農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2018
【現場で役立つ農薬の基礎知識2018】水稲の本田防除 計画的予防散布で確実に防除2018年6月6日
近年は春らしい日がなく、寒かったと思えば打って変わって夏日になったりと安定しない天候が多い。それが農業生産に与える影響は大きく、先月発生した秋田の水害など記憶に新しい。今や梅雨時にも入り、普通期の田植えがピークに向かう時期で本格的な稲作シーズンとなった。今年はどうか大きな気象被害も無く、無事に実りの秋を迎えられるよう祈るばかりである。さて、稲作につきまとうのが、イネを狙う病害虫である。彼らは、天候が変化すればそれに応じて発生する時期を変え、毎年発生してくるからやっかいだ。今はちょうど幼穂形成や必要茎数確保に大変重要な時期でもあるので、この時期の病害虫の発生状況が最終的な水稲の生育や収量に大きな影響を及ぼすことも多い。特に、大敵いもち病は、葉いもちの発生量が多いと穂いもちの発生増に結びつきやすく、被害が大きくなるので、この時期にしっかりと防除しておきたい。
この時期に必要な病害虫防除のポイントを以下のとおり整理したので参考にしてほしい。
※この記事は2018年に掲載した内容です。最新記事はこちらをご覧ください。
◆水稲本田に発生する病害虫
【いもち病】 まずは、いもち病である。本病は水稲栽培において最も大きな被害を発生させる病害である。
糸状菌(かび)が引き起こす病害で、25℃~28℃の温度と高湿度を好み、感染には水滴が必要で、しとしと雨など稲体に水滴が付着するのが長時間続くときに多く発生する。病斑ができてからも、大量の胞子を飛散させるには90%以上の高湿度が必要であるので、蒸した気候が続くときに蔓延する。いもち病は、水稲生育のどの段階でも発生するので、被害が長く続き、結果として大きくなる。
苗いもちでは、初期生育が悪くなって生育不良による減収や、伝染源になって葉いもち蔓延の原因となったりする。
葉いもちでは、病斑に葉がやられて生育が抑制され、ひどい場合は新しい葉も出すくみ状態となり、いわゆる"ずりこみ"状態となる。この状態になると、もはや収穫も望めなくなる。
穂いもちでは、穂首や籾に病斑ができるが、穂首に病斑ができると、首から先の穂に栄養が届かなくなり、籾が入らない白穂になるし、籾に病斑ができると稔実不良となったり、着色米の原因ともなる。
(写真は5月末に撮影した東北の水田風景。いもち病の症例ではありません。)
【紋枯病】
次に問題となるのが紋枯病である。この病害も糸状菌(かび)が起こすが、いもち病とは違う種類のかびである。稲の水際の茎葉部に、雲形で中央が灰白色の病斑をつくり、それから、だんだんと上位に病斑が伸びていき、止葉まで達することがある。そこまで行くと、減収の被害が出る。また、念実が悪くなったり、茎葉が病斑によって弱まって倒伏しやすくなるので、コシヒカリなど背の高い品種は要注意である。
株間の湿度が高いと発病が多くなるので、茎数が多い品種はもちろん、窒素過多による過繁茂などは発病が多くなる要因となるので注意したい。
その他、近年発生が多くなっている稲こうじ病やごま葉枯病、細菌が原因の白葉枯病などがあるが、気候や地域によって発生状況が異なるので地域の発生予察情報などに注意してほしい。
主な水稲殺菌成分の特性一覧
(表をクリックするとPDFファイルが開きます。)
【ウンカ等害虫】
一方害虫では、田植え直後から発生するイネミズゾウムシやイネドロオイムシ、セジロウンカ、ヒメトビウンカ、ツマグロヨコバイ、トビイロウンカなどが主な対象害虫である。これらは、まだ幼いイネの葉を加害し、初期生育を遅らせたり、ウイルス病を媒介したりする被害をおこすが、初期の防除をきちんと行っていればそれほど怖いものではない。
ただし、ウンカ類にはネオニコチノイド抵抗性害虫が発生している地域があるので、そのような場合は、薬剤の選択にあたっては指導機関に相談してほしい。
また、ニカメイガなど後半の発生を抑えるためにこの時期の発生量を減らしておいた方がよい害虫もあるので、特に常発地ではこの時期の防除を確実に行っておきたい。
主な殺虫成分と適用害虫
(表をクリックするとPDFファイルが開きます。)
◆上手な防除とは
近年の気候変動によって、病害虫の発生状況が毎年と異なることが多く、発生に応じた防除がやりにくくなっている。
特に、特別栽培米など農薬の使用回数が制限される栽培では、使用回数が制限されているが故に、突発的な発生には対応しづらい状況が続いている。
そのような状況の中では、対症療法的防除より予防的防除の方が効果が安定することが多い。
(1)効率の良い予防散布
「出もしない病害虫の防除に農薬を使うのはナンセンスだ。病害虫が発生した時に必要な農薬を必要な量だけ散布することで過剰な農薬散布を避け、環境に配慮した効率的な防除ができる。」という意見がある。
もっともなご意見であるが、これだけ気候の変動が激しい場合にはかえって病害虫発生のリスクが大きくなるようだ。例えば病害の場合、病斑が見つかった時にはじめて発生が確認されるが、病害には、感染してから発病するまで症状が出ない期間(潜伏期間)があるので、目の前の病斑以外にも、発病はしていないがすでに感染している可能性が高い。つまり、病斑が見つかった時に見つかった部分だけ防除しても、実は、隠れた病害を取りこぼしてしまうこともあり得るということだ。それで、潜伏していた病害が病斑として出現した時、再び農薬を撒かなければならなくなる。農薬の使用回数はほ場に対してカウントされるので、こうした防除を行っていれば、農薬の使用回数はあっという間に回数上限に達してしまうだろう。
