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【アグリビジネスインタビュー】農業から生活まで翼広げて 三井化学クロップ&ライフソリューション 小澤敏社長2023年6月15日

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「サステイナブルな食と生活に貢献するグローバルソリューションカンパニー」を目指し、三井化学アグロは3月31日に、三井化学クロップ&ライフソリューションに社名を変更した。小澤敏・代表取締役社長に社名変更の狙いや今後の日本農業の進路について聞いた。

小澤敏 三井化学クロップ&ライフソリューション社長小澤敏 三井化学クロップ&ライフソリューション社長

薬剤軸に貢献多様に

――社名が三井化学クロップ&ライフソリューションに変わり、ライフソリューションも大きな事業の柱になりました。

「三井化学アグロ」としても、JAにもお世話になりながら、農薬だけではなく、自社原体を用いたシロアリ防除のサービスなどPPМ(Professional Pest Management)事業を行っておりました。農薬用に創薬をしたものを農薬以外の分野で、生活環境の中でもきちんと使用していただく。その部分を戦略として明確にするため、社名変更と事業再編を行いました。
従来の農薬の分野は国内クロップソリューション本部、海外クロップソリューション本部とし、ライフソリューション本部を新設しました。

マラリア撲滅にも力

――この時期ということに理由があるのでしょうか。

2022年1月に天然物由来の技術開発に優れたMeiji Seikaファルマ株式会社の農薬事業を取得し、MMAGグループを承継しまして、そこをきちんと一体化させる必要がありました。
また3月に発表しましたが、アフリカのマラリア撲滅プロジェクトで、私たちが創出・開発したマラリア媒介蚊防除用のVECTRON T500(有効成分テネベナール)が、世界保健機関(WHO)による事前認証を得ました。これにより迅速に各国での登録を取得し、市場に出すことが可能となりました。ライフソリューションを事業本部として独立させる大きな契機でした。

農薬の主成分を開発するには300億~400億円、初期段階から10~15年かかります。そういう苦労をして開発したものの価値をどのように上げ、次の段階につなげていくのかを考えると、国内の農業だけではなく、生活環境改善の部分やベクターコントロール(媒介害虫駆除)まで出ていき、領域を広げて伸ばしていくことです。

――国内で注力していく剤はどのようなものでしょうか。

日本では水稲が非常に大事で、もともと殺虫剤ジノテフラン(商品名スタークル、アルバリン)、エトフェンプロックス(商品名トレボン)があり、また、JA全農と一緒に開発した除草剤サイラもありますのでこれらをしっかりと供給していきたいと考えています。園芸分野では殺虫剤テネベナール(商品名ブロフレア)を発売しました。また、Meiji Seikaファルマから、殺菌剤プロベナゾール(商品名オリゼメート)がラインナップに入りましたから、これもきちんと供給していく体制を構築します。そのほか殺虫剤フルピリミン(商品名リディア、エミリア)、除草剤グルホシネートP(商品名ザクサ)もご好評いただいています。

――国内では食料・農業・農村基本法の見直しが山場を迎えています。

基本法自身は網羅的に作られていくのでしょうが、主なテーマは食料安保と農業の持続性でしょう。基幹的農業従事者は2022年の推計で123万人ですが、今後20年で30万人になる恐れがあるという農水省の報告は衝撃的でした。スマート農業を進めることが一つでしょうが、農業の担い手が4分の1になると、スマート農業の延長上で解決できるとは思えません。もう少し大胆なことを考えなければいけません。

マーケティング本部に新設した新事業開発推進部で新しいソリューションを検討していきます。自ら農業をすることは考えておりませんが、農薬の販売だけではなく、農薬をメインにどういう形で貢献していけるか。たとえば、日本の果実の輸出促進もサポートできないか等を考えています。

みどり戦略と基本的に同じ方向

――みどり戦略にはどう対応しますか。

基本的に方向は同じです。私たちは環境への負荷を下げるという部分をイノベーションで実現してきました。安全性が管理された製品を、農業現場に供給しております。それを使用して生産したものは安心して食べられる。農家の皆さんが安心して生産できる。そういう情報発信は、きちんと行っていきます。
また、有機栽培を増やそうということも掲げられていて、現在では「有機栽培だから価格が高い」という風潮になっていますが、それでは有機栽培の安全性はどのように担保されているのか。安心で安全な作物を提供するということをきちんと考えていかないといけません。

――みどり戦略への対応も含めて、どう製品開発を行っていきますか。

みどり戦略の中で、現在ある農薬は完全にはなくなりませんが、量は減っていくでしょう。当社は天然物由来のものについて、その良さを引き出すためバイオロジカルソリューションリサーチセンターを新設しました。従来の化学農薬をより安全なものにするための研究とともに、バイオ農薬、天然物という分野を強化していきます。化学とバイオの両輪で補完しあうという形です。医薬からすると農薬は後追いなので、最新の技術も検討していきます。

――環境負荷が低い新しい製品については、普及の仕方も変わるのでしょうか。

2030年ぐらいまでに出てくる製品は従来の普及手法だろうと思いますが、バイオ農薬となると生産から物流、技術普及、営農指導を変えないといけないかもしれません。みどり戦略も2050年を目標にしています。私たちも30、40年後を見通しての開発と並行しながら研究していきます。新型コロナワクチンのような温度管理など、新しいビジネスモデルを作る必要があるかもしれません。

JAと"歩調" 適正価格の浸透もサポート

――JAグループに期待することを聞かせてください。

現場に一番近いのはJAの皆さんです。今後もしっかりとコミュニケーションを取り、現場の声を聞きながら、剤の開発やソリューションを考えてまいります。
日本では野菜や食料の値段が少しでも上がると、マスコミが大騒ぎしますが、海外と比べると、まだ安いです。農業を続けていくために、適正な価格で売れるかどうかが、資材を提供する私たちにも深刻な問題です。日本の農産物はずば抜けて高品質です。そこを大事にしたい。JAグループが国産農産物はおいしくて安全ですということを前面に出して適正な価格が浸透する取り組みを、サポートしていきたいと思います。

【三井化学クロップ&ライフソリューション株式会社】
高品質の農業化学分野の製品とサービスをグローバルに展開する研究開発型企業。日本で初めて合成農薬を製造・発売、約100年の歴史を有する。1899年三共商店設立、1921年日本初の合成農薬クロルピクリンを製造・販売。2003年三共㈱がアグロ事業部門を会社分割し、三共アグロ㈱を設立。2007年三井化学㈱が三共アグロ㈱を買収し、2009年三井化学㈱の農業化学品事業と三共アグロ㈱を統合、三井化学アグロ㈱が設立。2022年Meiji Seikaファルマ株式会社の農薬事業を取得し、㈱MMAG、MMアグロケミカル㈱、㈱MMアグロコリアを承継。2023年三井化学アグロとMMAGとの合併を含む、グループ内企業の再編を行い、社名を三井化学クロップ&ライフソリューション株式会社に変更。本社は東京都中央区日本橋。資本金350百万円。従業員数約850人(連結)。

【略歴】
おざわ・さとし 1961年東京都生まれ。明治大学商学部卒。1985年4月三井石油化学工業(現三井化学)入社。2013年IR・広報部長、14年理事、15年理事コーポレートコミュニケーション部長、16年三井化学アグロ(現三井化学クロップ&ライフソリューション)取締役副社長、18年同社代表取締役社長に就任。

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