【特集:令和3年度農薬危害防止運動】運動テーマ継承 農薬は周りに配慮し正しく使用2021年5月31日
農林水産省は厚生労働省、環境省などと共同で、農薬を使う機会が増える6月から8月にかけての3カ月間、「令和3(2021)年度 農薬危害防止運動」を実施する。本年度の運動テーマは昨年度を継承し、「農薬は 周りに配慮し 正しく使用」。本年度はまた、実施要綱の中に、新型コロナウイルス感染症への対応についての項目を新たに立て、注意喚起を促している。感染拡大防止に十分配慮しつつ、農薬使用者のほか、毒物劇物取扱者、農薬販売者等を対象に、農薬の取り扱いに関する正しい知識の普及と啓発に取り組む。
実効性高める適正使用周知
農薬の適正使用を徹底 コロナ禍への対応も
農薬は病害虫・雑草による農作物の収量低下や品質劣化を防ぐ役割を果たし、農業生産性の向上と食の安定供給に大きく貢献している。
その安全性については、農薬取締法をはじめとする関連法規により、使用方法や残留基準などが厳密に定められている。適正に使用する限り、農薬は安全だ。
しかしながら、農薬使用者や周辺環境などに対する被害事例や農作物から基準を超えた農薬成分が検出される事例なども依然散見されている。本運動の趣旨と目的を理解し、より実効性のある取り組みを進めなければならない。
コロナ対応については昨年度も実施要綱の趣旨の中で触れていたが、本年度はこれに加え、実施要綱の第7項目として「新型コロナウイルス感染症への対応」が新たに盛り込まれた。
運動の実施に当たっては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に十分配慮し、講習会や対面での農薬使用者への指導については対面によらない方法で実施する。対面で実施する場合は、時期を変更する、感染防止対策を徹底するなど、各地域の実情に応じた柔軟な対応をとるとしている。
コロナ禍で直接対面が難しくなっている状況だけに、報道機関による情報発信やインターネットの活用により、現場での情報共有や意思疎通をより密にして取り組みたい。
重点指導項目は四つ 使用履歴の記帳に力点
平成30(2018)年12月1日に施行された改正農薬取締法で「農薬使用者は、農薬の使用に当たっては、農薬の安全かつ適正な使用に関する知識と理解を深めるように努める」とされたことを踏まえ、改めて農薬の適正使用などに関する必要な知識の普及、農薬の使用に関する情報提供などを通じて農薬使用者の自発的な知識・理解の向上や農家の適正使用を図っていく。
適正使用を周知する媒体では、引き続き令和元年度の実施要綱に盛り込んだ三つの運動テーマ「農薬を知る。理解する。適正に使う。」の周知に努める。
重点指導項目として掲げているのは、(1)農薬ラベルによる使用基準の確認と使用履歴の記帳の徹底、(2)土壌くん蒸剤を使用した後の適切な管理の徹底、(3)住宅地等で農薬を使用する際の周辺への配慮及び飛散防止対策の徹底、(4)誤飲を防ぐため、施錠された場所に保管するなど、保管管理の徹底の四つ。
令和2(2020)年度には、農業者による農薬の不適正使用の結果、当該農薬の有効成分の農作物中の残留濃度が食品衛生法に基づき定められた残留基準値を大幅に超過し、当該農作物を摂食した場合に健康に悪影響を及ぼすおそれがある事案が発生した。このような事案の発生を防ぐために、農薬の適正使用と併せて、農薬を使用した年月日、場所、対象農作物、使用した農薬の種類や名称、単位面積当たりの使用量や希釈倍数を内容とする使用履歴の記帳を徹底するよう指導することとしている。
三つの実施事項 普及啓発対象を拡大
本年度の運動における具体的な実施事項は、次の3項目に要約される。
1.農薬及びその取り扱いに関する正しい知識の普及啓発
(1)広報誌等による普及啓発
(2)啓発資料の配布や情報発信、講習会等を通じた啓発普及
(3)指導・周知が行き届きにくい農薬使用者への普及啓発
(4)医療機関等に対する農薬中毒発生時の対応についての情報提供等
2.運動中に実施した活動や取り組みに係る検証の実施
3.農薬使用者、農薬販売者等の関係者への指導等
農薬及びその取り扱いに関する正しい知識の普及啓発に関しては、新たに(3)の「指導・周知が行き届きにくい農薬使用者への普及啓発」が盛り込まれた。
