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農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2015

【現場で役立つ農薬の基礎知識 2015】果樹カメムシ類のポイント 飛来時期を的確に把握 地域で一斉防除を2015年7月8日

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【口木 文孝 / 佐賀県果樹試験場病害虫研究担当専門研究員】

・ヒノキ・スギ毬果多い年は多発傾向
・「風の通り道」の園被害を受けやすい
・園内への飛来初期防除徹底が効果的
・「殺虫」「吸汁阻害」効果高い薬剤使用
・安全使用基準守り効果的に薬剤散布

◆ヒノキ・スギ毬果多い年は多発傾向

seri1507071701.jpg 果樹カメムシ類のうち、チャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシ、クサギカメムシの3種による被害が大きい。
 チャバネアオカメムシは常緑樹の落ち葉の下、ツヤアオカメムシは常緑樹の樹上、クサギカメムシは樹皮の隙間などにおいて成虫で越冬する。春になって活動を開始した成虫は、果樹を含む多くの植物を吸汁しながら移動する。その後、7月頃からヒノキやスギに移動し、結実した毬果の中の種子などを餌として増殖し、8月中旬以降新成虫が発生する。そのため、ヒノキやスギの毬果量が多い年には、8月中旬以降の果樹カメムシ類の発生量が多くなる。
 このうち、近年、発生が増加しているツヤアオカメムシは、カンキツを含む常緑樹上で越冬するため、カンキツでは被害が収穫期まで続くことになる。
 この3種の他に、ミナミトゲヘリカメムシ、オオクモヘリカメムシおよびクモヘリカメムシなども果樹園へ飛来し、加害する。


(写真)餌となるヒノキ毬果とチャバネアオカメムシ成虫


◆「風の通り道」の園被害を受けやすい

seri1507071702.jpg 果樹カメムシ類は、果実や新梢などに口針を刺して果汁および樹液を吸汁する。吸汁された果実は、形が変形したり、落果および腐敗の原因となり、商品性が低下したり、収穫量が減少したりする。収穫時期の早い果樹、熟期の早い品種では、被害が早くから発生する傾向が認められるので注意する。
 また、果樹カメムシ類は飛翔によって移動する。そのため、尾根沿いや谷筋などの風の通り道に位置する果樹園では果樹カメムシ類が吹き寄せられてしまうため、被害が大きくなる傾向が認められる。このような果樹園では、少発生の年であっても被害を受けることがあるので、毎年被害を受ける果樹園では、常に園内への侵入を警戒する必要がある。

(写真)チャバネアオカメムシによるナシの果実被害 


◆園内への飛来初期防除徹底が効果的

seri1507071703.jpg 果樹カメムシ類は、果樹ではほとんど増殖することができず、山野で増殖した成虫が果樹園へ飛来し、加害している。そのため、成虫の飛来を確認するまでは薬剤を散布する必要がなく、園内への飛来を確認してから薬剤を散布することになる。
 福岡県の調査で、餌となるヒノキの毬果1個当たりの果樹カメムシ類の口針鞘(果樹カメムシ類の吸汁した痕)数が25本を超えると餌として適さなくなるため、ヒノキから離脱することが分かっている。このことを利用して、ヒノキの毬果での7月下旬の口針鞘数から果樹カメムシ類のヒノキからの離脱時期を予測する予測式が作成され、各県で果樹園への飛来時期の予測に利用されている。
 果樹カメムシ類は、雄が果樹園に飛来・定着すると集合フェロモンを放出し、同じ種の仲間を呼び寄せてしまうため、薬剤を散布しないと次から次に飛来し、被害が大きくなってしまう。そのため、飛来を的確に把握して、園内への飛来初期の低密度時に防除を徹底して行う必要がある。
 園内への飛来量が多くなってしまうと、薬剤を散布しても十分な防除効果が得られないこともあるので注意する。また、被害は園全体に発生するのではなく、隅の方などに局部的に発生することもあり、被害の発生に気付くのが遅くなることも多い。そのため、果樹園内を日ごろからこまめに観察して、飛来の有無、飛来状況を把握する必要がある。夜間に、自動販売機やコンビニの光などに果樹カメムシ類が集まっている場合は要注意と考える。
 発生状況については、各県の「病害虫防除所」などが越冬調査、予察灯およびフェロモントラップ調査、ヒノキの毬果上の口鞘数調査などを基に、発生量および発生時期の予想をホームページなどで提供しているので参考にする。

(写真)ツヤアオカメムシ成虫


◆「殺虫」「吸汁阻害」効果高い薬剤使用

 果樹カメムシ類の防除は、薬剤の散布が中心となる。薬剤は、殺虫効果および吸汁阻害効果の高い合成ピレスロイド系殺虫剤のテルスターフロアブル、ロディー乳剤、MRジョーカー水和剤など、ネオニコチノイド系殺虫剤のスタークル顆粒水溶剤、アルバリン顆粒水溶剤、ダントツ水溶剤など、殺虫効果の高い有機リン系殺虫剤のスミチオン乳剤などを散布する。


◆安全使用基準守り効果的に薬剤散布

 先にも書いたように、果樹カメムシ類による被害を防ぐためには、果樹園内への飛来初期の低密度時に薬剤を散布することが重要である。
 散布した薬剤の効果の残効期間は薬剤ごとに異なり、ネオニコチノイド系殺虫剤および合成ピレスロイド系殺虫剤で10~14日間程度、有機リン系殺虫剤で1~2日程度である。
 なお、散布後に降雨があると薬剤の効果の残効期間が短くなってしまうので注意する。そのため、果樹園へ長期間飛来が続く場合および薬剤散布後にまとまった量の雨が降った場合は、再散布が必要となる。
 また、散布後に降雨が予想されている場合は、薬剤の耐雨性が比較的強いテルスターフロアブルを散布する。
 薬剤散布後であっても果樹カメムシ類の飛来・加害が再確認されたら、効果がなくなったと判断して薬剤を再散布する。さらに、合成ピレスロイド系殺虫剤およびネオニコチノイド系殺虫剤を散布すると、ハダニ類やカイガラムシ類が増加することがあるので、薬剤散布後はこれらの害虫の発生状況にも注意する。
 果樹カメムシ類の成虫は飛翔して広い範囲を移動している。そのため、地域全体で一斉防除を実施して、その地域での生息密度を低くすることによって、薬剤による防除効果を高めることができる。
 なお、果樹カメムシ類による被害は10月ごろまで続くため、収穫直前の果実では散布する薬剤の収穫前使用日数などの安全使用基準に注意して散布する。

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