【アグリビジネス理念と事業を聞く】「現場主義で前進を」 協友アグリ・安藤敏社長2023年4月7日
「みどりの食料システム戦略」の取り組みが具体化し、食料・農業・農村基本法改正の議論が活発となるなど、国内農業の在り方をめぐる動きが慌ただしい。今回は協友アグリ株式会社の安藤敏社長に同社の理念や事業展開、国内農業への思いなどを聞いた。
協友アグリの安藤敏社長。本社には「愚直に現場主義」の書が掲げられている。
「愚直に現場主義」を貫く
――「愚直に現場主義」という言葉を掲げていますが。
私の3代前の小高根(利明)社長時代に自然発生的に生まれた言葉です。協友アグリという社名に変わり、自社開発の除草剤「ピラクロニル」がまもなく登録となる頃、当時の本社普及部長が、自ら頻繁に現場に赴き、田んぼに入り、汗をかいて頑張った。その姿勢が、我が社の現場主義の原点だったと思っています。
ピラクロニルは今では、日本で一番売れている水稲除草剤ですが、発売前の開発段階では、目に見えて良いという剤ではありませんでした。ですが、当時の社長や部長が自ら先頭に立ち、多くの社員たちが田んぼに、農協に出向くことで、JAや生産者の皆さんから高く評価していただき、今の実績につながったと思っています。
当社は大きな研究所を持っているわけでもない。資本力があるわけでもない。その中で、農薬メーカーとして、これからも前進していくためには、愚直に現場でお客様と一緒に考えていく。当社が生きる道はそこしかないということです。企業理念を作ろうと思って出来たスローガンではありません。
――社員の反応は、いかがですか。
「現場主義」、そのものを否定する人間は誰もいませんが、最初は、「愚直」という文字に「愚か」とある。「自分たちは愚かではないですよ」と少し反発が出た時期もありましたが、自然と定着してきたと思います。
新入社員の採用時に面接をすると、7、8割以上の若者が、当社に入社したいという理由について、「愚直に現場主義」という企業理念に興味を持ったと言ってくれます。私も昨年の社長就任時、最初の社員へのメッセージとして、「『愚直に現場主義』をこれからも貫いていこうではないか」と言いました。コロナ禍も落ち着く気配ですので、今年は私もできるだけ、長靴を履いて、田んぼへ、現場に出向こうと思います。
――現場主義で、現場からのフィードバックで成果が出た例は。
まだまだ不十分で、今後の課題だと思っています。ここ3年ほど、新卒、キャリア採用者を含め経験の浅い社員が多くなり、そこにコロナ禍で、社内のコミュニケーションが不十分でした。社長就任後、すぐに社員全員と会うという試みを始めました。7、8人のグループ単位で、私が支店や工場に出向き、社員と直接、対話しています。社長になった安藤が何を考えているのかを知ってもらうことで、社内から意見が出てくる契機になると思っています。今年も同じことをもう一度やります。
FG剤で雑草対策軽労化
――注力していく事業は何でしょうか。
日本の農業も大変な時期です。少ない人数でどう農業を支えていくのか。省力化、低コスト化を踏まえ、農産物の輸入が困難なときの増産も視野に入れないといけない。先々のニーズに対応するものを考えたときに、FG剤<注>にたどりつきました。
他社も同様の新規製剤を出していますが、当社は特にコストを意識したいと思っています。FG剤の正しい使い方を、生産者、農協の営農指導員の方々に理解していただき、当社の製品が雑草防除の省力化・低コスト化につながるものだと実感していただきたい。
そのためには「愚直に現場主義」に戻りますが、当社の社員ができる限り現場に行って、FG剤を多くの生産者の方々に直接触ってもらい、使ってもらう。愚直に地道に、まずは現場でFG剤の良さを感じてもらうことから始めようと思っています。
<注>FG(Floating Granule)剤 水面に浮きながら速やかに自己拡散する粒状の製剤。風と水の力を借りることにより、畦畔からの散布でも、除草剤成分が水田全体に広がり効果を発揮する。1㌶規模の大規模ほ場でも中に入って散布する必要はなく(湛水周縁散布)、作業労力や散布時間を軽減することができる。湛水周縁散布に加えて、多くのドローン機種で散布が可能。
