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農薬:いんたびゅー農業新時代

生産者の所得向上に貢献【篠原聡明 シンジェンタジャパン(株) 代表取締役社長】2017年3月19日

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 日本の農業は、人口減少による市場の縮小や生産者の高齢化など厳しい環境にある。さまざまな議論がされ、これまでとは異なる「農業の新時代」を迎えている。そうしたなかで、農業関連企業のトップはどのような戦略・戦術を考えているのか。シリーズ2回目は国内農薬市場でトップの座にあるシンジェンタジャパン(株)の篠原聡明社長にインタビューした。

◆変化の時代にチャンスが

 ――社長に就任されてちょうど3年経ちますが、今どのような感想をお持ちですか?

篠原聡明 シンジェンタジャパン(株) 代表取締役社長 あっという間の3年で、3年経ったという実感がなく、時間が早く過ぎたなという感じです。就任時に比べると、農業情勢が変わるスピードが早まっているので、それに合わせて事業を展開していく必要がありますが、と同時に、それは非常にラッキーなことだとも感じています。

 ――どういう意味ですか。

 何十年に一回来るかどうかという農業情勢の変化の中に、シンジェンタという会社が存在し、その社長としてこのような舞台で仕事をさせていただくことは、なかなか経験できないからです。もちろん難しい問題も多くありますので、大変強い責任を感じています。

 ――社長就任以後、「農協改革」の真っただ中という感じですね。

 3年前にこの状況を予測していた人はほとんどいないと思います。既存の状態に安穏としていると気がついたら水が沸騰して所謂ゆでガエルになってしまう。「我々もゆでガエルにならないようにしよう」と社員にはよく話しています。つまり、状況を追いかけるのではなく、常に先を見ながらビジネス環境の変化に対応することが必要です。ただ、世の中に確実なことはありませんから、いくつかのシナリオを想定しながら、状況に合わせて対応していくことが重要だと考えています。
 
 ――日本の農業は、生産者の高齢化や担い手の問題もありますが、日本の人口そのものが減少し、市場が縮小していくと予測されています。そうした中でどのような戦略をお考えでしょうか。

 非常に大きなチャンスが巡ってきたと考えています。
 確かに農薬市場は毎年減少し出荷ベースで3000億円台ですし、種子もそうです。しかし、別の側面からみると、日本の全耕地面積の2.5倍に相当する面積で生産された農産物が輸入され、日本人の食生活を支えています。確かに日本市場は縮小していますが、世界人口の増加と中国・インド等の所得水準の向上を考え合わせると、本当にこのまま輸入し続けられるのか、大きな疑問だと思っています。
 そのことを考えると、いま農業が抱えている課題を解決できれば、この2.5倍の面積全部とはいいませんが、日本の市場価値が大きくなる可能性があるからです。
 しかも農業者の生産性向上と手取り収入増加を実現する付加価値の高い製品とサービスを提供できれば、わが社が展開している農薬・種子だけではなく、農業周辺を取巻く大きな価値を創出できるチャンスが、日本農業には存在しているのではないかと考えています。

◆信頼で築いたトップの座

 ――日本の農薬市場が縮小する中で、出荷額でみると常に御社がトップとなっていますが、それは種子まで含めてトータルで日本農業をバックアップしているからですか?

 農薬出荷金額もありますが、それだけがシンジェンタという企業の付加価値を示しているかというと疑問があります。
 確かに、わが社の社員が製品を通じて、JA様をはじめとするお客様のご要望にお応えすることで、販売面においてこのような結果が出ていると思います。しかしこれからは、モノを販売するだけでなく、モノを含めた価値を提供することが重要です。現場にいる社員ももっと幅広い視点から、いかにお客様に付加価値を提供できるかを考え、それによって評価を頂けるよう努力することにより、付加価値の高い産業としての日本の農業の構築に貢献したいと思っています。
 
 ――同じような薬剤があるなかで、生産者が何を選択するかは、薬剤効果だけではなく現場の社員の方々のサービスを含めた信頼関係が築かれているかどうかにかかっているわけですね。

 信頼・信用をしっかり守っていると同時に、時代を見つめて新しいことに挑戦していく取組みとが相まって、最終的にさらに強い信頼を勝ち取ってきた結果だと言えます。
 しかしこれからは今までの延長線上ではいかないと考えています。

 ――そういう意味では人が大事だということですね。

 最終的には、人材であり、新しいものに取組んでいく気概や、違ったものを受け入れられるカルチャー、あるいは失敗をも乗り越えていけるタフな精神力が必要な要素になってくると思います。