講習会などの開催や巡回による指導・周知が行き届きにくい農薬使用者に対しても指導・周知の徹底が図られるよう、地域の実情に応じて、生産者団体や作物ごとの部会及び出荷先に加えて、農産物直売所、青果市場、農薬販売店などを通じた情報発信を行うこと。
また、無人マルチローターを利用して農薬散布を実施する場合、通常よりも高濃度の農薬を使用する可能性があるため、農薬の適正使用に関して十分理解しておくことが必要である。このため、無人マルチローターの関係団体、メーカー、販売店、教習施設などに対して、無人マルチローターを用いる農薬使用者への、普及啓発資料の配付や講習会参加の呼びかけを要請することとしている。
指導などにおける留意事項は四つ
農薬使用者、農薬販売者などの関係者に対する指導の詳細は、次の四つの留意事項にまとめられている。
1.農薬による事故を防止するための指導等
2.農薬の適正使用等についての指導等
3.農薬の適正販売についての指導等
4.有用生物や水質への影響低減のための関係者の連携
事前散布告知 飛散の防止も
事故防止の注意事項を徹底
農薬使用時の不注意などによる事故を未然に防止するためには、農薬使用者、病害虫防除の責任者、防除業者などへの関係法令や過去の事故例とその防止策をまとめた「農薬による事故の主な原因等及びその防止のための注意事項」の周知徹底が求められる。
人に対する事故の原因としては農薬用マスク、保護メガネなど防護装備の不備や防除器具の点検不備などがある。農薬散布時には、マスクやメガネなどの防護装備を着用するとともに、現場混用の際は、「農薬混用事例集」などを参考にしたい。
土壌くん蒸剤の使用にあたっては、防護マスクのほか、施用直後に適正な資材を用いて被覆を完全にすることも重要になる。
住宅地周辺では、農薬を散布する日時や農薬の種類を事前に告知しておくことはもちろん、農薬が飛散して周辺住民や子どもたちに健康被害をおよぼさないように注意しなければならない。
有人・無人航空機に関わる留意事項の遵守を徹底
有人ヘリコプター、無人ヘリコプターまたは無人マルチローターなどの有人・無人航空機を用いて農薬を散布する場合、関係法令を遵守することはもちろん、特に無人航空機で農薬を散布する場合は、航空法に基づき事前に国土交通大臣の許可・承認を受けることが必要となる。
令和元(2019)年7月30 日付で、「無人ヘリコプターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」と「無人マルチローターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」が通知された。
これらの通知に共通する留意点のひとつは、有人・無人航空機のいずれであっても、事前に散布日時や農薬の種類などを周辺住民に周知して危害防止に万全を期すとともに、作業関係者の安全を十分に確保することである。
また無人航空機を用いて農薬を散布する場合は、実施区域周辺の地理的状況などの作業環境を十分に勘案し、実施区域及び実施除外区域の設定、散布薬剤の種類および剤型の選定等の空中散布の計画を検討することをはじめとして、10項目にわたる留意点がまとめられている。
一方、農薬事故や被害原因では保管管理不良や泥酔などによる誤飲誤食が多い。農薬やその希釈液などは、飲食品の空容器などに移し替えたりせず、施錠された農薬保管庫に保管するなど、管理の徹底が求められる。
さらに毒劇物である農薬の飛散、漏れ、流れ出しなどにより、保健衛生上の危害が生ずるおそれがあるときは、直ちに保健所、警察署または消防機関に届け出るとともに、危害を防止するために必要な応急の措置を講じなければならない。また毒劇物たる農薬の盗難、紛失にあたっては、直ちに警察署に届け出なければならない。
農薬の適正使用を徹底 薬剤耐性菌対策も
農薬による危害を防止し、農作物の安全を確保するために、農薬使用者は、適用作物や使用量、希釈倍率、使用時期および使用回数などの農薬使用基準、適用病害虫の範囲、使用方法などを遵守しなければならない。
農薬の適正使用においてはGAP(農業生産工程管理)も有効である。農業者に対しては、「GAPの共通基盤に関するガイドライン」や、GAP認証の取得にあたって求められる農薬適正使用に関連する事項を参考にした具体的な取り組みの積極的な指導が求められている。
農薬の散布作業では、飛散防止も重要になる。防除しようと思った作物以外の作物に農薬が飛散した場合、その作物に農薬登録がなければ非登録農薬の使用となる。
