農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識 2013
【現場で役立つ農薬の基礎知識 2013】[10]夏のカンキツ・カキの病害虫防除2013年8月9日
カンキツ類
・黒点病
・褐色腐敗病
・ミカンサビダニなど
カキ
・炭疽病
・フジコナカイガラムシ
共通
・カメムシ類
本年のこれまでの降雨量は平年よりも少ないところが多く、カンキツ、落葉果樹ともに病害の発生は問題になっていないようである。一方で、少雨時には発生が増加すると心配されるミカンハダニやスリップス類の発生も比較的少なく経過している。しかし、今後の気象条件や病害虫の発生動向によっては思わぬ被害を生じることもあるので、現在の発生が少ないからといって油断することなく今後の対応にあたる必要がある。ここでは今後、問題になりそうな病害虫とその対策について紹介する。
病害虫被害は“人災”
「油断大敵」がキーワード
◎カンキツ類
【黒点病】
現時点での発生は少ない。しかし、降雨量が少ないことから次の散布が遅れ気味になっている園が目立つ。降雨量が少ないので平年の散布パターンとは異なっている園地が多いが、残効は散布後の累積降雨量250?300mmまたは散布後1カ月で消失する。このため、好天が続いているからといって油断せずに薬剤の残効を考えた散布を実施していくことが大切。そうしないと、思わぬ大雨で黒点病の大発生を招く。
なお、極早生品種では一般に9月下旬から収穫が始まるので、平年と散布時期がずれているといっても後期黒点病対策として8月下旬?9月上旬にはマンゼブ水和剤を散布する。そうしないと収穫前日数が30日までの同剤が使えなくなってしまう。散布にあたっては樹全体に散布することが大切。果実中心の散布では効果は低い。これは樹体に付着した薬剤を降雨で分散させることによって効果が発揮されることをねらうもので、できるだけ多くの薬液を樹体、それも上部に付着させる。樹体は薬剤のタンクだという認識を持つことが大切。このことは褐色腐敗病対策でも同様。
【褐色腐敗病】
9月?10月の気象条件に大きく左右される病害で、特に発生を助長するのは台風。発病果実は商品価値がなくなるだけではなく、輸送中や貯蔵中にも被害が拡大するので万全の対策を講じておく。
基本は後期黒点病対策として散布するマンゼブ水和剤。収穫期近くになって散布できない場合にはクレフノン加用リドミル銅水和剤(収穫14日前まで)やアリエッティ水和剤(同前日まで)を使用。ただし、アリエッティ水和剤は着色初期の高温時に散布すると薬害(日焼けの発生助長)を引き起こす。このため、日中の高温時の散布は絶対に控える。また、他剤との混用した場合には薬液だまりが褐変する薬害を生じることがあるので、必ず本剤の単用散布とする。
なお、マルチ被覆園では本病の発生は問題にならないと油断してはいけない。台風襲来時にマルチがはがれてしまうと土壌中の病原菌が強風雨で吹きあげられて果実に感染する。台風の襲来前にはよく見回ってはがれそうなところは万全の補修をしておく。
【かいよう病】
降雨が少ないにもかかわらず、一部の産地や「はれひめ」などの本病に弱い品種で発生が目立っている。また、高糖系温州で本病によって落葉しているところもある。これは強風によって発生が助長されたものである。このため、褐色腐敗病と同様に今後の台風の襲来いかんによっては大きな被害を生じることが心配される。銅剤の散布はもちろんであるが、防風垣や防風ネットによって強風が当たるのを防ぐことが最も重要である。
【果実腐敗】
完熟ミカン生産にともなって果実腐敗の発生が増加している。果実腐敗は収穫前の薬剤散布だけで防ぐことは難しく、総合的な対策が必要になる。8月?9月のカルシウム剤散布による果実体質の強化は重要である。
収穫前に散布する腐敗防止剤として、ベンレート水和剤、トップジンM水和剤またはベフラン液剤25の単独散布では効果が不安定。このため、ベンレート水和剤4000倍またはトップジンM水和剤2000倍にベフラン液剤25の2000倍を加用するか、ベフトップジンフロアブルを使用する。
【ミカンサビダニ】
サビダニはとても小さく加害初期に肉眼で虫体を確認することはできず、被害が生じてから気付くことになる。害虫というよりも病気の一種と考えるべきで、予防が大切。しかし、初期被害を確認してからの防除でも十分に対応できるので、日頃の観察がとても大切である。前年多発した園や周囲に放任園などがある場合は特に注意が必要。薬液の付着ムラがあると十分な効果が得られないので、散布にあたっては、「ていねいに、たっぷり」を心がけ、下枝や内部まで薬液をよく付着させる。
【ミカンハダニ】
梅雨期までのマシン油乳剤の利用によって、あるいは土着天敵利用の高まりによって殺ダニ剤の使用回数が抑えられてきたことから、各種殺ダニ剤に対するミカンハダニの感受性低下は進んでいない産地が多い。このため、果実被害を抑制するために8月下旬?9月上旬に散布される各種殺ダニ剤の効果は高く、ミカンハダニの被害が問題になることは少ない。ただし、収穫時期が遅い高糖系温州や中晩柑では10月以降密度が上昇することもあるので、果実の観察を怠らないようにするとともに、寄生を認めたら初秋季に使用した剤以外の殺ダニ剤で駆除する。
【チャノキイロアザミウマ・ハナアザミウマ類】
8月下旬?9月上旬はチャノキイロアザミウマの後期果実被害を防止するための重要な防除時期である。また、ハナアザミウマ類はセイタカアワダチソウなど多くの花の花粉で増殖するので、園周辺の雑草などが開花しないうちに刈り込んでおく。本種は果実同士がくっつきあった部分に寄生するので、果実の着色が始まったらそのような部分をよく観察する。防除薬剤はネオニコチノイド系剤、スピノエースフロアブル、ハチハチフロアブル、コテツフロアブルなど多いので、収穫前日数ならびに同時防除効果を狙える他の害虫のことも考慮して選択する。
◎カキ
【炭疽病】
現時点での発生は少ないようである。9月末までは感染して発病するので、今後の雨によっては多発もあり得る。このため、散布後の降雨量と日数をみながら、次回の散布を計画する。前回散布した殺菌剤の残効がまだ結構残っていたとしても、長雨の予報が出たら迷わずに散布することが大切。手散布では果実中心だけの散布ではなくて、樹全体の、特に樹冠上部の葉表にたっぷりと散布する。そうすることで、樹全体の付着薬量を増加させ、長雨に対抗できる。
【フジコナカイガラムシ】
場所によっては寄生果の多いところがある。8月上?中旬が散布適期。かけムラができないように、十分量をていねいに散布する。本種の天敵に悪影響が少ない薬剤を選択する。
◎共通
【カメムシ類】
越冬量が少なく、これまでは少発生の状態で経過している。ヒノキ等の球果の結実状況は地域によって異なり、平年よりやや少?やや多くと、バラつきがある。現時点でヒノキ等からの離脱は早くても9月中旬頃からで、量は少ないと思われる。しかし、地域や園地によっては飛来量が多いところもあり、日頃のこまめな観察を欠かさず、飛来を確認した場合にはただちに駆除する。
◇
病害虫被害は天災ではない。人災である。くれぐれもこれまでの失敗を繰り返さないように気を引き締めて万全の準備を講じるとともに、気象状況や病害虫の発生動向に的確に対応した防除を計画し、その実施を図ることが大切である。特に今年のキーワードは「油断大敵」である。
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