、各地域の実情に応じた柔軟な対応をとるものとする」としている。

関係者の指導における四つの留意事項

具体的に本運動で取り組む農薬使用者、農薬販売者等の関係者に対する指導等の詳細は、次の四つの留意事項にまとめられる。
1.農薬による事故を防止するための指導等
2.農薬の適正使用等についての指導等
3.農薬の適正販売についての指導等
4.有用生物や水質への影響低減のための関係者の連携

農薬の事故防止の注意事項を周知徹底

農薬使用時の不注意などによる事故を未然に防止するためには、農薬使用者、病害虫防除の責任者、防除業者等への関係法令や過去の事故例とその防止策をまとめた「農薬による事故の主な原因等及びその防止のための注意事項」の周知徹底が求められる。

人に対する事故の原因としては農薬用マスク、保護メガネなど防護装備の不備や防除器具の点検不備などがある。農薬散布時には、マスクやメガネなどの防護装備を着用するとともに、現場混用の際は、「農薬混用事例集」等を参考にする。

土壌くん蒸剤の使用にあたっては、防護マスクのほか、施用直後に適正な資材を用いて被覆を完全にすることも重要になる。

住宅地周辺では、農薬を散布する日時や農薬の種類を事前に告知しておくことはもちろん、農薬が飛散して周辺住民や子どもたちに健康被害をおよぼさないように注意しなければならない。

有人・無人航空機に関わる留意点

有人ヘリコプター、無人ヘリコプターまたは無人マルチローターなどの有人・無人航空機を用いて農薬を散布する場合、関係法令を遵守することはもちろん、特に無人航空機で農薬を散布する場合は、航空法に基づき事前に国土交通大臣の許可・承認を受けることが必要となる。

有人ヘリコプターについては「農林水産航空事業の実施について」(平成13年10月25日付)と「農林水産航空事業実施ガイドライン」(平成16年4月20日付)、無人ヘリコプターについては「無人ヘリコプターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」(令和元年7月30日付)、無人マルチローターについては「無人マルチローターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」(同)が通知されている。

これらの通知に共通する留意点としては、有人・無人航空機のいずれであっても、事前に散布日時や農薬の種類等を周辺住民に周知して危害防止に万全を期すとともに、作業関係者の安全を十分に確保することが挙げられる。

また無人航空機を用いて農薬を散布する場合は、実施区域周辺の地理的状況等の作業環境を十分に勘案し、実施区域及び実施除外区域の設定、散布薬剤の種類及び剤型の選定等の空中散布の計画を検討することをはじめとして、10項目にわたる留意点がまとめられている。

重要な農薬の保管管理を

一方、農薬事故や被害原因では保管管理不良や泥酔等による誤飲誤食が多い。農薬やその希釈液等は、飲食品の空容器等に移し替えたりせず、施錠された農薬保管庫に保管するなど、管理の徹底が求められる。

さらに毒劇物に該当する農薬の飛散、漏れ、流れ出し等により、保健衛生上の危害が生ずるおそれがあるときは、直ちに保健所、警察署または消防機関に届け出るとともに、危害を防止するために必要な応急の措置を講じなければならない。また毒劇物たる農薬の盗難、紛失にあたっては、直ちに警察署に届け出なければならない。

農薬の適正使用を徹底、GAPも有効

農薬による危害を防止し、農作物の安全を確保するために、農薬使用者は、適用作物や使用量、希釈倍率、使用時期及び使用回数等の農薬使用基準、適用病害虫の範囲、使用方法等を遵守しなければならない。

農薬の適正使用においてはGAP(農業生産工程管理)の実施も有効である。農業者に対しては、「国際水準GAPガイドライン」(令和4年3月8日付)や、GAP認証の取得にあたって求められる農薬適正使用に関連する事項を参考にした具体的な取り組みの積極的な指導が求められている。

農薬の散布作業では、飛散防止も重要になる。防除しようと思った作物以外の作物に農薬が飛散した場合、その作物に農薬登録がなければ非登録農薬の使用となる。

水域環境も注意 販売は届出義務

また水域の生活環境動植物の被害防止に係る農薬登録基準の設定の審議に当たり、基準値案と水道事業者が実施した水道原水の水質調査の結果等とを照らし合わせたところ、河川から基準値案を上回る濃度の水稲用除草剤の農薬成分が検出された事例が見られた。これは、十分な止水期間をとらずに水田内の水を排水路に流してしまったことがその一因と推察され、注意事項に記載された止水期間を遵守し、水漏れの原因となる畦畔(けいはん)整備の措置を講じなければならない。

