農薬:いんたびゅー農業新時代
さらに深く日本の農業へ バイエル仁木理人本部長インタビュー2017年2月17日
仁木理人バイエルクロップサイエンス(株)執行役員カスタマーマーケティング本部長
日本の農業は、人口減少による市場の縮小や生産者の高齢化など厳しい環境にあり、さまざまな議論がされており、これまでとは異なる「農業の新時代」を迎えているといえる。そうしたなかで、農業関連企業のトップはどのような戦略・戦術を考えているのかを、シリーズとして取材していくことにした。第1回目は、ドイツ・バイエルの日本法人、バイエル クロップサイエンス(株)の執行役員でカスタマー マーケティング本部長である仁木理人氏に聞いた。
◆人口増と気候変動への対応が課題
――バイエル社は、農業関連分野でも世界的なリーディングカンパニーとして、グローバルに事業を展開していますが、現在の世界の農業・食料事情と今後の課題をどのようにお考えですか。
2050年には世界の人口は100億人に達するといわれており、現在よりおよそ30億人も増加することは間違いないといえます。農業・食料の面から見れば、マーケットが大きく伸びるということです。しかし、世界的な耕地面積は限られていますから1人当たりの耕地面積は小さくなります。そうしたなかで100億人に必要な食料を確保するためには、生産性を高めて食料を増産することが必須となります。とくに、発展途上国での生産性を向上させることがこれからの大きな課題です。
もう一つは、昨年エルニーニョの影響で水が豊富なメコンデルタでも干ばつが起きたように、世界的にも農業に大きな打撃がありました。気候変動等で水の利用が制限されたりと、環境変化によりマーケットも大きく左右されます。こうした気候変動にどう対応していくのかも大きな課題です。
人口が増え、耕地が限られている中で、必要な食料を確保しなければならないので、農薬をはじめとした農業用資材やそれを駆使した栽培技術の役割は、さらに大きくなっていくと考えています。
◆日本の稲作技術がアジア諸国で貢献
――そうしたなかで、日本の農業はどういう位置づけになっているのでしょうか?
日本は、欧米のような大規模な畑作中心の農業とは異なり、小規模な農業で長年にわたり蓄積されてきた農業技術があります。この日本の技術は、高生産性を求める国々の農業に大きな貢献をすると考えています。
日本列島は、南北に長く、基本的に高温多湿ですが、北海道から九州・沖縄までさまざまな気候があり、多種多様な雑草や病害虫が発生し、それらを防除する技術が開発されています。この情報や技術は、同様な農業形態をもつアジア諸国にとっても有用で貴重な情報です。
日本の作付面積は減ってきていますが、バイエルでは日本を重要なマーケットと位置づけ、各種農薬の開発から最終的な製品製造に至るまで実施しお客様にお届けしていくことにしています。
また、畑作においては、北海道は緯度や気候がドイツと似ています。近年、北海道では100ha以上の農家が増えより大規模化していますが、ドイツでは一農家で100ha以上は当たり前ですので、ドイツで使われている剤や技術を応用することができます。北海道はそういう意味でも私たちの大切なお客様です。
――日本では、殺虫剤「アドマイヤー」や非選択性除草剤「バスタ」、日本で開発が進められてきた有効成分テフリルトリオン」を含む水稲用除草剤「ボデーガード」、「ポッシブル」、水稲用殺菌剤「ルーチン」、「エバーゴル」シリーズなど、生産者になじみ深い剤がたくさんあり、日本農業に大きく貢献されてきていますが、今後はどういう方向で開発を考えていますか。
昨年の4月には、ノビエや難防除多年生雑草に対して優れた効果を発揮する新規原体のトリアファモンと「ボデーガード」、「ポッシブル」で高い評価を得ているテフリルトリオンという異なる作用機序をもつ有効成分を配合した「ボデーガードプロ」(商系名:カウンシルコンプリート)などを発売しました。このように過去10年間で新規原体の登録を10剤取得してきており、現状、2020年までに上市する製品群についてもほぼ決まっています。現在は、さらにその先を見つめた研究開発に着手しています。
◆生産現場のより近くで農家をサポート
――その研究・開発から製品化に向けた基本的なコンセプトは何ですか?
