農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識 2014
【現場で役立つ農薬の基礎知識 2014】[6]ミカンの病害虫防除のポイント 田代暢哉・佐賀県上場営農センター長2014年5月21日
・5月、6月は最重要防除時期
・殺菌剤の選択と使用上のポイント灰色かび病、そうか病、黒点病、かいよう病
・殺虫剤の選択と使用上のポイント
ミカンの病害虫防除を実施するうえで、5月から6月下旬にかけては最も重要な時期にあたる。その理由は、[1]開花期から幼果期にかけては病害虫の被害を最も受けやすい時期であること、[2]発病(発生)初期に抑えておかないと、その後の対応が困難になること、である。
※この記事は2014年に掲載した内容です。最新記事はこちらをご覧ください。
◆5月、6月は最重要防除時期
この時期に問題になる病害虫のうち主要なものとして、病気は[1]灰色かび病、[2]黒点病、[3]かいよう病(中晩柑)があり、害虫では[1]チャノキイロアザミウマ(以下、チャノキと略)、[2]カイガラムシ類(以下、カイガラ)、[3]ゴマダラカミキリ(以下、ゴマダラと略)、[4]ミカンサビダニ(以下、サビダニと略)があげられる。
筆者は5月から9月までの間にひと月だけ殺菌剤と殺虫剤を散布した場合に、病害虫被害をどの程度まで抑えることができるのかを調べたことがある。ひと月あたりの散布は、5日と20日の2回行い、散布した薬剤は黒点病、チャノキ、サビダニ、カイガラムシ類、ゴマダラカミキリを対象として、ジマンダイセン水和剤、コテツフロアブル、スプラサイド乳剤の三種混用である。
5月だけの散布、6月だけの散布...9月だけの散布を行ったところ、5月だけまたは6月だけの防除でも外観を阻害する病害虫の被害はほとんどなかった。
これに対して、7月だけ、8月だけ、9月だけの散布では、黒点病、チャノキ、サビダニの被害を激しく受け、商品価値のある果実を生産できなかった。8月だけ、9月だけの散布では特に激しい被害を受けた。
このことからも、5月から6月下旬までの防除が重要であることがおわかりいただけると思う。
(写真)
サビダニの被害を受けた果実
【殺菌剤の選択と使用上のポイント】
落弁期?幼果期は灰色かび病、そうか病、黒点病の3病害を同時に予防できる殺菌剤を使用する。6月以降は黒点病対策主体の散布になる。
◆灰色かび病、そうか病
3病害の同時予防剤として、ストロビードライフロアブル、フロンサイドSC、ナリアWDG、ファンタジスタ顆粒水和剤がある。なお、ナリアWDGとファンタジスタ顆粒水和剤は黒点病に対する効果がやや不安定なので、この時期から黒点病の対策が必要になる極早生品種などではマンゼブ水和剤を加用する。
そうか病と黒点病の2病害同時予防剤としてはデランフロアブルがある。なお、落弁期以降にデランフロアブルを散布して、その後にマシン油乳剤を近接散布すると、その間の累積降雨量が200mm未満の場合には果実に薬害を生じることがあるので注意が必要である。
(写真)
灰色かび病。病斑上に多数の胞子が形成される。
◆黒点病
黒点病は雨で拡がる雨媒伝染性病害である。梅雨に入って雨が多い時期になるので、耐雨性に優れるマンゼブ水和剤(ペンコゼブ、ジマンダイセン)を散布する。登録は400倍から800倍までと幅広い濃度設定になっているが、普通は600倍で使用されている場合が多い。
しかし、雨の多いこの時期には600倍の効果は不安定である。400倍?800倍で散布した場合のタイ雨性を調べたところ、400倍が最も優れており、散布後の累積降雨量が450mmまでは効果が期待できる成分量が樹体表面に保持されていた。同様に500倍では300mmまで、600倍では250mmまで、800倍では100mmまでであった。
ここ数年、梅雨期の集中豪雨は一日で数百ミリの降雨量に達することもある。梅雨期に安定した効果を期待するためには、マンゼブ水和剤は400倍で使用することが望ましい。400倍ではチャノキの被害も抑制される。なお、97%マシン油乳剤を200?400倍で加用すると、600倍でも散布後の累積降雨量が400?450mm程度までタイ雨性が向上する。この場合、ミカンハダニ密度も抑制される。
(写真)
黒点病を罹病した果実
◆かいよう病
中晩柑で問題になるかいよう病については銅剤で対応する。6月までの散布で、春葉に病斑を作らせないことが、果実発病を抑えるために大切である。銅剤のなかで最も効果が高いのはICボルドーである。しかし果実でスターメラノーズが問題になる梅雨明け以降は希釈倍数を200倍とし、さらに炭酸カルシウム剤(クレフノン等)を200倍で加用する。コサイドDFなどの無機銅水和剤でもクレフノン等の加用は必須である。
(写真)
かいよう病による被害
◆梅雨期散布の注意点
梅雨期には雨の合間の散布となることが多い。この場合、散布してから雨が降り出すまでにどのくらいの期間があれば、安定した効果が得られるのかについて調べたところ、マンゼブ水和剤の場合、3日間は雨が降らないほうがよいという結果が得られている。1日でも2日でも、それなりの効果は期待できるが、残効が短くなるので、次回の散布を早めに行う必要がある。
また、散布後の累積降雨量を記録しておくことは防除の失敗を防ぐ上から、とても大切なことである。市販の、あるいは手作りの雨量計を利用し、薬剤の耐雨性を考慮した散布を実施しなければならない。
【殺虫剤の選択と使用上のポイント】
駆除対象の害虫が多い時期なので、殺菌剤の場合と同じく同時駆除できる殺虫剤を使用することが望ましい。ただし、問題になる害虫は地域や園によって異なるので、予察情報や現時点での発生状況、前年までの発生状況などをもとに薬剤を選択する。
○各種害虫の同時防除剤
◆サビダニとチャノキの同時駆除剤
コテツフロアブル、ハチハチフロアブル、マッチ乳剤、アニキ乳剤などを使用する。
◆サビダニとカイガラ
アプロードエースフロアブルがある。ただし、カイガラに対してアプロードの効果が低いところでは同時処理には使えない。
◆チャノキとゴマダラ、カイガラの同時駆除
モスピランSL液剤、ダントツ水溶剤がある。
◆チャノキとカイガラ類
コルト顆粒水和剤を用いる。
◆ゴマダラとカイガラ類
スプラサイド乳剤40、エルサン乳剤が有効である。なお、スプラサイド乳剤40は地域によってはゴマダラに対する効果が不安定になっている場合があり、注意が必要である。
◆サビダニ、チャノキの駆除
一方、サビダニだけが駆除対象の場合にはサンマイト水和剤やダニカット乳剤20を用いる。
チャノキだけの場合にはベストガード水溶剤、アドマイヤーフロアブル、キラップフロアブルなどがある。
なお、ホワイトコート(白塗剤)を樹全体に散布することによってチャノキの被害を回避できる。樹全体が真っ白くなるが、光合成、そして果実品質には何の問題もない。園全体に散布すれば効果は高いが、経費がかかるので、園周囲にイヌマキやサンゴジュが防風樹として植えてある場合にはそれらから3列目程度までの樹に散布するとよい。
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