農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識 2014
【現場で役立つ農薬の基礎知識 2014】[12]秋冬期に発生する施設栽培トマトの病害虫防除2014年8月25日
日本の食卓に登場する果菜類の出荷量を比較すると、昔はキュウリが1位だったが近年はトマトの1位が続いており、その差はだんだん開いている。
キュウリが首位だったのは1981年?96年の16年間で、それ以外はトマトが首位となっている。このことは、スーパーの野菜売り場をのぞいてみると明らかで、様々な種類のトマトが大きな売場面積で売られ、昔とは大きく様変わりしている。リコピンの含量が多いということが人気の後押しをしている感もあるが、糖度8を超えるフルーツトマトなど食味の良さをアピールするものや、赤や黄色をミックスしたカラフルで洒落たパッケージの高級感のあるものなど、差別化商品が増えたのも一因であろう。
今後、夏の暑さも去りトマト栽培に適した時期が到来するが、オオタバコガなど被害の大きい害虫の発生時期でもあるので、しっかりとした病害虫防除対策のもと安定生産に臨んでいただきたい。今回は、この時期のトマト防除のポイントを取材した。
(※写真の一部は奈良県病害虫防除所からの提供)
病害虫が活動しやすい施設環境
秋から冬にかけては、オオタバコガなどの大型チョウ目害虫の発生が多く、冬から春にかけては、低温を好む病害の発生が多くなるのが一般的だ。
ただし、施設栽培では、温度管理等がしっかりとなされるので、病害虫にとっても活動しやすい環境が続くことになる。このため、うどんこ病など1年を通じて発生する病害も少なくないので、過去の防除歴などをひも解いて病害虫の発生状況をほ場毎に確認し、毎年発生する病害虫を中心に防除を組み立てるようにしてほしい。
主要な農薬について別表(本文末に掲載)のとおり整理した。トマトは、栽培期間も長く、農薬の散布回数に気を配る必要があるので、農薬の有効成分毎の散布回数を把握しやすいように、農薬名の他に有効成分の名前がわかるように種類名を加えた。
農薬によっては、名称が違っても有効成分が同じ場合があったりするので、ローテーション散布を行う場合などは、必ず有効成分名を確認するようにしてもらいたい。
以下に、トマトに発生する主要な病害虫の防除のポイントを整理したので参考にしてほしい。
【灰色かび病】
利用価値高い生物農薬
多湿時に多く発生する病気で、トマトの果実では花落部付近から侵入して、灰色のかびを発生させ、果実も腐敗して商品価値を著しく低下させる。発病に湿度が大きく関わっているので、防湿ファンを設置するなど通気をよくするだけでもずいぶんと発病が減るので試してみるとよい。
防除薬剤はたくさんあるが、その多くに耐性菌が発生しているので、指導機関によく確認して薬剤を選択するようにしてほしい。
防除対策としては、フルピカやベルクートなど保護殺菌剤の定期的散布を中心して、高い防除効果を示すセイビアーやカンタス、スミブレンド、ゲッターなどを適宜ローテーションで使用するとよい。
最近では、エコショットやインプレッションといったバチルス菌を主成分にした生物農薬が多数登場し、耐性菌の発生で選択できる農薬が狭まっている場合など利用価値が高い。また、生物農薬は使用回数制限が無いことから、上手に組み合わせて使用する生産者も増えており、生物農薬+無機銅など散布回数制限がなく、生物農薬単体よりも効果が安定している農薬も登場しているので試してみてはいかがか。
【葉かび病】
換気不足の施設で発生
この病気は、20℃以上の多湿条件で多発し、葉裏に灰紫色のかびを発生させ多湿時には葉表にもかびが発生する。換気が不足する施設で発生しやすくなるので、換気の励行や防湿ファンの設置などにより施設内の湿度を下げることが重要である。
病斑がついた葉や花から、果実に病気が蔓延することになるので、できるだけ早く取り除いてほ場外に出して処分する必要がある。
防除薬剤は、ダコニールなどの保護剤を中心に防除を行い、発生が多くなる前にアミスターやアフェット、トリフミンなどの効果の高い薬剤を使用する。ただし、効果の高い薬剤には耐性菌の発生している例があるので、事前に近くの指導機関に確認し、薬剤を選ぶようにしてほしい。
【疫病】
保護殺菌剤を中心に定評ある薬剤を
葉を中心にトマトの各部位に発生し、被害も大きい病害である。比較的低温で多湿状態の時に多く発生するため、灰色かび病と同様に防湿ファンを設置するなど通気をよくするだけでもずいぶんと発病を減らせる病害だ。
