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農薬:いんたびゅー農業新時代

総合的提案でワクワクする農業を【西本 麗 住友化学株式会社 代表取締役専務執行役員】2017年4月21日

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 農業新時代を迎えた今日、農業関連企業のトップの考えを聞くシリーズの今回は、グローバルなマーケットで活躍する国内トップメーカーである住友化学(株)の西本麗専務に、世界のそして日本の農業のあり方などを聞いた。

◆7割増産が必要な世界の食料

 ――世界的には農業や食糧が大きな問題となっていますが、グローバルに事業を展開している御社ではどうご覧になっていますか。

西本 麗 住友化学株式会社 代表取締役専務執行役員 日本にいると、その点の感覚がだいぶ違うと思います。2050年に向けて世界的には人口が増加するなかで食糧をどう確保していくのかが大きな課題です。農地はブラジルではまだ増やせるでしょうが、世界的には限界があり増加は難しい。さらに日本では問題になりませんが、水の問題がある地域が圧倒的に多いです。エルニーニョ現象等の異常気象で、極端に水が不足する地域があります。また土壌の問題もあります。
 そうしたなかで安定的に食糧を増産するためには、生産性を上げるしかありません。食肉も、所得水準が上がると需要が増えますから、穀物生産も現在より7割くらい増やさないといけないと言われています。
 こうしたトレンドは、私たちの業界では共通認識になっていて、これをどう支援していくのかを考えていますし、農業の生産性を支える生産資材はまだまだ成長していくと見ています。
 一方で弊社の基盤は日本ですから、日本農業がしっかりしていただかないと困ります。これからは、日本農業も生産性を上げ競争力のある産業となり、もっともっと世界にマーケットを求めていくことを考えていかないと、じり貧になってしまうと思います。

 ――食糧増産をするためには、栽培技術も含めて、生産資材メーカーの役割は大きいといえますね。

 そうですね。ある意味でビジネスチャンスであると同時に、社会的な要請も大きくなっているという両面がありますね。

 ――世界的に見ても日本の農薬開発力は高いレベルにありますね。

 過去10年の新しい薬剤の開発では、半分くらいは日本メーカーです。これからも私たちはR&Dをベースに新しい製品・技術を開発していくのが基本的な使命です。すでに国内では、従来のビジネスだけではなく、お米のビジネスやファームなどで、資材個別ではなく、必要なものをまとめて、農家にとって便利で役立つように、TSP(トータルソリューションプロバイダー)として農業支援をし始めています。
 【TSP=農薬・肥料・資材などの製品から、関連技術、農産物の販売まで、住友グループ 各社が持つさまざまな商材や機能を生かし、 農業経営を総合的にサポートするシステム】

 ――海外の農業事情ですが、ブラジルが下降傾向にあるとか言われていますが...。

 ブラジルの問題は天候や虫の発生という極端な問題が起きたことでの一時的な現象です。まだまだ農耕地に転換できる余裕があり、ブラジルの果たしている役割は依然として大きいですし、伸びると思います。

 ――インドとかアジアはどうですか。

 アジアで米の供給余力があって輸出できるのは、タイとベトナムです。インドネシア、フィリピンは輸入国になっています。今後、可能性があるのがインドです。インドはまだ生産性が低いのですが、世界7番目の農薬市場です。力をつけてくれば農産物の輸出に向かっていくので、インドでのビジネスは非常に重要だと考え、事業展開しています。
 市場としては中国が大きいのですが、政策がよく変わるなど分かりにくい面があります。その点インドは、英国流の法整備がされているので分かりやすく、法律に則ってビジネスができます。
 さらに20年後を考えるとアフリカです。当社はこれまでマラリア防除用の蚊帳をタンザニアで生産していましたが、そこに住友ケミカルイーストアフリカという会社をつくり、当社の肥料や農薬を使って、アフリカの農業で生産性を上げるためにどう貢献できるかという、フィールドテストを行っています。インドのエクセルクロップケアを買収しましたが、この会社は東アフリカにも進出しています。

◆種子から収穫までトータルに提案

 ――日本国内に焦点をあてるとどうですか。

 国内農業をいかに良くしていくかということで、盛んに議論されました。そのために資材メーカーに求められていることは、良い資材を出すこととコスト競争力をどうつけるかです。これは農家の所得を増やすだけではなく、そのことで日本農業のコスト競争力がつき、海外に打って出るようにしていくことです。
 よくオランダ農業のことが言われます。あれは単一作物なので、違うかもしれませんが、日本もそういうポテンシャルはあります。ただ、「日本の農産物は安全です」と神話のようにいわれますが、それはグローバルスタンダードに則らないと認められません。検疫の問題とかもクリアして、海外に出していけるようにするために、解決しないといけない課題はまだまだあると思います。

