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農薬:時の人話題の組織

【時の人 話題の組織】篠原聡明・シンジェンタ ジャパン(株)代表取締役社長 種子と農薬を核にトータルな農業を提案2014年6月12日

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・小規模でも生産性高い日本農業
・アジア農業に貢献する日本の技術
・重要な役割を果たしているJA
・付加価値の高い野菜生産を提案
・育種と農薬開発を一緒に考える
・他業種と連携した技術の開発も

 今年3月、シンジェンタ ジャパン(株)の新社長に篠原聡明氏が就任した。48歳という若い社長の誕生だ。氏はシンジェンタ北東アジア地区総支配人も兼任し、就任以来、多忙な日々を過ごしておられるが、本紙のために貴重な時間を割き、日本農業への思いやこれからのビジネスについて熱く語ってくれた。

◆小規模でも生産性高い日本農業

篠原聡明・シンジェンタ ジャパン(株)代表取締役社長 「日本の人口は減少に転じ食料の需要は減るかもしれませんが、日本農業の生産力は今後もしっかり維持すべきですし、さらに拡大していくべきだと思います」。
 篠原社長は、トモノ農薬(株)時代の1997年にノバルティスUSAに出向、その後、2006年にはシンジェンタフィリピンの社長に赴任、米国の大規模な農業とフィリピンの小規模なアジア的農業の両方を経験している。そうした経験から、生産規模が小さく零細なアジア農業のこれからにとって、「欧米型の大規模生産の農業技術」よりも「規模が小さいなかで生産性をあげていく日本の農業技術」の方が、アジアの農業にとっては重要になる。その点からも「日本農業は生産性を維持し、技術を発展させることが重要」であり、それがアジアに貢献することだと考えている。

 

◆アジア農業に貢献する日本の技術

 世界的食料問題の背景には、現在の70億人近い世界人口が、2050年までに、さらに20億人増加し90億人を超えると予測されることにある。そのほとんどがアフリカやアジアの新興国に集中し、食料の需給バランスに大きな影響を与えることがまず考えられる。
 さらに、異常気象や水資源および干ばつなどの環境問題が起きている。中国、インドやオーストラリアなどでは干ばつにより収穫高が大きな打撃を受けるなど、異常気象は世界的な食料危機に拍車をかけている。
 また、新興国における経済発展を重視する政策により、第一次産業から二次産業や三次産業へと人口が移動し、急速な都市化と農業生産の減少が起きている。急激な人口増加とあいまって食料需給のバランスをどうとるかが最も深刻な問題となっており、「アジアの農業生産性を高める」ことが大きな課題となっている。
 例えば、フィリピンでは農業機械が使えるように基盤整備された水田はほとんどなく、水牛が使われている。さらに収穫された米を乾燥・貯蔵するなど市場へ流通するまでのインフラが脆弱で「せっかく収穫できても乾燥の時点で雨に降られ、収穫量の3割くらいが失われている」。

 

◆重要な役割を果たしているJA

 逆にいえば、そうしたインフラを改善することにより3割も収穫量が増加することになる。そのために、農業技術や機械技術の向上が強く求められており「それにどんどん拍車がかかっている」。そこに日本のさまざまな技術が貢献できるはずだというのが篠原社長の考えだ。
 さらに、日本農業の生産力が維持され技術力が発展していけば、アジア農業に貢献できるだけではなく、「日本のクオリティの高い食材や加工品がアジアの国々に普及し、日本農業の産業としての地位がもっと確立されていく」とシンジェンタは期待をしている。
 そうした競争力のある生産性の高い農業と「農業の多面的機能の価値、地域の文化や社会を維持し発展させていくための農業」という「価値の異なる二つのタイプの農業をいかに共存させていくのか」が、日本農業にとっては重要ではないかという。
 そのなかでJAが「とても重要な役割を果たしてこられたし、これからも競争力ある産業としての農業と、地域を守り活性化するための農業という二つの側面で貢献するJAの機能は社会的に大変期待されている」。そして、「農業協同組合がここまで大きく発展し、成功している国は、世界で唯一、日本だけだ」とも。

 

