除草剤抵抗のある変異酵素に有効な阻害剤を創出 アグロデザイン・スタジオ2022年3月8日
株式会社アグロデザイン・スタジオは、株式会社Preferred Networksとの共同研究により、農薬の作用点として知られるアセト乳酸合成酵素(Acetolactate synthase:ALS)を分子標的とした低分子化合物の創出を行い、複数の農薬リード化合物の創出に成功した。本リード化合物がアセト乳酸合成酵素の除草剤抵抗性変異に有効であることが酵素アッセイによって確かめられたので、3月8日の日本農薬学会第47回大会にて発表された。
近年、農薬は安全性基準の厳格化に起因する開発期間の長期化や開発費の増大が課題となっており、より効率的な創農薬技術が求められている。こうした背景から、安全性の課題を解決する手法として、分子標的農薬が有望視されている。分子標的農薬は、防除対象生物が持つ酵素など特定のタンパク質分子を標的として結合することで、その酵素の働きを阻害し、結果として除草・殺虫・殺菌をする農薬。標的分子として、対象生物のみが持つ酵素を選定することで、ヒトや動物に対する毒性リスクの低い農薬の開発が可能となる。
本研究では、除草剤の標的分子として植物のアセト乳酸合成酵素に着目した。アセト乳酸合成酵素は、ロイシンなどの分岐鎖アミノ酸の生合成経路においてアセト乳酸を合成する重要な酵素。この酵素を標的にすることで、低薬量で高い除草作用を示す農薬の開発が可能になる。また、この酵素自体が動物には存在しないため、この酵素を標的とした農薬は安全性の高い農薬となりうる。実際、1970年代からスルホニルウレア系除草剤をはじめ多数の剤が開発されており、除草剤の中では大きな分野を占めている。一方、これら既存薬に対する抵抗性雑草の出現が深刻となっており、その原因としてアセト乳酸合成酵素を構成するアミノ酸残基の点変異があげられる。そのため抵抗性雑草対策剤として、変異型アセト乳酸合成酵素に効果のある新規化合物が望まれている。
そこで、2021年4月より両社でアセト乳酸合成酵素を標的とした新規除草剤の創農薬に関する共同研究を開始した。この共同研究において、アグロデザインによる結晶構造解析と酵素および植物に対する試験技術、PFNのAI創薬プラットフォームによるin silicoスクリーニングなどを組合わせて、約半年間で複数の新規な農薬リード化合物の創出に成功している。
今回、それら新規リード化合物を対象に、抵抗性変異型酵素に対する阻害効果の解析を行った。その結果、新規ケモタイプ(化合物骨格タイプ)である複数のリード化合物が、アセト乳酸合成酵素の抵抗性変異体(アミノ酸の点変異体)に対して有効であることが、試験管内試験で判明した。特に、より有効な阻害剤が求められているW574L変異型アセト乳酸合成酵素に対して、野生型(変異がないタイプ)の酵素と同等に効果があった。このことは、本共同研究で行った一連の創農薬アプローチによる新規ケモタイプ取得が、抵抗性対策にも有効だということを示唆している。
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