また水稲除草剤の使用で、十分な止水期間をとらずに水田内の水を流してしまったことなどにより、河川から農薬登録保留基準案を上回る濃度の農薬成分が検出される事例がみられる。注意事項に記載された止水期間を遵守し、水漏れの原因となるけい畔の管理を行う必要がある。
農薬登録番号がないにもかかわらず、農薬としての効能効果をうたっている資材や病害虫の防除効果がある資材は、無登録農薬の疑いがあり、農薬取締法に違反する可能性があるため、使用も販売も行ってはならない。
その他の留意事項では、薬剤耐性菌対策も重要。農作物などの防除における抗菌剤(殺菌剤)の使用に関しては、農作物などの病害虫防除の分野での薬剤耐性菌の発達が課題となっている。同一系統の薬剤の連続散布を避け、病害虫の発生状況に応じた計画的かつ必要な範囲での使用が重要であることに留意することが求められている。
農薬の適正販売を徹底
農薬を販売するには、都道府県知事への届け出が、毒劇物に分類される農薬の販売には都道府県知事などへの届け出と登録が義務付けられている。 毒劇物に分類される農薬の販売においては、譲受人の身元ならびに使用目的や使用量が適切かどうかを十分に確認する必要があるとともに、一般消費者への販売および授与を自粛するよう指導しなければならない。
近年、農薬に該当しない除草剤がドラッグストアやインターネットで販売されるようになっており、その際の「非農耕地専用」という表示が、購入者に公園や緑地などであれば使用できると誤解される事例がある。
農薬に該当しない除草剤の販売においては、容器や包装に農薬として使用できない旨を表示することや、農耕地以外の場所でも農作物の栽培・管理に使用できない旨の周知に努めることが求められる。
販売登録必要 利用範囲守り
蜜蜂などの有用生物や水質への影響を低減
農薬使用においては蜜蜂や水域の生活環境動植物など環境への配慮も不可欠となる。蜜蜂の被害防止対策では、特に前年度被害が生じた場所での被害の再発や同一の場所での複数被害の発生など、被害が継続している地域においては、行政機関、養蜂組合、農業団体などの関係者が協議する場を設けるなどにより、原因究明とそれに基づく被害軽減対策の推進を徹底することが求められる。
被害を軽減させるには、農薬使用者と養蜂家との間で農薬散布の情報共有や巣箱の設置場所の工夫・退避、粒剤の使用や蜜蜂の活動の盛んな時間の使用を避けるなど、農薬の使用の工夫が有効となる。
蜜蜂の被害軽減対策では、養蜂家に対し、日頃から巣箱の移動手段を検討するとともに、退避場所における新たな蜜源を確保するなどの取り組みに努めることなどを指導。また農薬使用農家に対しては、害虫の発生源になるほ場周辺などの雑草管理について、農薬を使用する圃場のけい畔や園地の下草などの雑草管理を徹底する。
水域の生活環境動植物の被害や水質汚濁への配慮も重要になる。特定の農薬を地域で集中して使用すると、その農薬に感受性の高い生物種に大きな影響を与える可能性があるため、できるだけ多様な農薬を組み合わせて使用する必要がある。
またゴルフ場の農薬散布では、排出水に含まれる残留実態を把握しつつ、ゴルフ場関係者への指導・助言に努める必要がある。
啓発活動の礎 JAの役割大
関係団体の独自の啓発 活動が運動の基盤に
農薬危害防止運動の基盤のひとつは、JA全農や農薬企業の団体である農薬工業会、農薬卸商の団体である全国農薬協同組合など、関係団体が毎年取り組んでいる独自の啓発活動である。
JA全農は、JAグループとして昭和46(1971)年から安全防除運動に取り組んでおり、農薬の適正使用と安全な農作物の提供のために、「農作物、生産者、環境」という三つの安全を掲げ運動を展開してきた。農薬の適正使用の推進に向けて行ってきた防除日誌の記帳や防除暦の検証は、本年度の運動の中での重点活動とも重なっており、その果たす役割と責任は大きい。
農薬の使用に当たっては、農薬ラベルに記載されている情報の確認を常に励行したい。登録内容については農林水産省のホームページ「農薬登録情報提供システム」で、登録情報は、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)のホームページ「農薬登録情報・速報」で確認できる。
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