【インタビュー】FMC「プレバソン(R)フロアブル5」の適用拡大を動かした「世論」とは2023年10月6日
JA全農とJA古川が中心となって宮城県大崎市で進めている飼料用とうもろこし(子実)の大規模実証において、救世主となっているのが害虫アワノメイガの殺虫剤として安定した効果がある「プレバソン®フロアブル5」だ。
これまでの無人航空機による散布では、効果の高い防除が期待できる飼料用とうもろこしでの登録薬剤がなかった状況下でアワノメイガ被害に悩まされてきたが、飼料用とうもろこし生産者や農協の熱い想いが実り、今年5月の適用拡大につながった。
農薬メーカーのFMCシニアコマーシャルアドバイザーの笹島敏也氏に、適用拡大までの経緯と製剤の特長などについて話を聞いた。
FMCシニアコマーシャルアドバイザー 笹島敏也氏
――最初に、プレバソン適用拡大の意義についてお聞かせ下さい。
家畜のエサ用の飼料用とうもろこし(子実)には、特にアワノメイガが東北以南を中心に発生し、収量や品質を損ないます。
食害を受けた子実にカビ毒が発生し、それをエサとして食べる家畜やその後、食肉として食べる人間の健康への影響リスクも、課題となっています。
殺虫剤によってアワノメイガを防除する適期は飼料用とうもろこしの雄穂出穂から絹糸抽出期ですが、その頃の飼料用とうもろこしの草丈は相当高くなっていて、地上散布では物理的に適正散布に苦労しがちです。
そのような背景から、アワノメイガをドローンなどの無人航空機による散布で防除できる農薬の登録が待たれていて、当社のプレバソン®フロアブル5が、今年5月に初めてこれらの要望を満たした登録農薬となりました。今作に間に合いましたので、早速各地でプレバソン®フロアブル5による防除が始まっています。
――古川(宮城県)での実証試験もその流れですね。
はい、そうです。
水田作の大規模化を進めるということは、言い換えると、水田の輪作の中でどれだけきちんと収益や所得を確保していくかという課題にもなります。
全農の方でも、労働時間をかけず収益性のある作物を検討され、そのうえで飼料用とうもろこしへの取り組みが始まったのですが、そこに異常気象やコロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻による飼料の輸入困難化の勃発があり、拍車をかけた形です。
「飼料の国産化を図っていく」という日本の農業の大命題にも意識が高まるなか、今回の古川での実証試験が始まりました。
品目として、飼料用とうもろこしを作っていくということは、生産者にとっては虫との戦いにもなります。
昨年は、東北の地でもあり飼料用とうもろこしにはそんなに害虫は出ないのではと思われていたところもあって、アワノメイガの大発生で飼料用とうもろこしの収穫が全滅に近かったというケースもあったようです。
そのような背景の中、全農から私に、食用のとうもろこしの防除で定評のある「プレバソン®フロアブル5」を飼料用とうもろこしに適用拡大できないかというアイデアについて、専門家の立場から意見が聞きたいとご相談があり、剤の特長やそれに伴う見通しについて、お話をさせて頂きました。
――具体的にはどのようなお話をされたのでしょうか。
全農とはまず、先程申し上げた食料安保について意見交換し、向かうべき大きな方向性について確認しました。
「良質な食料を合理的な価格で安定的に入手できる」というのが食料安保の根幹ですが、その中で飼料用とうもろこしは100%輸入に頼っているのが実情です。
それがお金を出しても買えない状況になってきたら、日本はどうするのか?
