農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識 2013
【現場で役立つ農薬の基礎知識 2013】[12]秋冬野菜の病害虫防除2013年8月9日
・病害虫の生態を知り効率的な防除を
・農薬は時期と発生状況にあわせて選ぶ
・防除の前後で畑の観察を忘れずに
・秋冬野菜の問題病害虫とその防除対策
ここにきて猛暑となり、さすがの病害虫もへばってくれるといいのだが、暑いなら暑いなりに発生が多くなる病害虫もいるので厄介である。このため、暑い中大変ではあるが、畑の見回りは欠かさず、病害虫の発生状況には十分にご注意願いたいものである。これからの時期の育苗や栽培では、オオタバコガやハスモンヨトウなど大型で厄介な害虫の被害が問題になるので、これらの害虫防除を中心とした防除が重要である。
以下、主要な病害虫の防除のポイントを整理してみたので、参考にしてほしい。
なお、使用できる農薬については、適宜記載してあるが、紙面の関係上、希釈倍率などの実際の使用場面で必要なラベル情報は省いてあるので、実際に使用する際には、農薬のラベルの内容をよく確認してから使用してほしい。
※この記事は2013年に掲載した内容です。最新記事はこちらをご覧ください。
農薬の個性を活かし、
病害虫の生態に合わせた防除を
◆病害虫の生態を知り効率的な防除を
防除の効率をあげるには、まずは対象となる病害虫の生態をよく知る必要がある。というのも、病害虫も生き物なので、好きな環境と嫌いな環境があり、病害虫が嫌がるような環境にほ場を変えてやるだけで、病害虫の発生を少なくすることができるからだ。そうすると、効率的な防除がしやすくなる。
例えば、アブラナ科野菜の根こぶ病は、酸性土壌を好むという性格を持っており、石灰質肥料などで、土壌をアルカリに矯正するだけで発生は極端に減る。
このように、病害虫の生態を逆手にとって行う防除法を耕種的防除といい、栽培技術の一部として定着しているものも多数あるので、実行できる方法があれば是非お試しいただきたい。
○耕種的防除の例
(害虫)防虫ネット、粘着紙、周辺雑草防除、栽培時期の移行、手取り など
(病害)熱消毒、土壌還元消毒、拮抗微生物利用、有機物施用、輪作、抵抗性品種の利用、弱毒ウイルス、栽培時期の移行、適正施肥、雨よけ栽培 など
(雑草)機械除草、耕運、マルチかけ など
◆農薬は時期と発生状況にあわせて選ぶ
農薬はそれぞれの有効成分の違いによって性格が異なっている。例えば、葉の表面を覆うように付着して病害虫を迎え撃つもの、植物の根から吸収されて作物の体内の隅々に行き渡って効果を示すもの、作物の抵抗性を誘導して作物を病気に罹りにくくするもの、幼虫にしか効かないもの、害虫が食べてはじめて効果が出るものなど様々である。
病害虫を上手に防除するには、農薬それぞれの性格を十分に把握した上で、その性格にあった使い方が必要になる。そのためには、農薬のラベル、解説技術資料などをよく読み、特に「使用適期」(農薬の効果が最も出やすい使用時期)を確実に把握しておくとよい。
例えば、大きくなった害虫には効かない農薬の場合、大きくなった害虫には当然ながら効かないし、病害が発生する前に散布しなければ効果が出ない農薬を病害の発生後にいくら散布しても全くの無駄になってしまう。このような無駄なことがないようにするには、常日頃の農薬情報の収集と病害虫の発生状況観察の両方を忘れないようにするのが肝要である。
◆防除の前後で畑の観察を忘れずに
栽培期間中、特に防除の前後には、病害虫がどうなったか必ず観察するようにしてほしい。そうすることで、「こういう状況の時に散布したら十分に効いた」とか、「散布の時ちょっと大きくなった虫が多かったみたいで十分な効果が出なかった」など、次の防除対策に大変役に立つ情報が得られる。そして、このような解析に役立つのが防除日誌である。できれば、できる限り散布前後の病害虫の様子なども記録しておくとさらに役に立つので、一度チャレンジしてみてはいかがだろうか。