農薬登録番号がないにもかかわらず、農薬としての効能効果をうたっている資材や病害虫の防除効果がある資材は、無登録農薬の疑いがあり、農薬取締法に違反する可能性があるため、使用も販売も行ってはならない。

その他の留意事項では、薬剤耐性菌対策も重要になる。農作物等の防除における抗菌剤(殺菌剤)の使用に関しては、農作物等の病害虫防除の分野での薬剤耐性菌の発達が課題となっている。同一系統の薬剤の連続散布を避け、病害虫の発生状況に応じた計画的かつ必要な範囲での使用が重要であることに留意することが求められている。

農薬の適正販売を徹底、適正な表示も

農薬を販売するには、都道府県知事への届出が、毒劇物に分類される農薬の販売には都道府県知事等への届出と登録が義務付けられている。

毒劇物に分類される農薬の販売においては、譲受人の身元並びに使用目的や使用量が適切かどうかを十分に確認する必要があるとともに、一般消費者への販売及び授与を自粛するよう指導しなければならない。

農薬に該当しない除草剤が近年、ドラッグストアやインターネットで販売されるようになっており、その際の「非農耕地専用」という表示が、購入者に公園や緑地等であれば使用できると誤解される事例がある。

農薬に該当しない除草剤の販売においては、容器や包装に農薬として使用できない旨を表示することや農耕地以外の場所でも農作物の栽培・管理に使用できない旨の周知に努めることが求められる。

養蜂被害を防ぎ啓発活動徹底を

農薬使用においてはミツバチなどの有用生物や水質への影響低減のために関係者の連携も不可欠となる。

ミツバチの被害防止対策で重要となるのは、まず被害に関する認識を共有し、それを現場に周知することである。

蜜蜂の被害の発生は水稲のカメムシ防除の時期に多いこと、水田に飛来した蜜蜂が水稲のカメムシ防除に使用される殺虫剤に直接暴露すれば、被害が発生する可能性が高いこと。

また被害を軽減させるには、農薬使用者と養蜂家との情報共有や巣箱の設置場所の工夫・退避、巣箱を日陰に設置するほか、水飲み場の確保等により巣箱内の温度の上昇を抑制するなど、ミツバチに影響がない状況下での巣箱の網掛け、さらには粒剤の使用やミツバチの活動の盛んな時間の使用を避ける等、農薬の使用の工夫が有効となる。

水域の生活環境動植物の被害や水質汚濁への配慮も重要である。特定の農薬を地域で集中して使用すると、その農薬に感受性の高い生物種に大きな影響を与える可能性があるため、できるだけ多様な農薬を組み合わせて使用する必要がある。

またゴルフ場の農薬散布では、排出水に含まれる残留実態を把握しつつ、ゴルフ場関係者への指導・助言に努める必要がある。

運動を支える関係団体独自の啓発活動も

農薬危害防止運動では、JA全農や農薬企業の団体である農薬工業会、農薬卸商の団体である全国農薬協同組合等の関係団体も毎年、独自の啓発活動に取り組んでおり、運動実施の基盤となっている。

JA全農は、農薬の適正使用と安全な農作物の提供のために、「農作物、生産者、環境」という三つの安全を掲げ、昭和46(1971)年からJAグループとして安全防除運動に取り組んでいる。農薬の適正使用の推進に向けて普及を強化してきた防除日誌の記帳や防除暦の検証は、農薬危害防止運動の要諦そのものであり、大きな役割と責任を担っている。

また農薬工業会は例年、会員を対象にした農薬危害防止の講演会を実施しており、今年は6月22日、「ドローンの効率的利用と安全確保」をテーマに開催する。

農薬の使用に当たっては、農薬ラベルに記載内容の最新情報の確認を励行したい。登録内容については農林水産省のホームページ「農薬登録情報提供システム」で、登録・失効農薬等の情報については、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)のホームページで確認できる。

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