原体の研究開発はもちろんですが、今後大型農家の増加の傾向も踏まえ、大型農家さんにあった農薬の散布の仕方や使用法を含めた栽培技術まで考えていく必要があります。さらにそれらを含めたサポート体制を立ち上げ、農家に処理方法を具体的に提案できればと考えています。そこには、これからの技術としてドローンの活用や農業のデジタル化も含まれています。
これらの技術はまだ確立されていませんが、欧州では、畑や病害の状況が分かるような管理システムのパイロット試験が始まっています。
また、日本においては、現在の開発の中心ともなっているなるべく多くの農家さんが使用しやすい製剤等の開発だけでなく、コストを意識した剤を開発することも必要と考えています。例えば特定の地域や農家さんの要望を満たせる形で製剤化することで、コストパフォーマンスをあげていくという方向性もあるのではないかと思われます。
――農家に処理方法まで提案しサポートしていくというのは、新しい方向ですね。
昨年、従来の営業部門の技術普及とマーケティング部門を一体化したカスタマー マーケティング本部を立ち上げ、生産現場に近い所に「フィールド マーケティング」を配置しました。そして彼らが活動しやすいように、営業やマーケティングのデータはもとより、公的なデータまでを一つのシステムに集約しました。
――フィールド マーケティングは何をするのですか?
いままでのサポートは技術のサポートでしたが、技術的な視点だけでなく、農家さんが何を望んでいるのか、それに応えるには何が必要かといったマーケティングの視点をもって活動することで、より生産現場の変化に的確に対応していこうというものです。
従来、海外企業のマーケティングはどちらかというと開発よりでしたが、フロントラインを増やすことで、より市場(生産現場)に近い情報収集・分析に力をいれていこうということです。
日本で製剤を開発製造する機能も有していますので、原体開発だけではなく、いち早くニーズに応えた製剤開発にも対応できるようになります。
また、農業に携わる次世代リーダーを育成するという観点から、グローバルで「世界若者農業サミット」を2013年から隔年で実施し、世界45カ国から100人の若者が集まり地球レベルでの食糧安定供給についてのディスカッションが5日間にわたってなされます。今年はベルギーでの開催となりますが日本からも2名の代表が参加する予定です。日本でも、高校生のビジネスコンテスト「キャリア甲子園」にテーマ・スポンサーとして参画しています。
◆生産者と消費者つなぐJAの力の発揮
――最後に、JAあるいはJAグループへのメッセージをお願いいたします。
JAは農家と農産物の消費者の両方に向いている組織です。とくに農家が何を望んでいるのかを知ることができるのが一番の強みです。また、栽培技術を継承していくことは、お金では買えませんから、営農指導が大きな力を発揮することができます。
そうした力と消費者ニーズを的確に把握して農家の力をどう発揮させ、生産から販売までのトータルコストをどう抑制して農産物を提供していくのかをコントロールする力をJA、JAグループはもっています。
また、生産履歴記帳運動など、農産物の安全・安心への多様な取り組みにも昔から真摯に取り組まれてきています。そうした数多い個々の活動を一つにまとめると有効で大きな力になります。そのことが生産者と消費者をつなぐ役割を果たすと考えています。
私たち海外企業は、国内メーカーさんと異なり、国外に出ていくことができません。日本だけが対象ですから、日本の農業にさらに徹底的にフォーカスしていきます。
日本の農業は厳しい環境にありますが、私たちはチャンスがあると確信しています。JAのみなさんとともに、素晴らしい日本の農業を元気にしていきたいと考えています。
(にき・まさひと)
1971年生まれ。96年筑波大学大学院農学研究科修了、三共(株)(現第一三共)入社、2003年三共アグロ(株)設立に伴い同社へ出向、07年三共による農薬事業売却により三井化学(株)に転籍し三共アグロへ出向、08年三井化学農薬化学品事業部、09年バイエルクロップサイエンス(株)入社 以後、マーケティング本部の水稲除草剤・箱処理剤・殺虫殺菌剤のプロダクトマネージャーを経て、12年同部水稲グループリーダー、15年同部水稲畑作グループリーダー、16年2月マーケティング本部長、同年10月カスタマーマーケティング本部長に、現在に至る。
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