――4月1日付でシンジェンタジャパン社より水稲用殺菌剤ピロキロン原体事業を事業移管されましたが。
箱剤で大きなシェアを獲得できるように、新規の混合剤などの開発着手をしていきたいと考えています。生産者あたりの耕作面積を考えると、水田に出て、農薬をまくということがやりづらくなり、夏場での農業従事者の皆さんの労力や健康を考えると、田植えから数週間ぐらいで農薬の処理はすべて終わりという時代が来ると思います。箱剤は省力的で、環境に対する負荷も小さい製品です。稲作の省力化に貢献していきたいと考えています。
水田守る農家と共に
――食料・農業・農村基本法の見直しも進んでいます。現段階で日本の農業についてどのような認識を持っていますか。
当社は水稲農薬が約8割です。日本の今までの農政は米が中心でした。そこをどうするのかという問題はあります。ただ農業は絶対に守っていかないといけない。当社ができることは、本当の農業をより合理的に効率的に、低コストでやれるように、貢献していくことだと改めて思います。
――みどりの食料システム戦略についてはどう対応しますか。
KPI(重要業績評価指標)の一つとして、2050年までに農薬を原体リスク換算で半分にするということですが、個人的にはちょっと唐突過ぎる話だと感じています。しかし、持続的な技術革新による各農薬メーカーの新規開発がこれまで通り進んでいけば、十分達成可能な目標ではないかとも思います。一方で、各地のJAや指導機関が、生産現場での農薬使用回数や使用量を無理に減らそうとすると、生産効率が下がり、品質が低下する可能性もある。それは生産者に付けを回すことになりかねないかと危惧しています。食料安保の面からも心配しています。
当社社員の活用を
――JAグループに期待することを聞かせてください。
農協には、これまで通り、営農指導を重視していただきたいと思っています。合併なども進み、現場の営農指導員も変化しています。営農指導にもう一度、スポットを当てて、きちんと人を置いていただきたいと思います。増員できないのなら、農薬メーカーの担当者が現場にいます。当社含め農薬メーカーをもっと活用していただきたい。
コロナ禍でリモートワークも進みました。現地に赴かなくとも、リモートでも商品説明は十分にできます。スマートフォンがあれば田んぼの状況も少しは把握できる。若い生産者の中には、IT機器を駆使されている方も多くいるようです。ITを駆使し、当社の社員も活用してもらえば、当社がサポート、フォローできる部分はたくさんあると思っています。
先日、久々に中・四国地区の全農、JAを訪問した際、農協幹部の方々と情報交換をしました。当社が中途採用も含めた新入社員の研修をネットを使い、実施していることを話したら、興味を持ってくれました。農協も職員の教育で悩んでいました。人を育成しないと生産者に有用な情報は届きません。われわれ農薬メーカーとJAグループ、悩みは同じです。
【安藤社長経歴】
あんどう・さとる 1959年大阪府生まれ。北海道大学農学部卒。1983年4月武田薬品工業入社。2003年住化武田農薬営業企画部長。2004年協友アグリ取締役営業部長、2007年同社常務取締役営業本部長、2012年同社取締役専務執行役員営業部長、2015年同社代表取締役副社長営業部長、2016年同社代表取締役副社長。2022年1月に同社代表取締役社長に就任。
協友アグリ株式会社
1938年八洲化学工業㈱として創業。1996年に三笠化学工業㈱と合併。2004年11月1日に住化武田農薬㈱の系統事業を引継ぎ、社名を協友アグリ㈱と変更した。創業以来80年以上、安全な米・野菜・果実の安定生産をサポートする農薬の研究開発・製造・販売を行っている。同社開発の除草剤「ピラクロニル」は国内で多くの混合剤が販売され、普及率で国内トップクラスの除草剤原体。資本金22億5000万円。従業員284人(2022年10月31日現在)。本社は東京都中央区。
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