 ――先ほど、TSPというお話がありました。御社は、お米についても農薬や生産資材だけではなく、種子から栽培技術まで含めて総合的に取り組まれていますが、今後はそういうやり方になっていくのでしょうか。

 従来からのやり方だけでは、手詰まり感はあります。水稲農家も高齢化が進み、大規模化がどんどん進んでいくと思います。そのときに農家がいろいろなところに声をかけるよりも、必要なモノが揃ったところからまとめて購入したいと思うので、それにどう応えていくのか。それは従来型ビジネスだけでは対応できません。
 まだ試行錯誤の段階ですが、水稲なら種籾から収穫まで、それぞれの段階で何が、どういう技術が必要なのか、コストをどう下げるのか、独自の栽培暦や地域ごとのマニュアルなども作成してご提案しています。

 ――水稲については、県ごとに品種開発がされ、産地間競争がされていますね。

 国内に大きなマーケットがあるならいいのですが、海外では銘柄が多数あるのはデメリットです。「日本ブランド」として認知されませんから...。米国では、全米大豆協会とかがあって「メイド・イン・アメリカ」を徹底してプロモーションする体制になっています。いろいろと優れた農産物がありますが、国内産地同士が海外で競争しても意味がないと思います。なによりも大事なことは「日本ブランド」をどうプロモーションし、海外で認知させるかです。そのためには、国もそうですが、全農の果たす役割も大きいのではないでしょうか。
 お米でいいますと、飼料用米もいいのですが、私はもっと主食用米を低コストでつくって輸出したらどうかと思っています。

◆異業種他社とも連携し大規模化を支援

 ――今後は国内でも規模拡大が進むと、生産性を上げていく必要がありますね。

 すでに、大規模化や省力化を支援する技術を、農業機械メーカーとタイアップして開発しています。また、海外では精密農業が進展していますが、日本でも日本の規模にあった技術で、農薬や肥料の使用量を抑える技術が、これから5年で急速に普及するのではないかと見ています。そうなる要素がパーツ、パーツとして現在でもたくさん出てきています。それを繋いで提案するのが、弊社の役割だと思っています。

 ――御社単独ではなく、農機メーカーやIT関連メーカーなどと連携して開発していくわけですね。

 国内ではいくつかの会社と連携して開発してきています。これは、農業をトータルでとらえて、どう貢献するかです。もちろん、農薬は事業の核ですから、それもしっかりやりながら、異業種の他社とタイアップして、農業に貢献していきます。

 ――そういう意味では、いまの時代はコーナータイトルでもある「農業新時代」を迎えているといえますか?

 その通りですし、これからの何年間は本当に大事だといえます。ここでしっかり取り組まないと、ずるずると衰退していく危険がありますし、そうなると農業資材メーカーとしても困ります。

◆国内から海外へ夢をもって挑戦

 ――最後に、JAグループの役職員や生産者へのメッセージをお願いします。

 JAや全農のネットワークはものすごく価値があると私は考えています。このネットワークをどんどん活用していくことで、新しいアイディアが生まれてきたり、現場からのニーズが上がったりすることは、農家の方にも私たちメーカーにとっても大事なことです。それは現場で起きている問題やコストとか技術的な問題だと思いますが、それを私たちが知り、その問題を解決するために製品や技術に転換することで、農家の方の生産性をあげ、貢献していきたいと考えていますので、どんどん現場の声を私たちに伝えてください。
 そしてJAや農家の方も、国内だけではなく、もっともっと夢をもって海外へ出て、世界に貢献していくという発想をもって挑戦していただきたいと思います。
 住友化学は、こうした夢をもつ農家やJAの皆さんとご一緒に、「ワクワクする農業」を実現していきたいと思いますし、そのために必要なご協力は惜しみません。

【略歴】
にしもと・れい 昭和55年3月大阪大学経済学部経済学科卒業。4月住友化学工業(株)入社。平成15年7月同社国際アグロ事業部開発業務部長、16年10月同部事業企画部長。16年10月住友化学(株)に社名変更。18年6月同社農薬化学業務室部長、21年4月同社執行役員(農薬化学業務室部長、農薬化学品質保証部担当)、23年同社取締役常務執行役員、25年6月同社代表取締役常務執行役員、27年4月同社代表取締役専務執行役員、現在に至る。

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