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農薬:時の人話題の組織

農産物の「日本ブランド」化に貢献 窪田 隆一 石原バイオサイエンス株式会社 代表取締役社長2016年5月27日

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農家に喜んでもらえる企業に

 「農薬化学製品、および関連情報の提供等を通じ農業に貢献し、最終顧客である農家、生産者の皆様に喜んでいただける企業を目指す」と、石原バイオサイエンス(株)は企業理念で謳っている。農家、生産者に喜んでもらうために、いま何を考えているのか。農業の現状をどう分析しているのかなどを、窪田隆一社長に語っていただいた。

◆量から質へ需要が変化

窪田 隆一 石原バイオサイエンス株式会社 代表取締役社長 「いまの日本農業がおかれている環境は、非常に深刻なものだと私は受け止めています」。窪田社長は、日本農業の現状について端的にこう話した。
 深刻な状況をつくりだしている内的な要因としては、よくいわれるように「生産者の高齢化と担い手不足に伴う耕作放棄地の増大」だと指摘。外的な要因としては、「日本人の食の多様化による米需要の激減」をあげた。
 米については、昭和30年代には国民1人当たり年間100kg消費していたのに、現在は50kg台へ半減。これは「食文化の変化でやむを得ないとは思いますが、農業に与える影響は大きいと思います」ということだ。さらに、消費者としての国民の考え方が、安全性の高い、味の良い農産物を求め、かつての「量的需要」から「質的な需要」に変わってきているとも指摘する。
 さらに、農業に大きな影響を与えている外的要因として、気象の変化、とくに異常気象によりここ数年、災害が起きていることもあげた。
 そういう状況のなかで、農薬業界としてみれば「国内市場は飽和状態」になっている。国内市場が飽和状態になると、農薬業界に限らず多くの企業は海外に活路を見出そうとする。だが、日本農業に関わる人たちが簡単に海外に出るような環境にあるわけではないのだから、「日本農業として関連産業も含めて成り立っていくような方策がどうしても必要」だと窪田社長は考えている。
 そのときに「一番大事な自給率についての議論が少なくなってきている」ことを危惧する。とくにTPPを巡る議論のなかでいろいろな意見が出されてきているが、TPPによって「農産物価格に対する影響は確実に出てくる」とみている。そうしたなかで、日本の農業、農産物はどうあるべきかということを考えるときであると。
 そのときの視点の一つとして、「量から質」に変化するなかで日本農業が培ってきた「安全性、味(食味)、安定供給」の3つが大きな武器になる。これを日本農産物のブランド価値として、まず国民に認めてもらい、それを輸出という形で海外にも認めさせることが必要ではないかという。そこには「土地の広さや人件費からみて、量や価格での勝負は無理ではないか」という認識がある。


◆除草時間50時間から2時間へ

 農産物価格では関連して農薬を含めた生産資材価格について、近頃いろいろといわれることが多い。これについて窪田社長は「コスト低減の努力は常にしなければいけません」としたうえで、「一つの産業が生き残っていくためには、関連する産業も協力していかなければいけないと私は考えています。したがって、農業については、生産資材メーカや流通関係者も含めた農薬関連業界全体で、常にコストダウンも努力をするべき問題だ」という考えを示した。
 その例として医薬品についてあげた。「医薬品の場合、国(厚労省)が定める薬価基準改定で市場価格調査結果により、買い手薬価を決めている。少数の値上がり品目もあるが、市場価格との乖離が大きい品目は数%から10%前後の改定価格になる。値下がりした負担をメーカだけが背負うのではなく、結果としてメーカ、医薬卸、医療機関(主として調剤薬局)の3者が最終的に取引価格の形で応分に負担」している。「このようなやり方も各企業の経営コスト削減につなげる検討課題になるのではないか」とも。
 また農薬メーカとしては、製品価格(コスト)だけではなく、「一つの剤で広範囲に効いて残効期間が長く、防除回数を減らすなどの努力をしている」ことを強調する。
 石原バイオサイエンス社は、石原産業(株)農薬製品の国内販売会社として1989年(平成元年)に分社独立した会社だ。石原産業は、1950年(昭和25)に、日本初の水稲除草剤「2,4―D」の製造・販売を開始し、それ以降、除草剤はもとより殺虫剤・殺菌剤・植物成長調整剤・生物農薬など多岐にわたる製品を提供することで日本農業に大きな足跡を残してきている企業だ。
 その「2,4―D」剤が出る前の水田農業では、除草に年間10a当たり50時間くらいかけていたが、いまはそれがわずか2時間程度にまで減ってきている。「このことによる労働時間=コストの低減は大変なもので、日本農業は歴史的に見れば、効率化・省力化され低コスト化されてきたといえる。担い手不足、高齢化の現状のなかではこうした技術がなければ農業は成り立たない」のではないかと指摘する。そしてこれからもそうした姿勢は変わらないとも。