また、稲の表面を保護する、いわゆる保護剤を使えば新たな感染を防ぐことはできるが、既に潜伏している病害には効果がないため、防ぎきることができない場合もある。このため、効果を持続させるためには、繰り返し散布しなければならないことも多く、害虫防除でも同じようなことがいえる。
ということは、病害虫が飛んで来る前に長期に効果が持続する農薬を使用しておくことが、一番少ない回数で、安定した防除が得られる防除法といえるのではないか。もちろん、地域単位で全く出ない病害虫には防除の必要はないが、地域で毎年発生する病害虫に対しては、年々変わる発生時期や発生量に対応するためにも、長期に持続する農薬をあらかじめ施用しておいて、防除を確実にする方がより効率的だといる。
(2)育苗箱処理剤を防除の中心に
長期に効果が持続し、しかも少ない防除回数で安定した防除効果を得るためには、長期持続型の有効成分を含む育苗箱処理剤が最も適しているだろう。つまり、まだ病害虫にさらされていない育苗段階から外敵への備えを済ますことができ、しかも重要な防除時期を通して効果が期待できるので、どんな発生状況になっても十分な効果を発揮することができるだろう。このことを実現できる主な育苗箱処理剤とその有効成分の特性一覧を作成したので参考にして欲しい。
主な育苗箱処理剤(殺虫・殺菌剤)一覧
(クリックするとPDFファイルが開きます。※新聞未掲載)
(3)本田散布もできるだけ予防的散布を
箱処理剤を使用しない場合や緊急防除、空中散布では、本田散布の粒剤や豆つぶ剤、水和剤やフロアブル、粉剤などを地上部から散布することになるが、その場合でも、前述のような理由で、できるだけ適用の範囲内で病害虫が発生する前に散布するようにしたい。
また、病害虫の発生後に散布せざるを得ない場合は、出来るだけ発生初期の病害虫の密度が少ないうちに散布することが重要だ。病害の場合は、治療効果のある薬剤でも発生密度が少ない方が高い効果を発揮するし、害虫も小さな幼虫の内に防除できれば被害も少なくて済む。一見無駄に見える予防散布も、発生状況に応じた計画的な散布であれば、臨機防除よりも効率的になり得ることをご理解いただきたい。
(関連記事)
・【現場で役立つ農薬の基礎知識 2018】ミカン主要病害虫防除のポイント ?田代暢哉・佐賀県上場営農センター?(18.05.09)
・【春夏野菜の病害虫防除】密度が低い初期に徹底して叩く(18.05.08)
・水稲除草剤の上手な使い方 進化する薬剤を適期に使用!(18.04.09)
・【水稲育苗期と初期防除のポイント】健苗育成を心掛け、初期防除の徹底を(18.03.09)
重要な記事
最新の記事
-
【現地レポート】「共同利用施設」が支える地域農業とこの国の食料 JA秋田おばこ六郷CE(2)2025年3月28日
-
農協の組合員数1021万人 前年度比0.6%減 2023事業年度 農水省2025年3月28日
-
農業構造転換 別枠予算の確保を 自民党が決議2025年3月28日
-
(428)「春先は引越しの時期」?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年3月28日
-
大関と共同開発「ニッポンエール レモンにごり酒300ml瓶詰」新発売 JA全農2025年3月28日
-
愛媛県の林野火災被災者に共済金など早期支払い JA共済連2025年3月28日
-
県内最大級のねぎイベント! 「大分ねぎまつり2025」を開催 JA全農おおいた2025年3月28日
-
「好きがみつかるスポーツテスト」特設サイトをリニューアル 体力測定結果なしに診断 JA共済連2025年3月28日
-
毎月29日は「いい肉の日」限定セール開催 約360商品が特別価格 JAタウン2025年3月28日
-
粘り強く贈答品にも 天候によって形状が変わる「相模原のやまといも」 JA相模原市2025年3月28日
-
土浦れんこんカレー 県産れんこんと豚肉がゴロッと JA水郷つくば2025年3月28日
-
夏も冷涼な気候生かし 完熟ミニトマトで100%ジュース JA新いわて2025年3月28日
-
【中酪25年度事業計画】生乳需給変動対策に参加、離農加速受託戸数9600台も2025年3月28日
-
太陽光発電設備・蓄電池設備を活用 JA帯広大正で再エネ導入2025年3月28日
-
JA三井リース Frontier Innovations1号投資事業有限責任組合へ出資2025年3月28日
-
ウェブコンテンツ「社会のニーズに対応したソリューション」を公開 日本農薬2025年3月28日
-
【組織改定・人事異動】デンカ(4月1日付)2025年3月28日
-
日本農学大会 4月5日に東京大学弥生講堂とオンライン配信 日本農学会2025年3月28日
-
茨城大 グリーンバイオテクノロジー研究センターを4月に開設 微生物研究で気候変動緩和・環境保全目指す2025年3月28日
-
冷凍技術とサプライチェーン強化で本格寿司を世界へ 農水省補助事業者に採択 デイブレイク2025年3月28日