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農薬:誕生物語

【シリーズ・誕生物語】第6回除草剤塗布器「パクパク(PakuPaku)」(宮城県・(株)サンエー・シンジェンタ ジャパン(株)2013年9月27日

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・難しい大豆の雑草防除
・過酷な真夏の手取り除草
・「ゼロからの開発」に挑戦
・「液だれ」防止が課題
・労力軽減・雑草防除に効果
・生産者を思う熱意が

 水田転作畑における大豆の雑草対策は除草剤による播種後の土壌処理からはじまって生育期の茎葉処理剤、生育後期の非選択性除草剤による畦間処理や畦間・株間処理があるが、そうした対策だけでは除草効果が不十分な雑草もある。そのため真夏の暑い日に、雑草を人が手抜き(手取り)しているのが実情だ。その労力は甚大で生産コスト低減の大きな障害となっている。
 この手取り作業の代替えとして登場してきたのが、宮城県古川農業試験場と農薬散布機のノズルなどを開発してきた農機メーカー(株)サンエーそして農薬メーカーであるシンジェンタジャパン(株)が共同開発したタッチダウンiQ専用除草剤塗布器「パクパク(PakuPaku)」だ。その誕生の経過を取材した。

困っている生産者の苦労をなくしたい

◆難しい大豆の雑草防除

「パクパク」(下)とタッチダウンiQ2倍希釈液を入れる容器(上) 「パクパク」という商品名はどこからきたのか。
 「開発試験のときに、薬剤を雑草に塗る動作をいつか『パクパクする』というようになったので」その擬態語をそのまま商品名にしたと、サンエーの梁瀬俊之さんはいう。
 では、誰が、なぜ、パクパクを開発しようと考えたのか。
 2007年ころからシンジェンタジャパンの今西競さん(カスタママーケティング)と中島嘉秀さん(製品ポートフォリオ開発部)は、仙台で東北地域の営業活動をしていたが、水田転作の畑で栽培される大豆の雑草防除が難しいことを痛感する。
 もちろん播種後の土壌処理除草剤から始まる防除対策はきちんと行われているが、土壌中の雑草種子は一度にすべて発芽するのではなく、土の中の深いところにある種子は発芽せず残っている。その種子が中耕培土などで土が掘り返されると土中の浅い部分に移動し、発芽する。また、中耕培土以降に発生し、大型化するシロザやホソアオゲイトウなどの雑草草種もある。また、畦間・株間処理を広い面積で行う乗用管理機があるが、高額のために多くのほ場で使われているわけではない。そのため大豆の生育後期に入ったほ場で、かなりの数の雑草がみられることが多い。
 大豆の収穫期にこの雑草が高水分だと大豆の実に雑草汁液が付着し、大豆の品質劣化を招く。また、雑草がほ場内で成熟すれば、その種子がほ場に落ちて埋土種子量が増加、翌年以降の雑草被害がさらに深刻化する。

(写真)
「パクパク」(下)とタッチダウンiQ2倍希釈液を入れる容器(上)

◆過酷な真夏の手取り除草

 そのため宮城県など東北の大豆の生産者は、8月以降収穫期まで、人力による手取り除草を行っている。この手取り除草は、主婦や高齢者、あるいはシルバー人材派遣に頼っているケースが多い。
 今西さんや中島さんが農家を訪ねると「人の丈ほどに伸びた大豆畑の雑草はなんとかならいか」という話を聞くことが多く、実際にほ場に行き見てみると「これは大変な作業だ」と実感。「なんとかできないか」と宮城県古川農業試験所(古川農試)の平智文研究員(当時)に相談する。
 今西さんたちも見たように、しっかりと根を張ったシロザなどの雑草を引き抜き、ほ場外に運びだすのは大変な重労働だ。しかも8月から9月の暑い日中の作業となるため体調を崩したり、熱中症で作業中に倒れることもある。大豆が人の背丈ほどに生育しているので、倒れても誰も気づかず、作業終了後に人数が少ないと慌ててほ場中を探し発見したが、手遅れだったという話が古川農試の平さんのところに報告されていた。