国内生産について、何らかの取り組みを開始すべきであることを共有しました。
その初手として、「大規模省力輪作体系を普及することで日本の農地を守ると同時に、輸入に依存する大豆や飼料用とうもろこしの栽培を拡大しよう」ということになりました。
ご存じの通り、日本の水田では高齢化や人手不足で営農が継続できないケースが増えつつあります。
飼料用とうもろこしの収穫までの労働時間は、米に比べて1/10以下で、限られた要員で大規模化するには欠かせない、時間あたりの収益性が最も高い作物と言えるでしょう。
水田自体も、飼料用とうもろこしや大豆を含めた輪作により、土づくりや土壌病害・雑草発生の軽減といったメリットも期待できますね、という話にもなりました。
実証ほ場で収穫された飼料用とうもろこし(子実)に思わずにっこりする関係者
――プレバソン®フロアブル5の適用拡大については、各方面から要望が上がったそうですね。
昨年の古川の実証ほ場に行かれた方はわかると思うのですが、食害率が大変高く、相当数の飼料用とうもろこしの子実に穴が開いている状況でした。
生産者の多くは、食用のとうもろこし防除で定評があるプレバソン®フロアブル5がアワノメイガによく効くということをご存じで、「何とか登録をとれないか」という話が出ていました。
それを受けた全農が農水省関係部署に早期登録についてご相談されたと伺っています。飼料用とうもろこしの生産者団体である日本メイズ生産者協会の方々も、農水省を訪問される機会には、プレバソン®フロアブル5の登録を要望されたとのことで、こうした各方面からの働きかけによって、農水省の方でも現場の窮状を大変深刻に受け止めて下さったようです。
具体的な登録への動きとしては、令和4年12月14日付で、農水省農薬対策室から農薬工業会宛に、飼料用とうもろこし(子実)への適用拡大に関して、食用のとうもろこし(子実)のデータ読み替えを許可します、という事務連絡が発出されました。
当社では関係メーカーとも協力し、食用とうもろこしのデータを整理して申請書類を仕上げ、急ぎ登録拡大申請をしました。
同時に、関連する行政から早期登録要望が出されるなどの動きもあり、最終的に5月24日に登録を取得することができました。
そのおかげで、プレバソンの適用拡大が今作に間に合ったのです。
――適用拡大でドローン散布が可能となりました。
冒頭で申しあげたとおり、アワノメイガの防除適期には、飼料用とうもろこしの草丈が相当高くなるので、ドローンでの効率的な散布が適しています。
プレバソン®フロアブル5はよく溶けるので、ドローンのノズルが目詰まりする心配がないですし、地上散布より少ない薬液量でも「浸透性」と「移行性」にも優れていて、ドローン散布にも最適です。
特にアワノメイガは葉裏に産卵する性質があるため、薬液のかかりづらい葉裏にまでしっかり浸透して、ふ化幼虫を防除することができます。
また、プレバソン®フロアブル5は、飼料用とうもろこし以外にも50以上の幅広い作物に登録されているので、隣接して栽培している作物への配慮がしやすく、使いやすいという利点もあります。
プレバソン®の有効成分は「クロラントラニリプロール」です。田んぼで使う「フェルテラ®」という箱粒剤の有効成分と同じもので、世界で最も使用されている殺虫剤有効成分のひとつでもあります。
使い方としては、残効が長いので、被害が出る前に早めに散布することができます。
絹糸抽出期で雄穂が出揃った頃(雌穂が出来る前に)、先ほど申し上げた通り、アワノメイガが卵からふ化した直後に早めに散布しておいて、飼料用とうもろこしを守ってあげる。
そんな感覚で使うのがよいと思います。
プレバソン®フロアブル5の特長をまとめると、浸透性と移行性に優れ、ドローン散布に適していて、残効が長く、経済性に優れる、ということが言えると思います。
――最後に、古川での大規模実証もそうですが、各地での実証試験の結果はいかがですか。
農研機構により岩手とつくばで様々な試験をして頂いていますし、今回の古川もそうですが、全農と日本メイズ生産者協会との協力体制での実証試験も行っています。
日本メイズ生産者協会の方々も非常に熱心で、これまでも除草剤の試験の経験も持っておられ、緻密な設計で試験を実施して頂いています。
私は千葉で行っている実証ほ場を見てきました。無処理・1回散布・2回散布と処理区があるのですが、散布区では本当にいい結果が出ています。
無処理区で39%ぐらいの被害の一方、散布区は被害がほとんどゼロ、といったケースをはじめ、大変よく効いています。
ただ、散布のタイミングが遅れている区もあって、播種のタイミングが異なることも考慮に入れて防除しないと、効果に差が出るということがわかり、それはそれでいい教訓となる事例だと考えています。
早めに散布するのがいいという裏付けになったのではと思っています。
現在、飼料用とうもろこしの主産地は北海道ですが、今後の国内産の面的拡大には、本州での作付増が必須となっていくと思います。
北海道のような気温の低い地域ではアワノメイガの発生は年1回、本州ですと岩手県あたりでも年2回、千葉県以西では年3~4回は発生しますので、この害虫のしっかりした防除が、面的拡大の実現の重要なカギになると思います。
防除体系の確立のために、各地の実証試験で役に立つ結果がどんどん出つつあり、今秋の終わりにはまとまった知見になるのではと、大いに期待しています。
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