最近、疫病に登録のある新規薬剤も増えているが、いずれも耐性菌発生のリスクがあるものが多いので、同じ系統の薬剤を連続して使うようなことは厳に慎む必要がある。
この病害は、ペンコゼブやダコニールなど保護殺菌剤を防除の中心にして、適宜、プロポーズ顆粒水和剤やリドミルゴールMZやホライズンドライフロアブルなど、効果に定評のある薬剤を組み合わせて使用するとよい。効果の高い薬剤に関する情報は地域の指導機関に問い合わせてほしい。
(写真)
葉、茎、果実に発生する。葉や茎には暗褐色の病斑ができ、茎や果実には白いカビが生える。
【黄化葉巻病】
世界中のトマト農家が恐れる
シルバーリーフコナジラミが媒介する病害で、新葉が巻いたり、小葉化、黄化などの症状が起こり、株全体が萎縮するなど、トマトに大きな被害を及ぼす恐ろしい病害である。
この病害は、トマト黄化葉巻病ウイルス(TYLCV)によって起こり、短期間にシルバーリーフコナジラミがほ場全体に病原ウイルスを伝播して発病させるため、収量が激減し、世界中のトマト農家に恐れられている。
トマト黄化葉巻病の発生を防ぐためには、まずはシルバーリーフコナジラミの侵入を防ぐのが重要で、ハウスの側窓や入口、天窓への防虫ネット(0.4mm目)を設置してほしい。加えて苗での防除の徹底や、植付時に殺虫粒剤を植穴処理または株元処理を行い媒介虫の生育初期からの防除の徹底が必要である。
また、栽培終了後の施設の蒸しこみ処理、地域一斉対策(野良トマトの除去、周辺雑草の防除、家庭菜園への防除依頼など)など、実施可能な防除対策は全て実行するようにしてほしい。
もし発病した場合は、治療する手立ては何もないので、病原ウイルスの伝搬元を無くす意味で速やかに抜き取る勇気も必要である。
指導機関等が出している情報によれば、タバココナジラミに効果の高い薬剤は、サンマイトフロアブル、スタークル顆粒水溶剤、ベストガード水溶剤の3剤である。これらよりは落ちるが、モスピラン水溶剤やアドマイヤー顆粒水和剤やアクタラ顆粒水和剤、ダントツ水溶剤、ハチハチ乳剤なども効果があるとのこと。地域の指導情報などを参考に防除対策を組み立ててほしい。
(写真)
コナジラミ類によるトマト果実の被害
【オオタバコガ】
発生初期逃さず早めに
オオタバコガは、トマトの果実に穴を開けて侵入して商品価値をゼロにしてしまうので被害が特に大きい害虫だ。盛夏から初秋にかけて被害が大きくなり、トマトだけでなく他のナス科、ウリ科、アブラナ科、レタスその他多くの野菜や花きを食い荒らす大食漢な害虫である。このため、農村地帯であればこれらの作物があちこちに植えつけられているので、オオタバコガがトマトの回りのあちこちから襲ってくる可能性があることを十分に承知しておく必要がある。
防除対策としては、効果のある薬剤を、オオタバコガの発生初期を逃さず防除し、発生期間を通じて定期的に薬剤散布することにつきる。
特に果菜類では、食い入られる前に防ぐ必要があるため、発生予察情報に十分に注意し、早め早めに防除を行うようにしてほしい。効果のある薬剤としては、アファーム乳剤、スピノエース顆粒水和剤、トルネードエースDF、フェニックス顆粒水和剤、プレオフロアブル、プレバソンフロアブル5の評判がよい。
(写真)
オオタバコガの老齢幼虫。体長は40mm程度。花蕾に食入すると、果実に丸い孔が開く。
【ネコブセンチュウ】
耕種的防除と組合わせ
トマトでは、サツマイモネコブセンチュウによる被害が最も多い。土壌中にいるセンチュウが作物の根に寄生して、根にコブを形成させる。コブの数が増えると根の機能が低下し、生育不良や葉の黄変などを起こす。
防除対策は、センチュウの密度によって戦略が異なってくる。センチュウの土壌中の密度が少ない時は、ネマトリンのような土壌処理粒剤の土壌散布が効率的で、効果も高い。しかし、センチュウの密度が多くなると、ネマトリンの効果が不足してくることがある。このような場合には、ソイリーンなど土壌消毒剤によって徹底防除するのが一般的である。土壌消毒剤を使用する場合は、作業時の安全性確保や周辺施設への配慮や被覆の徹底などいくつか注意しなければならない点があるので、それを十分に踏まえて実施してほしい。
幾つかの防除法があるが、それらの防除効果を安定的に得るためには、土壌にいるセンチュウの密度を低く保つことが重要で、対抗植物「マリーゴールド」の作付や太陽熱消毒など耕種的防除と組み合わせて上手にセンチュウ密度をコントロールするとよい。
トマトに登録のある主要病害虫防除剤一覧
(上の画像をクリックするとPDFファイルが開きます。)
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