◆付加価値の高い野菜生産を提案

 これからのシンジェンタジャパンのビジネス戦略は「種子と農薬を核にトータルで農業を考え、提案していくこと」だという。
 種子事業を統合してからスーパーのバイヤーから海外視察したときに見た「あの品種を日本で売りたい」とか、青果市場関係者から「どんな野菜を品揃えしたら消費者から喜んでもらえるか」などといった市場からの問い合わせが直接くるようになった。
 シンジェンタはグローバルな事業展開をしているので、海外で扱われている品種が多数ある。その中から特徴のある品種の良さを「しっかり伝えて、こだわりのある、付加価値の高い野菜の生産を提案することによって、新たな野菜の需要を創出したい」と考えている。
 種子という分野を持つことで、実需者とJAや生産者を「つなげるような役割を果たすことができれば、いままでとは違う世界が見えてくる」とここ1、2年実感してきているという。

 

◆育種と農薬開発を一緒に考える

 種子と農薬を一つの会社で提供しているので、「例えばバクテリアとかウイルス系統の病害に強い品種を提案することで、農薬による防除回数を減らすなど、最適な栽培体制を提案することができる」ことは、生産者にとってもメリットになると確信している。
 さらに、種子事業と農薬事業が統合される以前は、例えばウイルス病が問題になった時にそれぞれ別々に研究開発していたが「現在は、それは農薬で解決するのか、品種で解決すべきかを最初に考え、どちらの方が持続可能で経済的なメリットがあるのかを見定めてから、育種や農薬開発の方針を決める」という流れになっている。
 そのことで「栽培体系を十分に理解したうえで、品種の特性と農薬の特性を合わせて、最適な農業が可能になるベストな提案をすることが、最終的な目的になってきている」のだ。

 

◆他業種と連携した技術の開発も

 そのうえで篠原社長が考えているのは「パートナーとの連携が重要」ということだ。
 最終的な農産物を生産するためには、種子と農薬だけではなく、肥料や農業機械技術、さらに収穫物の貯蔵から選別・加工そして出荷、播種前の準備に関わるさまざまな作業が必要になる。それらを「広く見据えて、肥料や機械メーカーなどと一緒になって、一連の体系をよりよくするような活動を幅広く行っていきたい」ということだ。
 例えば北海道の馬鈴薯生産で、種芋を機械で植え付ける際に、根系が広がる範囲だけに薬剤処理する機械技術を機械メーカーと協力して開発した。この技術はイギリスでは実用化されているのだが、イギリスの機械は大きすぎたり、薬剤の散布量などが異なるため日本での実用には向かない。そのため、日本の実情にあった機械システムが必要ということで、新たに開発し実用化されたものだ。
 このことで、食品加工メーカーの製造ロスが大幅に減少。ロスとしてコスト計算されていた部分が減少し、双方にとってのメリットが生まれた。
 スイスのシンジェンタ本社からは「イギリスのものをそのまま使用できないか」といわれていたが、「使う国の特性に合わせて開発していくことが重要だと考え、それを実行することで、農家に受入れてもらえる機械システムができた」。そしてこのシステムは北海道だけではなく、日本の他の地域でも使用できるようになっているという。
 こうした新たな展開によって「農薬メーカーとして見えていた景色とはまた違う景色が見えてきている」と篠原社長は感じている。

◇     ◇

 最後に、JAへのメッセージを聞いた。
 「JAの日本農業の発展への役割、貢献は今後より重要になってくると確信しています。そうしたJAの日本農業への貢献に微力ながらお役にたてる機会があれば、ぜひ参画させていただきたいと願っていますので、よろしくお願いします」と語ってくれた。


【プロフィール】
しのはら・としあき
1966年生まれ、明治大学農学部卒業。
1990年トモノ農薬(株)入社。96年ノバルティスアグロジャパン出向、1997年ノバルティスUSA出向、1998年(株)トモノアグリカ本部グループ営業企画リーダー、2001年シンジェンタジャパン(株)プロフェッショナルプロダクツ部長、2006年シンジェンタフィリッピン社長、2009年シンジェンタジャパン(株)取締役営業本部長、2011年同社取締役執行役員アグリビジネス営業本部長、2014年3月同社代表取締役社長およびシンジェンタ北東アジア地区総支配人、現在に至る。

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