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【令和6年度農薬危害防止運動】楠川雅史農水省農薬対策室長に聞く2024年5月31日

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令和6年度の農薬危害防止運動のスタートにあたって農水省の楠川雅史農薬対策室長に重点指導項目などを聞いた。

農水省消費・安全局農産安全管理課 楠川雅史農薬対策室長農水省消費・安全局農産安全管理課 楠川雅史農薬対策室長

――改めて農薬危害防止運動が始まった経緯と運動の趣旨を聞かせてください。

農薬危害防止運動は、そもそも有機リン剤の危害防止運動として昭和28(1953)年に始まりました。戦後、パラチオンという農薬は非常に効果は高いけれども、一方で人や家畜の被害が多かったため、農家の健康保護を主題として危害防止運動が始まったということです。

その後、有機リン剤に限らず、さまざまな農薬が販売されるなかで同じように安全を確保していくため、昭和37(1962)年に農薬危害防止運動と名前を変えて現在に至っています。

また、時代の変化とともに農産物への農薬の残留や、河川の汚染などの防止へとテーマが広がっていきました。農薬を散布した農地の周辺住民に健康被害が生じないようにする対策も必要となっています。これらの課題をふまえ、指導する内容は農薬取締法の見直しと併せて広がってきたということです。

――今年度の運動のテーマと重点指導事項は何でしょうか。

一つ目は農薬を使用する人を対象とした、「適切な防護装備の着用の徹底」です。

二つ目は「土壌くん蒸剤を使用した後の適切な管理の徹底」です。クロルピクリン等の土壌くん蒸剤を使用した際に、適正に被覆を行わなかったことが原因で、農薬使用者や近隣住民の方々が、目の痛み等の症状を訴えた事例が依然として多く報告されています。

住宅地近く特に気遣い

三つ目は「住宅地等で農薬を使用する際の周辺への配慮及び飛散防止対策の徹底」です。住宅地の近くで農薬を使用する際には、あらかじめ近隣住民の方々に農薬散布日時等を知らせると共に、周辺へ農薬が飛散しないよう、飛散低減ノズルの使用や、飛散しにくい剤型を使用することで住民の方々が健康被害を訴えるといった事例を防止しようということです。

四つ目は「誤飲を防ぐため施錠された場所に保管するなど、保管管理の徹底」です。いろいろなケースがありますが、農薬を使用する人自身が間違って飲んでしまうという事例のほか、保管していた農薬を、農薬を使用する人以外が誤飲してしまったということもあります。

この4点を重点指導項目としています。いずれにしても適切な防護装備の着用や、保管管理などは、農薬のラベルをしっかり読んでいただければ防止できるということです。また三つ目の重点指導項目である住宅地で農薬を使用する際の周辺への配慮については、周囲の人家、施設の利用者、通行人など、周りに気を使っていただくことでさまざま事故は防げるのではないかということから、運動のテーマは昨年に引き続き「守ろう 農薬ラベル、確かめよう 周囲の状況」とし、今年度の運動を展開していきます。

産直品の「安心」心して

――とくに最近の情勢をふまえて、注意を促す事項はありますか。

一つは、農産物直売所への出荷です。直売所へ出荷した農産物で使用基準違反や残留基準値超過などが最近、数件ですが立て続けに起きました。原因はさまざまですが、たとえば普段は自家用栽培だけで出荷していなかった方が、思ったよりたくさんに収穫できたからと出荷した農産物で基準値超過が見つかったことがありました。おそらく、そういう方は、農薬を適正に使用することの重要性について認識する機会が少なかったのではと考えられます。

こういったケースでは、事前に出荷する可能性がある人に対して農薬のラベルをしっかり読んで使用することや、農薬使用履歴をつけて出荷することなどを事前に幅広く周知していただくことが重要です。農産物を受け取る直売所側が農薬使用履歴を確認すれば、防ぐことができたのではないかという事例もありました。 

また、インターネットのフリーマーケットサイトで通常なら廃棄されるような摘果や間引きされたリンゴやかんきつなどの農産物が販売されていたという事例がありました。

そのような農産物では、農薬ラベルに表示されている使用時期に収穫前日数が定められている場合、摘果や間引きの時点でその日数に満たず、基準値を超過する農薬が残留している可能性があります。また、摘果や間引きされた農産物は通常どおり収穫して出荷、販売されるものにくらべてサイズが小さいため、農薬の残留濃度が高くなる可能性もあることから、注意喚起しました。

――直売所についてはJAの出荷受付の担当者なども注意が必要ですね。

出荷者にはあらかじめ農薬の使用について指導し、出荷するときは農薬使用記録である帳簿の写しを提出してもらうなど取り組みをすれば農薬が適正に使用されていない農産物が販売されることはかなり防止できるのではないかと思います。

――インターネットでは農産物だけでなく、農薬そのものの販売も行われています。

それ自体は悪いことではなくインターネットで販売する場合でも、きちんと農薬取締法に基づいて販売届を出してもらわなければならないということです。しかし、それをやっていなかった事例が確認されています。

生産者の方がこうした販売ルートを利用することがあるかも知れませんが、得てして有効期限が近くなったため処分品のようなものとして安く販売していることがあります。やはりきちんと届出を行っている業者から買っていただくことが大事ではないかと思います。

――住宅地の周辺などで農薬を使用する場合に、とくに注意すべきことは何でしょうか。

重点指導項目部分でも説明しましたが、依然として、クロルピクリン剤など土壌くん蒸剤を使ったあとに適切に被覆が行われていなかったことが原因で、周辺住民が目が痛いといった被害を訴えたという事例が報告されています。クロルピクリンに限らず、近くに住宅、学校や病院があるといった環境では、農薬を使わなくていい場合には使わない、また使う場合は飛散しにくい粒剤等を使うといった工夫をしていただくことが重要になってくると思います。

また、周辺の住民の方々に農薬を散布する予定や時間などを知らせ、その時間帯は窓を開けないようお願いするなどで被害を未然に防ぐことができます。また、公園や街路樹での使用も想定されるわけですから、その場合は立て札などを出すことで広く周知することも必要だと思います。

――農薬危害防止運動についてJAの関係者に期待することは何でしょうか。

JAは農薬の販売者であると同時に、農家のみなさんから農産物の出荷を受け、販売にも責任を持っている立場ですから、ぜひ行政から出す情報に注意を払ってもらい、農薬の適正な使用にご協力をいただければと思います。

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