農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識 2017
【春夏野菜の病害虫防除】発生密度の低い時が防除チャンス2017年4月21日
農作物の品質や収量を左右するものは何であろうか。品種や栽培技術、施肥法など色々あるが、やはり病害虫雑草による被害が最も影響が大きいものだろう。そのため、病害虫雑草防除は、品質の良い農産物をたくさん収穫する上で大切な仕事の一つだといえる。この重要な防除という作業には、病害虫雑草の生態に合わせて上手に行うと効率良くできるようになるコツのようなものがある。ところが、近年は地球温暖化の影響もあって、年々病害虫の発生様相が異なっており、生態に合わせる防除ができにくい環境にあるが、環境が変わっても変わらないコツというものが存在するはずである。今回は、春夏野菜の病害虫防除を題材に、防除のコツを探ってみた。
※この記事は2017年に掲載した内容です。最新記事はこちらをご覧ください。
春夏野菜とは、トマトやキュウリ、ピーマン、ナス、スイカやカボチャといった果菜類、あるいは、トウモロコシやバレイショといったものが代表的なものである。この季節は、まだ発生する病害虫の密度も少なく、被害も比較的少ないので、頻繁に防除が必要になることはない。だが、実は、この「病害虫の密度が低い」時というのが、その後の生育期間を通じて病害虫の発生を低く抑えるための絶好のチャンスであり、この時期にきちんと防除を行うのが上手な防除のコツだ。なぜなら、病害虫の発生量が少なければ、農薬も効きやすいし、散布回数も少なくて済むからである。
◆耕種的防除を組み合わせる
耕種的防除は、農薬以外で対象となる病害虫の発生密度を低く維持するのに有効な方法である。
耕種的防除とは、田畑の周辺を病害虫が活動しにくい、あるいは嫌がるような環境に変えてやる方法である。例えば、アブラムシは銀色を嫌う性質があるため、シルバーマルチをするだけでも作物への寄生を少なくすることができるし、抵抗性品種を使うのも耕種的防除の一つだ。作物によって使える技術や資材はまちまちであるが、できるだけ複数のものを組み合わせて実行すると、より効果があがる。
[耕種的防除の例]
(害虫)防虫ネット、有色粘着紙、シルバーマルチ、周辺雑草防除、手取り など
(病害)熱消毒、土壌還元消毒、拮抗微生物利用、有機物施用、輪作、抵抗性品種の利用、弱毒ウイルス、栽培時期の移行、適正施肥、雨よけ栽培 など
(雑草)機械除草、耕運、マルチかけ など
◆農薬はラベルをよく読んで使う
農薬には個性があり、使い方を誤ると効果が出ないばかりか作物残留上の問題を起こす可能性もある。そのため、使おうとする農薬のラベル、解説技術資料などをよく読み、特に「使用適期」(農薬の効果が最も出やすい使用時期)は十分に把握した上で使用するようにしたい。この使用適期は、たくさんの薬効試験を繰り返し、その農薬が一番効果を発揮できる時期を追及した上で記載されているので、これを守るだけでも、防除の効率は格段によくなる。これが二つ目のコツである。
「病害が発生する前に散布する」と書いてある場合、病害の発生後にいくら散布しても効果がなく、「害虫が小さい時に散布する」と書いてある農薬の場合、既に大きくなった害虫にはまず効かないと思ってよい。使用適期を逃した散布は、多くの場合、無駄な散布になってしまうということを肝に銘じていただきたい。
◆主な害虫類とその防除対策
〇アブラムシ類
ワタアブラムシやモモアカアブラムシなどのアブラムシ類は、春夏野菜の代表的な害虫だ。特にワタアブラムシは、6月~8月が発生のピークで年に10数回も発生する厄介な害虫なので定期的な防除が必要だ。モモアカアブラムシは、多くの作物に寄生し、4月上旬から5月下旬に発生が最も多くなり被害を起こす。
アブラムシ類の厄介なところは、各種ウイルス病を媒介することだ。ウイルス病が発生する恐れがある場合は、アブラムシの防除を徹底して行う必要がある。農薬としては、有機リン系やピレスロイド系、ネオニコチノイド系の効果が高いが、有機リン系やピレスロイド系では薬剤抵抗性が発達しているので、地域で使える農薬の選択にあたっては、JAや指導機関等への確認を忘れないようにしていただきたい。
〇コナジラミ類
