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農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2016

【IPM(総合的病害虫・雑草防除)】何が必要か?使える防除方法を選び組合わせる2016年12月6日

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被害を最小にするには日々の観察

 IPM(Integrated Pest Management:総合的病害虫・雑草防除)と聞くと難しいイメージをもたれる方も多いかもしれないが、実際はそんなに難しいことではない。IPM技術の多くは、実は昔から多くの篤農家によって実践されてきた技術を科学的に手法化したにすぎないものもある。原点は、大切な農作物に害を及ぼす病害虫雑草が嫌がることを人間の知恵を働かせて実行することにあり、誰でもすぐにでも、そのことを意識すれば確実にできるものも多い。今回は、IPM技術の活用のポイントをまとめてみたので、ぜひ自分の田んぼ畑でも使えそうな技術があったら試していただきたい。

◆ポイントは予防・判断・防除:被害程度見極め適切な防除法を

 農薬は(IPMでは化学的防除という)、病害虫や雑草の防除に大変有益なものであるが、あまりに頼りすぎると、耐性菌や抵抗性害虫等の発達、また土着天敵の減少などによって防除が難しくなることがある。なぜなら、大部分の病害虫雑草が防除されても、もともと強かったものがわずかに生き残り、それが同じ農薬を使い続けることによって、徐々に淘汰され、その農薬に強いものだけが増えていってしまうからである。
 そのような事態に陥る前に、まずは地道に病害虫や雑草が発生しにくい環境をつくる方が先である。その具体的な方法を示すのがIPMである。
 つまり、病害虫・雑草による被害程度を見ながら、経済性も考慮して物理的な防除、耕種的防除や生物資材を組合わせ、適切な防除法を実行することが基本だ。そのことで、病害虫や雑草による農作物被害を防ぐとともに、人の健康へのリスクや環境への負荷を減らすことができる。
 IPMによる病害虫・雑草の防除のポイントは「予防」「判断」「防除」の3つだ。
 以下、それを紹介したい。

◆「予防」:病害虫・雑草が発生しにくい環境に

 病害虫・雑草が発生しにくい環境を整えること。これだけでもずいぶん防除が楽になる。例えば、雑草を100本抜くのと10本抜くのでは労力は大きく違うのと同じだ。病害虫雑草はできるだけ少なく抑える方が防除は楽になる。具体的には、健全な種子や苗を確保すること、バランスのとれた土づくりをすること、病害虫の発生源を除去することだ。また抵抗性品種・台木の利用、輪作などの対策も有効だといえる。
 種子消毒や定植時の薬剤施用、水稲育苗箱処理剤の使用は、栽培初期の被害予防につながる。また、病害虫の発生が多い時期からずらして栽培することも有効だといえる。
 害虫防除では、シルバーマルチや黄色粘着板などの資材を設置することで、害虫の密度を下げることができる。また、施設周辺や畦畔の雑草は害虫の生息地となるので、雑草防除をしっかり行うことで、害虫の発生を抑制することができる。

◆「判断」:発生状況を確認して的確に

 病害虫雑草は発生量が増えすぎると防除が難しくなる。このため、色々な手法を使って、病害虫の量(密度)を小さくする努力をするわけだが、気候によっては、これ以上増えると耕種的防除だけでは抑えきれないという水準に達することがある。
 このような時には農薬による被害回避も考えなければならないので、病害虫雑草ごとに水準を見極める「判断」が必要になる。
 ほ場の病害虫の発生状況をよく観察し、地域の発生予察情報や都道府県が作物・病害虫ごとに作成している「要防除水準」などに照らして、農薬等による防除が必要か否かを判断するようにする。

◆「防除」:有効な手段を適切に組み合わせる

化学農薬とフェロモン剤や天敵などの生物農薬や物理的防除方法・技術

 IPM体系では、化学農薬とフェロモン剤や天敵などの生物農薬や物理的防除方法・技術(表)を、適宜組合わせ、体系的な防除を行うことが重要である。
 病害虫の発生が多くなると防除することが困難になるので、日常的にほ場を観察し、発生の初期段階で対策を講じる必要がある。
【天敵】 天敵を導入する場合は、天敵によって上手な使い方が異なるので、よく確認して使うようにしたい。害虫が少なすぎると天敵がほ場に定着してくれないし、害虫が増えすぎても防除が追い付かなくなる。
 天敵導入後は、天敵に影響の少ない薬剤を選ぶように十分に注意する。
 フェロモン剤は交信攪乱によって害虫の性行動を阻害するものなので、部会などでの一斉取組みをするなど、できるだけ広域で使用することによって、より高い効果を得ることができる。
 天敵やフェロモン剤は、地域やほ場によって効果に差が出るケースがあるので、普及センターなどの指導機関と相談しながら使用する方がよい。
【微生物】 微生物農薬は、作物に病原性のない微生物を作物上に定着・増殖させて病原菌の生息域や栄養を奪ったり、昆虫などに感染して病死させたりする性質を持っている。
 そうした効果を十分に発揮させるには、天敵微生物を上手に増殖させ、作物や害虫に定着させる必要がある。うまく定着させる方法は、天敵微生物の性格ごとに異なるので、どのような条件が必要なのか十分に把握するようにしたい。
 また、天敵や微生物などの生物農薬は、防除対象となる病害虫が限定されるので、作期全体の防除の組み立てを考えて微生物農薬を導入する必要がある。特に、化学農薬との併用の際には、天敵や微生物農薬への影響が少ない化学農薬を選ぶよう十分に注意する必要がある。
【物理的防除】 物理的防除をするにあたっては、事前に資材の特性をよく理解し、作型に合わせた資材の選定、設置を行う必要がある。しかし、抵抗性や耐性の発生するリスクがなく、上手に組み入れることで大きな力を発揮する方法でもある。全農取扱い

◆まとめ:適期に的確な防除を

 防除は、常に判断が求められる作業だ。例えば、病害虫の発生が多く、化学農薬が必要なのに、無理に化学農薬を削減することで被害を大きくすることもあるし、気候が変わったために、他の対策が必要になったりなど、常にほ場の状況に応じた判断が求められる。
 このような判断に基づき、いつ、どこに、どのような技術を導入するかを的確におこなうことが、IPMでの基本であり最も重要なポイントでもある。例えば、生物的防除や耕種的防除法など、地域の条件や天候などの影響を受けやすく、防除効果が不安定になりやすい技術もあるため、予め地域での適合性を確認する必要がある。また、物理的防除法は、導入する機械や資材などによっては、コスト高となる場合もある。
 このように、総合的な防除体系を進めていくには、それぞれの防除方法・対策の特徴をよく理解し、それぞれのほ場で実施が可能な方法を上手に組合わせていくことが一番のポイントだといえる。
 国や県のホームページにはIPM実践のための手法が紹介されている。こうした情報も活用しながら、生産者、指導者、そして消費者を含めてコミュニケーションを図り、総合的な防除への取組みを進めていくことが大事ではないだろうか。

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