◆異業種とのバリューチェーンを構築

 ――国内企業は、国内市場が縮小した部分を海外でという方向にありますが、外資系の日本法人は日本の市場だけを対象にするしかないので、それが強みになっているように見えますね。

 与えられた責任は日本市場で成功することが大前提になります。だからこそ、日本農業にどこまで深く入って行くかを考えています。
 と同時にシンジェンタは世界中に現地法人を有しており、各地域の農業に深く入り込んでいます。各国同士のネットワークにより、例えば今米国の先端農業はどうなっているのか、欧州ではどうかといった最新情報がタイムリーに入ってきます。そうしたグローバルでの豊富な情報を日本の農業の発展に活用することができます。
 その一例が、以前にもご紹介した英国の黒あざ病を予防する植溝内土壌散布技術の北海道への導入や、全農様とのコラボレーションによるミニトマト アンジェレの開発やヨーロッパの業務・加工用キャベツの導入も行っています。そういう意味でも、全農様やJAグループは、革新的な技術を展開する重要なパートナーと位置づけています。
 全農様は生産から消費までのフードバリューチェーンの構築を考えておられますので、わが社としても農薬や種子だけでなく、いろいろな技術的情報交換をしながら、最適な生産・販売体制の構築に参加していくことで、単なる製品の販売だけでなく、付加価値の高い農産物の開発にも貢献していこうと考えています。社員もその方がさらにやりがいを感じますから...。

◆痛みを分け合い新しい時代へ

 ――農薬・種子だけではなく新しい栽培体系の構築からさらに一歩進めて、フードバリューチェーンの構築がこれから目指すものですか?

 もちろんシンジェンタだけで全てできるわけではありません。そうしたフードバリューチェーンの構築を目指す、関連他産業の企業や全農様と連携し、農業をフードバリューチェーンの一環として位置付けることにより、生産性向上だけでなく農業を付加価値の高い産業にすることができると確信しています。そうした輪を広げていくなかで、シンジェンタが持つ付加価値を発揮できる場をつくるために積極的に動いていこうと考えています。

 ――なぜそういう発想が生まれてくるのですか?

 シンジェンタという企業が事業を継続できているのは、わが社の製品やサービスを使用して頂いた結果、生産者が得た利益の一部を私どもが頂いているからです。
 基本的にはそれがなくなったらわが社は日本市場に存在できません。そういう危機感から、根本的に重要な事は何かと考えた結果です。つまり最終的には生産者の所得向上に貢献できるような環境をつくっていくことが非常に重要なのです。その柱となるのは、やはりJAグループ様であり、その力を共有して私どもも事業を進めていければと考えています。

 ――種子も御社の重要な事業ですが、そのことも含めて今後どのようなことをお考えですか。

 シンジェンタジャパンで培ってきた技術であるシードケア(種子処理)は、大豆で大きな成果があがっています。これを他の作物にも応用して、環境負荷の低減と省力化を両立させて生産性向上に貢献できないかと考えています。
 さらに、それぞれの種子の特性を活かした技術をどう確立するかが、次の大きなイノベーションになると思います。
 また中食用のコメが不足して問題になっていますが、シンジェンタグループが海外で展開しているコメの種子や技術で何か貢献できることがないかと考えています。

 ――最後に、JAおよびJAグループへのメッセージをお願いします。

 これからまだまだ変化が続くと思います。その中で重要なことは、困難な状況下でもしなやかに適応する回復力や再起力といった強さだと思います。そのためには、多様性が重要です。農業はなかなか違ったものを地域的に受入れにくい傾向がありますが、新しいもの、良いものを貪欲に受け入れて自ら変わっていくことが、これからは必要ではないかと考えます。また、そういう風土ができると素晴らしいと思います。
 新しいものを作る際には痛みを伴いますが、その痛みも共に感じながら、パートナーとして、一緒に乗り越えて新しい時代を創っていきたいと考えています。

【プロフィール】
しのはら・としあき
1966年生まれ、明治大学農学部卒業。
1990年トモノ農薬(株)入社。1996年ノバルティスアグロジャパン出向、1997年ノバルティスUSA出向、1998年(株)トモノアグリカ本部グループ営業企画リーダー、2001年シンジェンタジャパン(株)プロフェッショナルプロダクツ部長、2006年シンジェンタフィリッピン社長、2009年シンジェンタジャパン(株)取締役営業本部長、2011年同社取締役執行役員アグリビジネス営業本部長、2014年3月同社代表取締役社長およびシンジェンタ北東アジア地区総支配人、現在に至る。

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