シルバーリーフコナジラミが媒介するトマト黄化葉巻病という病害が依然として大きな問題となっている。この病害は、トマト黄化葉巻病ウイルス(TYLCV)によって起こり、トマトの新葉が巻いたり、小葉化、黄化などの症状が起こり、株全体が萎縮する。短期間にシルバーリーフコナジラミがほ場全体に病原ウイルスを伝播して発病させるため、収量が激減し、世界中のトマト農家に恐れられている病害である。このため、トマト栽培においては、媒介虫となるコナジラミ類の徹底防除が最重要ポイントだ。これに加え、オンシツコナジラミやタバココナジラミといったものが果菜類に発生するが、それぞれに効果のある農薬が異なるので注意が必要だ。
コナジラミ類の防除は、側窓・入口・天窓への防虫ネット(0・4<CODE NUMTYPE=SG NUM=7C9F>目)の設置や苗での防除の徹底、植付時の殺虫粒剤の使用による初期防除、栽培終了後の施設の蒸しこみ処理)、地域一斉対策(野良トマトの除去、周辺雑草の防除、家庭菜園への防除依頼など)などがある。これらの中で実施可能なことはできるかぎり多く実行したい。
防除薬剤としては、オンシツコナジラミは、登録のある薬剤であればうまく防除できるが、タバココナジラミやシルバーリーフコナジラミに効く農薬が異なるので、JAや指導機関等に地域の情報をよく確かめるようにしてほしい。指導機関等が出している情報によると、タバココナジラミに効果の高い薬剤は、サンマイトフロアブル、スタークル顆粒水溶剤、ベストガード水溶剤の3剤の効果が高いとのことだ。次いで、モスピラン水溶剤やアドマイヤー顆粒水和剤やアクタラ顆粒水和剤、ダントツ水溶剤、ハチハチ乳剤などが続くとのこと。
◆主な病害とその防除
〇うどんこ病
葉っぱの表面などに白い粉状の病斑を発生させ、ひどくなると葉柄やつるの部分にも発生し、だんだん樹が弱って収量が減ったり、実の品質が悪くなったりする病害である。キュウリやスイカ、カボチャなどウリ科野菜に多く発生する。診断は容易なので、発生が認められたら、発生初期の頃から定期的に丁寧に防除したい。防除薬剤は、ダコニールやフルピカなど予防効果の高い薬剤を防除の中心にして、やや発生が増えてきたら、EBI剤など効果の高い薬剤を散布するとよい。プロパティフロアブルなども有効だ。ただし、うどんこ病は、EBI剤など複数の薬剤で耐性菌が発生しているので、薬剤の選定にあたってはJAや地域の指導機関に確認する必要がある。
〇べと病
春夏野菜では、主にキュウリなどのウリ科野菜に発生する。病気の広がり方が早く、樹勢が衰えて、商品性や収量が低下する病害で、淡黄褐色の葉脈に囲まれた不整形病斑を確認することで、容易に診断できる。
病原菌は、べん毛菌類と呼ばれる湿度を好む病原菌(かび)で、卵胞子という形で土中に潜み、降雨があると分生胞子を形成して、飛散し伝染していくため、梅雨時など降雨が多く、湿度が高い時に発生が多くなる。このような時期には敷き藁やマルチをするなどして、土の跳ね上がりを防ぐようにすると効果的だ。
この病害は、感染から発病までの期間が短いため、気付いた時には既にかなりの範囲で病気が広がっている可能性が高い。このため、べと病がいつも発生するような畑では、発生する時期の前から予防剤を定期的に散布し、もし初期病斑を見つけたら、できるだけ早く徹底して薬剤散布を行うとよい。散布の際には、葉の裏側にある病斑を目がけて、葉の裏にも薬剤が届くように丁寧に散布することがコツである。
薬剤防除は、予防効果に優れ残効も長い保護殺菌剤(ジマンダイセン、ダコニール、ペンコゼブなど)をローテーション散布の基本として、少しでも病勢が進むようなら速やかに治療効果も有する薬剤(アミスターフロアブルやリドミルMZなど)を使用して、病勢を止めるようにするとよい。ただし、ストロビルリン系薬剤には耐性菌が発生しているので、地域によっては使えない場合がある。必ず、指導機関の情報を確認する。
〇疫病
春夏野菜では主にトマトなどナス科野菜に発生する病害で、植物体のいろんな場所に発生し、葉では暗褐色から灰緑色の水浸状の病斑を形成し、乾燥した被害部分は黒褐色になる。果実にも発生するので、商品価値の低下が著しく、しっかりと防除したい病害である。
べと病と同じように湿度を好む病害なので、発生が多くなる時期は葉の手入れを着実に行って、通風をよくし、できるだけ湿度を下げるようにするのがコツだ。薬剤防除は、予防効果に優れて残効も長い保護殺菌剤(ジマンダイセン、ダコニール、ペンコゼブなど)をローテーション散布の基本として、少しでも病勢が進むようなら速やかに治療効果も有する薬剤(アミスターフロアブルやリドミルMZなど)を使用して、病勢を止めるようにするとよい。
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