◆秋冬野菜の問題病害虫とその防除対策
【施設栽培トマトの黄化葉巻病】
近年トマト栽培で大きな問題となっているのはシルバーリーフコナジラミが媒介するトマト黄化葉巻病である。この病害は、トマト黄化葉巻病ウイルス(TYLCV)によって起こり、新葉が巻いたり、小葉化、黄化などの症状が起こり、株全体が萎縮する。短期間にシルバーリーフコナジラミがほ場全体に病原ウイルスを伝播して発病させるため、収量が激減し、世界中のトマト農家に恐れられている。
トマト黄化葉巻病の発生を防ぐためには、側窓・入口・天窓への防虫ネット(0.4mm目)の設置や苗での防除の徹底、植付時の殺虫粒剤の使用による初期防除、栽培終了後の施設の蒸しこみ処理、地域一斉対策(野良トマトの除去、周辺雑草の防除、家庭菜園への防除依頼など)などがあるが、実施可能なことはできるかぎり全部実行したい。
もし発病した場合は、ウイルスの伝搬元を無くす意味で速やかに抜き取る勇気も必要である。
指導機関等が出している情報によれば、タバココナジラミに効果の高い薬剤は、サンマイトフロアブル、スタークル顆粒水溶剤、ベストガード水溶剤の3剤である。これらよりは落ちるが、モスピラン水溶剤やアドマイヤー顆粒水和剤やアクタラ顆粒水和剤、ダントツ水溶剤、ハチハチ乳剤なども効果があるとのこと。地域の指導情報などを参考に防除対策を組み立ててほしい。
(写真はトマト黄化葉巻病の媒介昆虫 シルバーリーフコナジラミ)
【オオタバコガ】
盛夏から初秋にかけて被害が大きくなり、ナス科やウリ科、アブラナ科、レタスその他多くの野菜や花きを食い荒らす。トマトなど果菜類では、果実に穴を開けて侵入して商品価値ゼロにしてしまうので被害が特に大きい。
防除対策としては、効果のある薬剤を、オオタバコガの発生初期を逃さず防除し、発生期間を通じて定期的に薬剤散布すると良い。特に果菜類では、食い入られる前に防ぐことができるように発生予察情報に注意してほしい。
効果のある薬剤としては、アファーム乳剤、スピノエース顆粒水和剤、トルネードエースDF、フェニックス顆粒水和剤、プレオフロアブル、プレバソンフロアブル5の評判がよい。
さらに最近ではキャベツやレタスなどの苗を植え付けてから1カ月近くも効果を発揮するプラバソンフロアブル5やジュリボフロアブルのセル苗灌注処理法が注目されている。この方法は、栽培前半のほ場における防除作業が省略でき、労力が軽減できることから、徐々に普及拡大しているとのことなので、セル苗を導入している場合は一度検討してみるとよい。
(写真は、トマトの花らいを食害するオオタバコガの若齢幼虫)
【ハスモンヨトウ】
とてつもなく多食性で、ありとあらゆる作物を食い荒らし、多くの野菜の重要害虫である。年に5?6回発生し、施設内であれば越冬できるし、冬でも発生することもある。被害は、8月?10月が最も大きいので、これからの季節は最重点で防除に取り組んでほしい。
この害虫は、6回ほど脱皮して蛹・成虫となるが、幼虫の齢期が進むと薬剤が効きにくくなり、最終の6齢幼虫だと防除が難しくなる上、最も食べる量が多くなるので厄介である。
このため、薬剤の効き目が高い小さい幼虫の時期の徹底防除が重要であり、発生期間を通じた一定間隔での防除が必要となってくる。
防除薬剤としては、指導機関等の資料によれば、アファーム乳剤、オルトラン水和剤、コテツフロアブル、ジェイエース水溶剤、フェニックス顆粒水和剤、プレオフロアブル、プレバソンフロアブル5、ランネート45DFなどの効果が高い。
【根こぶ病】
アブラナ科野菜の根に大?小、不揃いのコブをつくり、根の機能低下による生育不良や2次的な細菌の侵入による腐敗を起こす。
病原菌は、土中に5?6年という長期間生存し、アブラナ科の野菜が作付され、適度な水分により発芽して根毛から侵入する。
地下水位が高く、酸性のほ場で発生が多いので、高畦栽培や本紙でも度々紹介している地下水位制御システム「FOEAS」(農研機構、全農)の活用によって土壌湿度を下げたり、石灰窒素や石灰の施用による土壌のアルカリ化によってかなり発病を低く抑えることができる。
