農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識 2014
【現場で役立つ農薬の基礎知識 2014】[14]水稲直播栽培の雑草防除のポイント(JA全農肥料農薬部技術対策課)2014年12月8日
・使いにくい残効が長い薬剤
・安心して使える直播に適した薬剤
・移植栽培とは異なる管理・防除体系
・効率的な無人ヘリや動力散布
水田農業の大規模経営化が進み、低コスト・省力化を実現するために水稲直播栽培が注目されているが、なかでも鉄コーティング水稲直播栽培が着実に普及してきている。直播栽培は、移植栽培とは雑草防除の体系が異なる。そこで、水稲直播栽培における雑草防除のポイントをJA全農肥料農薬部技術対策課にまとめていただいた。
的確な雑草防除で低コスト・省力化を実現
◆使いにくい残効が長い薬剤
水稲栽培における生産コスト削減が緊急の課題となっているが、移植栽培ではコスト削減に限界がある。このため、育苗・移植作業が不要であり、省力と作業分散により経営規模拡大が可能な技術として、水稲直播栽培が注目されている。特に、鉄コーティング直播は、従来の湛水土中直播に比べ、農閑期に種子の調製作業ができ、多様な播種方法にも対応可能で、鳥害を受けにくいなどのメリットがある。全農では水田のフル活用と水田作における農家経営の安定に役立つこと、および大規模経営体の複合経営の一助とすることを目的とし、優れた低コスト・省力技術として、鉄コーティング水稲直播栽培の普及に取り組んでいるが、そのなかで雑草防除が課題のひとつとなっている。
直播栽培では、播種後、苗立ちを確保するまでの管理に手間がかかる。水稲の出芽前後は、除草剤に対する感受性が高く薬害を受けやすい時期である。移植栽培の植え付け深度が2?3cm以上であるのに比べ、直播栽培における播種深度は浅く薬剤が根に当りやすいというリスクがある。特に鉄コーティング直播は、表面播種のため、土中播種の直播よりさらに薬剤が直接根に当りやすい(図1)。多くの除草剤は水稲の根部から吸収されやすいため、薬害が発生しやすくなる。
また、数ある水稲用除草剤のなかで、直播栽培に使用できるものは水稲への安全性の高いものに限られており、移植栽培で広く使用されている残効の長い除草剤は使いにくいことが、直播栽培で雑草防除が難しい大きな原因になっている。
さらに鉄コーティング種子は、浸種催芽処理はされているもののその後乾燥保存されているため、カルパーコーティング種子に比べ、出芽に日数がかかる。そのため、多くの一発処理剤が使用できるイネ1葉期以降までの極早い時期に雑草防除を行うことがより重要になる。
◆安心して使える 直播に適した薬剤
鉄コーティング湛水直播における雑草防除体系の例を図2に示した。
代かき時に雑草がすでに芽を出している場合は、播種前の除草対策として、荒代をかくかラウンドアップマックスロード等の非選択性除草剤を使用するとよい。
水稲に対する安全性が高く、播種同時処理でも安心して使える直播用除草剤としては、長年、初期剤「サンバード粒剤」が使用されてきた。全農では播種同時処理ができる除草剤として「プレキープ1キロ粒剤」、「ヒエクリーン1キロ粒剤」を推奨している。
「プレキープ1キロ粒剤」は「サンバード粒剤」と同じ系統の有効成分(雑草を白化させて枯らす効果がある)を2種類含む除草剤で、イネに対する安全性が高い。全農農薬研究室で実施した試験においては、ノビエに対する残効が「サンバード粒剤」より長いため、実用性が高いと考えられた。また、「ヒエクリーン1キロ粒剤」はノビエに対して高い効果があり、半量処理(500g/10a)が可能なため、低コスト防除が可能になる。ただし、ヒエ以外の雑草には効果を示さない。
イネ1葉期以降に使用する一発処理剤については、ゲットスター剤を推奨している。「ゲットスター1キロ粒剤」は、(公財)日本植物調節剤研究協会の適用性確認試験で、表面播種でも安全性が確認されている。このゲットスター剤は、テフリルトリオン(AVH-301)を含むため、SU剤抵抗性雑草を含む多くの雑草に効果が高い。特に、落水状態や浅水で発生しやすく、直播栽培で問題となるイボクサ、クサネム、アメリカセンダングサなどの特殊雑草への効果が高い除草剤である。また、「ゲットスター顆粒」は、直播でも水口処理が可能である。水口処理は、散布量が10a当たり80gと少量であるうえ、水田の水口にメッシュ袋を設置して入水とともに除草剤を流し込んで拡散させる散布法であることから、散布機が不要な省力的除草技術として期待されている。
◆移植栽培とは異なる管理・防除体系
なお、湛水直播栽培では、苗立ちを確保するため、出芽後の芽干し期に滞水部を残さないよう、圃場の均平度を高めることが重要である。水管理のポイントとして、代かきのしすぎを避け、日減水深が10?20mmになるように調整することが重要である。また額縁明渠(がくぶちめいきょ)などを代かき前に設置しておくことは水管理を迅速かつ確実にする。これらにより除草剤を使用する場合でも、散布時の田面の露出を防ぐとともに、薬剤を拡散させ安定した効果を得ることができる。日減水深を確保できれば播種後2日程度でも自然落水できる。滞水部の発生をなくせば、苗立ち不良の原因となる病害虫(イネミズゾウムシ、スクミリンゴガイ、ピシウム菌による立枯病など)の発生を抑制することができる。
また直播栽培では、播種後、苗立ちを確保するまでの間の雑草対策が必要となることから、その分、移植栽培より防除が1回多くなる。また、スクミリンゴガイの生息している水田では芽干し期間が30日ほどと長くなるため、その間中後期除草剤の散布も必要な場合がある。したがって、もともと体系防除が必要な雑草の多い水田では、初期剤・一発処理剤・中後期剤の3回の雑草防除を考える必要があることに留意いただきたい。
◆効率的な無人ヘリや動力散布
鉄コーティング直播での省力的な除草剤の散布法として、播種機と連動した散布機による播種同時散布が先行して普及している。加えて、鉄コーティング種子は表面播種であるため、無人ヘリコプターが利用でき、その省力性と規模拡大によるコスト削減の可能性から今後拡大するものと思われる。直播栽培で無人ヘリ登録のある除草剤は前述した「プレキープ1キロ粒剤」などがある。
また、鉄コーティング種子は動力散布機による播種が可能であり、同様に動力散布機で散布が可能な「豆つぶ除草剤」を使用することにより、省力散布が可能になる。
豆つぶ除草剤「トップガン250グラム」「トップガンL250グラム」は10a当たりの使用量が250gと少なく、1キロ粒剤に比べて4倍の量を搭載できるので、特に無人ヘリコプターや動力散布機の使用時に効率的である。また、畦畔で豆つぶ剤の袋を振って直接散布したり、ひしゃくを用いて散布したりするなど、さまざまな省力的散布法がある。
◇ ◇
JAグループではJA、県域、ブロック域および全国域で役割を分担し、鉄コーティング水稲直播栽培を広く着実に普及させていくこととしている。そのために、講習会の開催、行政・指導機関との連携を行っている。
また、全農では、省力的な施肥・防除技術を普及し、課題を解決するための「省力化実証圃」を全国に設置しているが、26年度は鉄コーティング水稲直播栽培における省力的施肥・防除技術の実証を最大のテーマとして取り組んだ。その試験結果を活用し、鉄コーティング水稲直播栽培における効率的な雑草防除法を今後検討・実証する予定である。
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