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農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識 2014

【現場で役立つ農薬の基礎知識 2014】[10]果樹カメムシ類の防除のポイント 地域全体での一斉防除が効果的2014年7月16日

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口木文孝・佐賀県果樹試験場専門研究員
・スギ花粉類が多い年は発生密度が高い
・西南地域は越冬成虫による被害が
・園内への飛来時期を把握する
・防除は薬剤散布が中心に
・薬剤使用上のポイント

 吸汁されると果樹の形がいびつになったり、落果することで商品価値が低下したり収量が減少して減収につながるカメムシ類の防除は、果樹生産にとって欠かせない重要な防除だといえる。今回は佐賀県果樹試験場の口木専門研究員に果樹カメムシ類防除のポイントをまとめていただいた。

 果樹カメムシ類は、4月から10月頃までの長期間飛来し被害を与える。年によって発生密度が大きく変動するうえ、果樹園への飛来時期も年によって異なることから、防除要否及び防除時期はその都度考える必要がある。そこで、果樹園をよく観察しておき、果樹園内への飛来が確認されたら迅速に薬剤を散布する。

 

◆スギ花粉類が多い年は発生密度が高い

温州ミカンを加害するツヤアオカメムシとクサギカメムシ 主要な果樹カメムシ類として、チャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシ、クサギカメムシの3種が挙げられる。
 この3種は成虫で越冬し、山林のヒノキやスギの毬果の中の種子などを餌として増殖する。そのため、ヒノキやスギの花が多く、花粉の飛散量が多い年には餌となる毬果量も多いので、果樹カメムシ類の発生密度は高くなる。その後、餌となるヒノキやスギの毬果が少ない場合や餌として適さなくなった場合に果樹園に飛来し、加害する。
 この3種の他には、ミナミトゲヘリカメムシ、オオクモヘリカメムシ及びクモヘリカメムシなども突発的に飛来して加害する。

(写真)
温州ミカンを加害するツヤアオカメムシとクサギカメムシ

 

◆西南地域は越冬成虫いよる被害が

ナシを加害するチャバネアオカメムシ 果樹カメムシ類は、果実に口針を突き刺して吸汁する。吸汁された果実は、形がいびつになったり、落果することで商品性の低下及び減収の原因となる。
 収穫時期の早い果樹、熟期の早い品種では被害が早くから発生する傾向が認められるので注意する。また、尾根沿いや谷筋などの風の通り道に位置する果樹園では、気流に乗って移動する果樹カメムシ類が吹き寄せられるため、被害が多くなる。このような果樹園では、少発生の年であっても被害を受けることがある。
 今年は、西南地域を中心にツヤアオカメムシやチャバネアオカメムシの越冬成虫数が多いことから、越冬成虫による被害が多くなると予想されるので防除を徹底する。

(写真)
ナシを加害するチャバネアオカメムシ

 

◆園内への飛来時期を把握する

チャバネアオカメムシの加害で変形したナシの果実 果樹カメムシ類は、果樹ではほとんど増殖できず、山林で増殖した個体が果樹園へ飛来し、加害するため、飛来を確認してから薬剤を散布することになる。
 福岡県の試験では、ヒノキの毬果に形成される果樹カメムシ類の口針鞘数が25本を超えると餌として適さなくなり、ヒノキから離脱することがわかっている。
 さらにこのことを利用して、ヒノキの毬果の7月下旬の口針鞘数から果樹カメムシの離脱時期を予測する予測式が作成され、果樹園への飛来時期の予察に用いられている。
 果樹カメムシ類の雄は、果樹園に飛来・定着すると集合フェロモンを放出して、同種の個体を呼び寄せて被害を大きくする習性があるので、飛来初期からの防除の徹底が重要である。また、被害は園内全体に発生するだけではなく隅の方などに局部的に発生することもあるため、被害の発生に気付くのに遅れ、被害を受けてしまうこともある。そのため、果樹園内を日ごろからこまめに観察して、飛来の有無、飛来状況を把握する必要がある。
 自動販売機やコンビニの光などに果樹カメムシ類が集まっている場合は要注意である。
 各県ごとに病害虫防除所(県によって別の名称の場合もある)が越冬密度調査、予察等及びフェロモントラップ調査、ヒノキの毬果上の口鞘数調査結果などを基に、発生量及び発生時期の予想を発生予察情報などとしてホームページなどで提供しているので参考にする。

(写真)
チャバネアオカメムシの加害で変形したナシの果実

 

◆防除は薬剤散布が中心に

 果樹カメムシ類の防除対策として忌避灯の点灯や防虫ネットの設置なども有効であるが、薬剤散布が中心となる。
 薬剤は、殺虫効果及び吸汁阻害効果の高い合成ピレスロイド系殺虫剤のテルスター水和剤、ロデイー乳剤、MRジョーカー水和剤など、ネオニコチノイド系殺虫剤のスタークル顆粒水溶剤、アルバリン顆粒水溶剤、ダントツ水溶剤など及び殺虫効果の高い有機リン系殺虫剤のスミチオン乳剤等などを散布する。

 

◆薬剤使用上のポイント

 果樹カメムシ類による被害を防ぐためには、果樹園内への飛来初期に散布することが重要である。残効期間は薬剤ごとに異なり、ネオニコチノイド系殺虫剤及び合成ピレスロイド系殺虫剤で10?14日間程度、有機リン系殺虫剤で1?2日程度である。
 散布後にまとまった雨が降ると残効期間が短くなるので注意する。そのため、果樹園への飛来が長期に及ぶ場合及び薬剤散布後にまとまった量の雨が降った場合は、再散布する必要がある。
 果樹カメムシ類に対して薬剤を散布する際に、散布後に降雨があると予想されている場合は耐雨性が比較的強いテルスター水和剤を散布する。薬剤散布後であっても果樹カメムシ類の吸汁・加害が再確認されたら再散布する。
 なお、合成ピレスロイド系殺虫剤及びネオニコチノイド系殺虫剤を散布すると、ハダニ類やカイガラムシ類の発生が増加することがあるため、散布後はこれらの害虫の発生状況についても注意し、発生に応じて薬剤を散布する。
 果樹カメムシ類の成虫は広い範囲を飛翔して移動するため、地域全体で一斉防除を行うと地域における発生密度を低くし、防除効果を高めることができる。果樹カメムシ類による被害は10月ころまで続くので、収穫直前の果実では収穫前使用日数などの安全使用基準に注意して薬剤を散布する。

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