そういった処理を行った上で薬剤防除を行うと、より安定した効果が期待できる。
防除薬剤には、作条土壌処理もしくは全面土壌処理を行うものにフロンサイド粉剤やネビジン粉剤、ネビリュウ、あるいは新剤であるオラクル粉剤などがある。
その他、セル苗灌注によって定植初期の根こぶ病感染を防ぎ、被害を少なくできるものに、ランマンフロアブルやオラクル顆粒水和剤などがある。この方法は土壌混和の手間が省け、使用する薬量も少なくて済むので、今後の普及が期待されている。
(写真は、根に大小のこぶが生じたハクサイの根こぶ病)
主にキャベツやブロッコリーなどアブラナ科野菜に発生するキサントモナスという細菌が起こす病害で、秋に発生が多くなる。
キャベツでは葉の縁に扇状で、葉の中央部では円形の淡黄色病斑点をつくり、後に葉脈が黒褐色となることから、発生すると商品価値がなくなる。ブロッコリー等でも同様の症状を示す。
土中にいる病原細菌が雨水などの跳ね上がりによって、気孔などの開口部やハスモンヨトウなどの食害痕といった傷口から侵入する。
病原菌は増殖の早い細菌なので、一旦侵入を許してしまうと防除が難しくなる。
このため、病原菌が侵入する前の予防的散布に重点をおくことが重要であるので、ドイツボルドーA水和剤などの銅剤、あるいは抗生物質と銅の混合剤であるカスミンボルドー水和剤やドーマイシン水和剤を発生前から発生初期にかけて定期的に散布するようにする。
抗生物質剤は、治療的な効果もあるにはあるが、その効果が期待できるのは発生のごく初期に限られるので、抗生物質を含む薬剤であっても予防散布を基本とした方が良い。
また、これらの散布剤とは作用の異なる、抵抗性誘導剤のオリゼメート粒剤も効果がある。本剤は、作付前に薬剤を作条土壌混和あるいは全面土壌混和処理することで、有効成分を吸収した作物が徐々に病害抵抗性を発揮し、作物自体を病害に罹りにくくする作用を持っている。散布剤のように生育期での散布が不要で、散布ムラによる効果ムラも起こりにくい。黒腐病が常に発生するような場合に特に真価が出るので、そのような場合は一度試してみてはいかがか。
(写真はキャベツの黒腐病。病勢が進むと結球にも病斑が出る。)
【べと病】
キャベツ、ブロッコリー、ハクサイといったアブラナ科野菜に発生し、黄色?淡褐色(ハクサイ)や淡黄緑色(キャベツ)、淡黄褐色(ブロッコリー)の葉脈に囲まれた不整形病斑が発生する。
また、ブロッコリーでは、花らいの一部が黒褐変する症状を起こすため、商品性が著しく低下し、大きな被害となる。
発生時期は、秋?冬の多湿時に発生が多くなる。
病原菌はべん毛菌類と呼ばれる湿度を好む病原菌(かび)で、卵胞子という形で土中に潜み、降雨があると分生胞子を形成して、飛散し伝染していく。
この病害は感染から発病までの期間が短いため、気付いた時には既にかなりの範囲で病気が広がっている可能性が多い。
このため、べと病がいつも発生するようなほ場では、初期病斑をできるだけ早く発見し、発病初期に徹底して薬剤散布を行う。
その際、この病害は、葉の裏表に病斑があるので、葉の裏にもしっかりと薬剤が届くよう丁寧に散布することが重要である。
この病害も、発病前の散布が最も効果がよく、天候に十分に注意し、特に降雨など湿度を増す恐れがある場合などは、早め早めに薬剤散布を行う。
薬剤防除は、予防効果に優れ残効も長い保護殺菌剤(ジマンダイセン、ダコニール、ペンコゼブなど)をローテーション散布の基本として、少しでも病勢が進むようなら速やかに治療効果も有する薬剤(アミスターフロアブルやリドミルMZ)などを使用して、病勢を止めるようにするとよい。
指導機関等の資料をもとに、べと病防除薬剤の特性を別表にまとめてみたので、参考してほしい。
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