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農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2018

【春夏野菜の病害虫防除】密度が低い初期に徹底して叩く2018年5月8日

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 人間の身体に防御機能があるように、植物にも防御機能がある。植物の場合、病害虫が好まない物質を体内に蓄えて病害虫が寄り付かないようにすることが多いが、そのような物質の多くが、人間の食にとっても好まれないものが多い。このため、農作物は人間の食にも適するように品種改良が加えられ、時として、良食味と引き換えに防御機能物質の生産能力が抑えられてしまったものもある。その結果、多くの農作物が病害虫の被害を受けやすくなっており、安定した品質や収量を保つためには、病害虫雑草防除は欠かせないものである。
 この防除を上手に実施するには、病害虫雑草の生態に合わせることが大切であり、特に病害虫の生育密度が低い初期を逃さず確実に行うことが肝要である。しかし、近年の異常気象により病害虫の発生様相が毎年異なってきているので、初期対応時期を逃さないよう重要な時期には圃場の観察を欠かさないようにしたい。(※ページ下に適用作物、適用病害虫別の農薬一覧表があります。)

※この記事は2018年に掲載した内容です。最新記事はこちらをご覧ください。

現場で役立つ農薬の基礎知識「最新記事」はこちら

◆耕種的防除で病害虫の密度を下げる

 耕種的防除とは、田畑の周辺を病害虫が活動しにくい、あるいは嫌がるような環境に変えてやる方法である。例えば、アブラムシは銀色を嫌う性質があるため、シルバーマルチをするだけでも作物への寄生を少なくすることができるし、抵抗性品種を使うのも耕種的防除の一つだ。残念ながら、耕種的防除だけでは確実な防除が難しいことも多いので、まずは耕種的防除で病害虫の密度を小さくし、その上で、農薬で確実に防除するという合わせ技が防除を成功させるためのコツだ。

 

耕種的防除の例
 (害虫)防虫ネット、有色粘着紙、シルバーマルチ、周辺雑草防除、手取り、など
 (病害)熱消毒、土壌還元消毒、拮抗微生物利用、有機物施用、輪作、抵抗性品種の利用、弱毒ウイルス、栽培時期の移行、適正施肥、雨よけ栽培、など
 (雑草)機械除草、耕運、マルチかけ、など

 

◆使用適期を逃さずに

 農薬には個性があり、使い方を誤ると効果が出ないばかりか作物残留上の問題を起こす可能性もある。そのため、使おうとする農薬のラベル、解説技術資料などをよく読み、特に「使用適期」(農薬の効果が最も出やすい使用時期)は十分に把握した上で使用するようにしたい。この使用適期は、たくさんの薬効試験を繰り返し、その農薬が一番効果を発揮できる時期を追及した上で記載されているので、これを守るだけでも、防除の効率は格段によくなる。これが2つ目のコツである。
 例えば、「病害が発生する前に散布する」と書いてある場合、病害の発生後にいくら散布しても効果がなく、「害虫が小さい時に散布する」と書いてある農薬の場合、既に大きくなった害虫にはまず効かないと思ってよい。使用適期を逃した散布は、多くの場合、無駄な散布になってしまうということを肝に銘じていただきたい。

 

◆病害虫とその防除対策

【アブラムシ類】

 ワタアブラムシやモモアカアブラムシなどのアブラムシ類は、春夏野菜の代表的な害虫だ。
 特にワタアブラムシは、6月~8月が発生のピークで年に10数回も発生する厄介な害虫なので定期的な防除が必要だ。
 モモアカアブラムシは、多くの作物に寄生し、4月上旬から5月下旬に発生が最も多くなり被害を起こす。アブラムシ類の厄介なところは、各種ウイルス病を媒介することだ。ウイルス病が発生する恐れがある場合は、アブラムシの防除を徹底して行う必要がある。
 農薬としては、有機リン系やピレスロイド系、ネオニコチノイド系の効果が高いが、有機リン系やピレスロイド系では薬剤抵抗性が発達しているので、地域で使える農薬の選択にあたっては、JAや指導機関等への確認を忘れないようにしていただきたい。

 

【コナジラミ類】

 シルバーリーフコナジラミが媒介するトマト黄化葉巻病という病害が依然として大きな問題となっている。この病害は、トマト黄化葉巻病ウイルス(TYLCV)によって起こり、トマトの新葉が巻いたり、小葉化、黄化などの症状が起こり、株全体が萎縮する。短期間にシルバーリーフコナジラミが圃場全体に病原ウイルスを伝播して発病させるため、収量が激減し、世界中のトマト農家に恐れられている病害である。このため、トマト栽培においては、媒介虫となるコナジラミ類の徹底防除が最重要ポイントだ。これに加え、オンシツコナジラミやタバココナジラミといったものが果菜類に発生するが、それぞれに効果のある農薬が異なるので注意が必要だ。
 コナジラミ類の防除は、側窓・入口・天窓への防虫ネット(0・4mm目)の設置や苗での防除の徹底、植付時の殺虫粒剤の使用による初期防除、栽培終了後の施設の蒸しこみ処理)、地域一斉対策(野良トマトの除去、周辺雑草の防除、家庭菜園への防除依頼など)などがある。これらの中で実施可能なことはできるかぎり多く実行したい。
 防除薬剤としては、オンシツコナジラミは、登録のある薬剤であればうまく防除できるが、タバココナジラミやシルバーリーフコナジラミに効く農薬が異なるので、JAや指導機関等に地域の情報をよく確かめるようにしてほしい。公的機関の試験成績等によると、タバココナジラミに効果の高い薬剤は、サンマイトフロアブル、スタークル顆粒水溶剤、ベストガード水溶剤の3剤の効果が高く、次いで、モスピラン水溶剤やアドマイヤー顆粒水和剤やアクタラ顆粒水和剤、ダントツ水溶剤、ハチハチ乳剤などが続くと報告されている。