◆「ゼロからの開発」に挑戦

塗布処理後30日ですべての草種が枯死する そのため平研究員もこの問題をなんとかしたいと考え、非選択性除草剤を散布したのでは大豆も一緒に枯れてしまうので、大豆には影響がないように絵筆で雑草に塗りその効果を確かめていた。
 平研究員は大豆用除草剤の畦間除草剤散布機も開発しており、そのノズルチップを間接的に供給していたのが、滋賀県草津市のサンエーだった。同社の大塚庄吾社長は「東北の農業に貢献できる仕事はないか」と考え、滋賀県の本社からシンジェンタの仙台事務所を訪問。そうしたサンエーをシンジェンタ(今西さん、中島さん)が平研究員に紹介し三者が出会うことになる。「幸運な出会いでした」と梁瀬さんは振り返る。
 だが、「最初は除草剤の散布」だと思っていたが、「大豆のほ場に行って実態を知り、散布できないこと」を知り、従来、同社が開発してきたものとはまったく異なる「ゼロからの開発」だと考えを変えた。
 そして平研究員の非選択性除草剤である「タッチダウンiQ」(グリホサートカリウム塩液剤:シンジェンタ)を「塗る」という発想を活かし、08年の春に「ブラシ」「挟む」「筆」「ローラ」という4つのイメージを提案する。「挟む」以外は両手を使うということから、片手で操作することができる「挟み型」で試作器づくりを始める。
 試作器段階では「原液がべっとりついて効果はあった」が、「液の垂れ落ち」と、薬剤の粘性が強いこともあって「ポンプの薬剤吸い上げが安定しない」ことが分かった。

(写真)
塗布処理後30日ですべての草種が枯死する

◆「液だれ」防止が課題

 「液だれを止めること」が第一の課題となったが、シンジェンタが試験を委託していた兵庫県農試から「泡状にしたらどうか」というアイディアがだされ、このアイディアを活かして試行錯誤の末に、スポンジを使って泡状にすることに成功。そしてこの泡を余さず雑草に塗るための工夫を重ねていく。スポンジの目が粗いと泡がたたない、逆に細かいと薬剤の液が染み込まないことから、この2つを組み合わせて使うことで安定して泡をつくることに成功。
 梁瀬さんは「挟む」というアイディアから「脱却するのに苦労した」と振り返る。そしていまは「塗るよりも雑草に乗せるという感覚」だとも。
 ポンプの吸い上げも注射器のように一定量を吸い上げ、一定量を出すことができるようになり、現在の2倍希釈のタッチダウンiQを15ml吸い上げて、0.1mlずつ吐出し(150回)、ピンポイントで雑草に塗布する形ができあがる。

◆労力軽減・雑草防除に効果

 平研究員からこの開発を引き継いだ古川農試水田利用部水田輪作班の三上綾子副主任研究員によれば、雑草密度2本/平方mの30aほ場(125m×24m)で20歳代男性作業員が行った作業時間の測定では、手取りでは90分/10aかかったが、パクパクは40分と労働力を約2分の1に軽減した。
 また、シロザ、アメリカセンダングサ、オオイヌタデ、オオオナモミ、アレチウリに雑草開花時まで処理したところ、処理後7日までにアレチウリの生存割合は0%(枯死)、他の草種の生存割合は20%ほどだったが、30日目にはすべての草種で生存割合が0%の枯死に至った。しかも開花期までに処理した個体では種子生産は皆無もしくはわずかで、生産された種子の発芽能力は無処理の35%に比べて6%程度と低く、パクパクによる防除が有効だという試験結果を得た(いずれも11年の古川農試の試験結果による)。
 そして、12年5月よりサンエーから販売を開始、翌13年4月に特許(3者共同)を取得した。

◆生産者を思う熱意が

雑草の茎に1?3カ所、パクパクと塗布処理する 実際に「パクパク」を使った岩手県の生産者からは「所得が20%アップした」という報告もあるという。本当に困っている「農家の人たちの苦労をなんとかできないか」という今西さんや中島さんそして古川農試の研究員の思いが、会社の規模は小さいけれど熱意と開発力があるサンエーという協力者を得て、実現したのがこの小さな農業機械である「パクパク」だ。
 いまは東北地方中心に普及し始めているが、梁瀬さんのところには、北海道の大豆生産者から、「野良いも(収穫されなかった馬鈴薯)で困っているので、腰をかがめずに草丈の低い雑草に対応できるパクパクを」という注文があり、試作器づくりに取組んでいる。それぞれの生産現場のニーズに応えることで、パクパクの世界はさらに広がっていくといえる。

(写真)
雑草の茎に1?3カ所、パクパクと塗布処理する

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