◆環境の変化に対応した提案を

 今後の日本農業を考えるときの大きなキーワードの一つが「大規模化」だ。
 このことは「非常に重要だと思っている」という。あるデータによれば「8%の生産者が6割の農産物を生産・販売している」という。最近ではJAグループでもこのことを認め施策に取り入れ始めているが「民間企業なら、こうした環境変化を先取りしようという意識は強いし、そこに目を向けていかざるを得ない」。もちろん従来からの家族農業を無視するわけではないが、大規模化した農業では、「直播とか農業機械の効率的使用など、従来とは違う技術や方法が農薬にも求められてくる」。例えば農薬を空中散布する場合に、飛散せず直下に落ちる剤の開発とか、「時代にあった剤の開発や使い方を提案していく必要がある」ということだ。
 そうした技術的なことと同時にいま一番力を入れているのが、「農業の現場により近づいて、農薬の使い方や安全性の確保など、技術的なサポートができる社員をできるだけ増やしていくこと」だという。そしてそれを補完するために、専任の研修担当者を配置して毎月、事業所単位で営業普及担当者の勉強会を実施している。さらに、担当者全員に携帯端末のタブレットを支給。このタブレットでは、日植防や植調協会のデータを初め本紙ホームページなど農業関連の情報サイトなど、農業に関連する多様な情報を検索し、その場で生産者や農協職員に示すことができるようになっている。
 「情報は企業の生命線だから、こうしたIT技術は積極的に活用していく」そのことを通じて「信頼関係が築かれていく」のだから、と窪田社長は強調した。


◆画期的な生物農薬を発売

 この年末を目標に、「IPMシステムの一環として生物農薬の発売を予定している」と、窪田社長は嬉しそうに話してくれた。
 具体的には、現在発売しているチリカブリダニに加えてミヤコカブリダニ、スワルスキーカブリダニと増殖資材(バンカーシート)をセットにした「画期的な生物農薬」だ。「バンカーシート」は同社が特許を取得したもので、餌を入れてあるので自ら数を増やす効果、シェルターにもなるので薬剤散布時には天敵生物の避難場所にもなるというものだ。
 通常、生物農薬は放飼するタイミングが難しく、タイミングを誤ると効果を発揮できなかったりするが、増殖するのでそうした心配もなく、放飼回数を減らすこともできる「新兵器」だ。
 あわせてアカメガシワクダアザミウマも同時に発売する予定だ。
 そして、これらの生物農薬については「自社だけでは普及に限界があるので、JA全農と独占販売を合意し、現在、両者で研修を行い、販売に備えている」という。将来的には、同社の殺菌剤や殺虫剤だけではなく、他者のIPM適合製品と組合わせ、果樹・野菜・花き類などのIPM体系を提案していきたいと考えている。
 さらに石原産業中央研究所では「1年に最低1剤の新製品上市を目標」にしており、2016年度は殺菌剤と水稲除草剤を上市、17年度は殺菌剤と除草剤、18年度は殺虫剤の上市を予定しているという。
 こうした新製品群を加えて「国内農業の発展と国産農産物の安全性を確保して、国内外の信頼を高め、日本ブランドの確立に貢献していきたい」と抱負を語った。


◆農家目線からの発想を

 最後に、JAグループへのメッセージを聞いた。
 JA全農が掲げた「より近くに」という言葉が大事だと思っているという。そして「農協改革とかいろいろな波が来ていますが、農家目線、農家の方々の立場に立って発想し、行動していただければ、もっともっと存在価値が高まっていくと思います」。さらに「マーケット志向が大事ですから、市場を見て、市場がどういう方向に向かっているのか、何を考えているのか、そして市場を相手に成長するためのアドバイスができる力を現場の人たちがつけることが大事ではないでしょうか」と語ってくれた。

(くぼた りゅういち)
昭和20年、静岡県生まれ。早稲田大学第一法学部卒業。昭和43年三共(株)入社、平成13年同社アグロ事業部長、15年三共アグロ(株)社長、18年農薬工業会会長、21年三井化学アグロ(株)会長、22年石原バイオサイエンス(株)社長。

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