 

【うどんこ病】

 キュウリやスイカ、カボチャなどウリ科野菜に多く発生する病害で、主に葉の表面に白い粉状の病斑を発生させ、ひどくなると葉柄やつるの部分にも発生し、だんだん樹が弱って収量が減ったり、実の品質が悪くなったりする。
 診断は容易なので、発生が認められたら、発生初期の頃から定期的に丁寧に防除したい。防除薬剤は、ダコニールやフルピカなど予防効果の高い薬剤を防除の中心にして、やや発生が増えてきたら、EBI剤など効果の高い薬剤を散布するとよい。ただし、うどんこ病は、EBI剤やストロビルリン系薬剤など複数の薬剤で耐性菌が発生しているので、薬剤の選定にあたってはJAや地域の指導機関に確認する必要がある。

 

【べと病】

 春夏野菜では、主にキュウリなどのウリ科野菜に発生する。病気の広がり方が早く、樹勢が衰えて、商品性や収量が低下する病害で、淡黄褐色の葉脈に囲まれた不整形病斑を確認することで、容易に診断できる。
 病原菌は、べん毛菌類と呼ばれる湿度を好む病原菌(かび)で、卵胞子という形で土中に潜み、降雨があると分生胞子を形成して、飛散し伝染していくため、梅雨時など降雨が多く、湿度が高い時に発生が多くなる。このような時期には敷き藁やマルチをするなどして、土の跳ね上がりを防ぐようにすると効果的だ。
 この病害は、感染から発病までの期間が短いため、気付いた時には既にかなりの範囲で病気が広がっている可能性が高い。このため、べと病がいつも発生するような畑では、発生する時期の前から予防剤を定期的に散布し、もし初期病斑を見つけたら、できるだけ早く徹底して薬剤散布を行うとよい。散布の際には、葉の裏側にある病斑を目がけて、葉の裏にも薬剤が届くように丁寧に散布するのがコツである。
 薬剤防除は、予防効果に優れ残効も長い保護殺菌剤(ジマンダイセン、ダコニール、ペンコゼブなど)をローテーション散布の基本として、少しでも病勢が進むようなら速やかに治療効果も有する薬剤を使用して、病勢を止めるようにするとよい。ただし、治療剤の多くは耐性菌が発生しており、地域によっては効果がない場合が多いので、予防効果のある薬剤の定期的散布を心掛け、できるだけ治療剤を使用しない防除を心掛けたい。その場合、使用回数制限の無い銅剤や銅剤と微生物の混合剤(クリーンカップ)などを上手に活用すると良い。

 

【疫病】

 春夏野菜では主にトマトなどナス科野菜に発生する病害で、植物体の色んな場所に発生し、葉では暗褐色から灰緑色の水浸状の病斑を形成し、乾燥した被害部分は黒褐色になる。果実にも発生するので、商品価値の低下が著しく、確実に防除したい。
 べと病と同じように湿度を好む病害なので、発生が多くなる時期は葉の手入れを着実に行って、通風をよくし、できるだけ湿度を下げるようにするのがコツだ。薬剤防除は、予防効果に優れて残効も長い保護殺菌剤(ジマンダイセン、ダコニール、ペンコゼブなど)をローテーション散布の基本として、少しでも病勢が進むようなら速やかに治療効果も有する新規薬剤を使用して、病勢を止めるようにするとよいが、べと病と同様に治療剤には耐性菌が発生して使用できない場合が多いので、予防効果のある薬剤の定期散布を心掛け、できるだけ治療剤を使用しないで済むような防除を心掛けたい。その場合、使用回数制限の無い銅剤や銅剤と微生物の混合剤(クリーンカップなど)を上手に活用すると良い。

 

◇  ◆  ◇

 春夏野菜の作物別登録農薬一覧

(上の表をクリックするとPDFファイルが開きます。)

 

農薬別主な適用病害虫一覧(上の表をクリックするとPDFファイルが開きます。)

 

 この表は農薬名と適用作物(上)、農薬名と主な適用病害虫(下)の2表に分けて、おおざっぱに薬剤を選択できるようにした。
 このため、実際の使用にあたっては、農薬ラベルをきちんと確認し、適用作物、使用時期、使用方法を確実に確認して正しく使用するようにしてほしい。

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