農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2019
【現場で役立つ農薬の基礎知識2019】ミカン 病害虫防除のポイント 発生初期の5~6月に重点2019年5月23日
一年の中でも5月から6月下旬にかけては、ミカン(カンキツ)の病害虫防除にとって最も重要な時期。その理由は、開花期から幼果期にかけては病害虫の被害を最も受けやすい時期であること。また、発病・発生の初期段階で抑えておかないと、その後の対応が厳しくなるからだ。そこで、この時期に改めてミカンの病害予防や害虫駆除など、防除のポイントを確認しておこう。
※この記事は2019年に掲載した内容です。最新記事はこちらをご覧ください。
【そうか病】
散布の基本となるのは、デランフロアブル。しかし、デランにかぶれる場合は、ストロビーやナリアWDG、ファンタジスタ顆粒水和剤、フルーツセイバーなどを用いる。
これらの薬剤では灰色かび病の同時防除も可能。落弁期以降にデランフロアブルを散布し、その後にマシン油乳剤を近接散布すると、果実に薬害が生じるため注意が必要だ。
そうか病の病斑
【灰色かび病】
ストロビー耐性菌が増加傾向にあり、効果が不安定な場合も。そんな時は、ナリアWDGやファンタジスタ顆粒水和剤などを用いる。極早生品種や早生品種では、落弁期頃からの黒点病対策が必要になるため、マンゼブ水和剤を混用して使う。
花弁上に形成された灰色かび病の大量の胞子
【黒点病】
マンゼブ水和剤(ペンコゼブ、ジマンダイセン)といった耐雨性に優れた薬剤を散布する。
梅雨期の集中豪雨は一日で数百ミリに達することもあり、600倍での効果は不安定。500倍でも600倍と同程度になる。安定した効果を期待するには、400倍(ミカンのみ登録)で使う。400倍ではチャノキの被害も抑制される。
なお、97%マシン油乳剤やパラフィン系展着剤のアビオンEの加えて用いることで耐雨性が高まる。
近年、9月以降の後期被害が目立っている。マンゼブ水和剤は4回までの使用に限られるため、もう使えない場合には、ストロビーやナティーボ、有機銅で対応する。
果実の黒点病斑
【褐色腐敗病】
発生してからの散布では手遅れになるほど、急激に蔓延する。過去に被害を受けた園では予防策として8月下旬~9月上旬に後期黒点病との同時防除を兼ねてマンゼブ水和剤を散布する。
発生を認めたらレーバスフロアブル、アリエッティで対応。なお、アリエッティは高温時に散布すると果実に激しい薬害を生じるため、要注意。
【かいよう病】
防除は3~5月に重点的に行わなければならない。5月下旬までの散布により、春葉に病斑を作らせないことが、果実の発病を抑えるために欠かせない。
果実に発病してからの対応では遅いが、発生した園では被害の拡大を抑えなければならない。
無機銅剤のなかで効果が最も高いのはICボルドー。果実でスターメラノーズが問題になる梅雨明け以降は、希釈倍数を200倍とし、さらに炭酸カルシウム剤(クレフノン等)を200倍で加用する。
台風の通過後に被害が拡大するため、必ず襲来前に無機銅水和剤を散布しておくこと。台風が近づいてくると、他の対策に手をとられるため、早めに散布したほうが無難だ。台風が襲来する1週間前の散布でも十分な効果が得られる。
抗生物質剤のマイコシールドとの混用散布を行う場合は、襲来3日前頃が適期。台風が通過した後の散布では効果はない。
【果実腐敗】
腐敗果実の発生は取引価格の低下と産地のイメージダウンにつながるため、徹底した対応が必要。ベンレート水和剤、または、トップジンM水和剤とベフラン液剤25とを混用して散布する。混合剤のベフトップジンフロアブルも同様の効果がある。
【果樹カメムシ類】
今年は4月から8月上旬までの前期の発生は少ないと予想されている地域が多い。ただし、山林からの飛来時期・量は地域や場所によって大きく違うため、日頃から防除所や普及センター、農協が出す情報に気を配っておくこと。
飛来が予想される時期が近づくと、園内で毎日、カメムシ類の存在の有無を確かめることが大切。園内にいるカメムシ類は小数でも大量飛来の呼び水になるため、一匹でもカメムシ類を見つけたら直ちに薬剤散布を行う。大量の連続飛来が始まってからでは手遅れになる。
薬剤はテルスター水和剤やマブリック水和剤、MR. ジョーカーなどの合成ピレスロイド剤。または、アルバリン顆粒水和剤やスタークル顆粒水和剤などのネオニコチノイド系剤を使う。
有機リン剤の残効は極めて短いため、大量飛来が予想されている場合は使用しない。
なお、合成ピレスロイド剤やネオニコチノイド系剤を散布するとミカンハダニが急激に増殖するため、果実にまでミカンハダニの被害が及ぶようであれば、殺ダニ剤の散布が必要だ。
一匹でも見つけたら要注意のチャバネアオカメムシ
【ミカンサビダニ】
6月上旬からの早目の対応が必要。梅雨明け後の散布では手遅れになる。サビダニ専用剤としてサンマイト水和剤やダニカット乳剤などがある。
スリップス類の被害が多い園では同時にコテツフロアブルやマッチ乳剤、ハチハチフロアブル、アニキ乳剤、アグリメック、ファインセーブを用いる。
多発が心配される園では、8月下旬に散布する殺ダニ剤にミカンサビダニにも効果の高い種類を選ぶ。
【マルカイガラムシ類】
収穫前になって被害に気づくことが多く、手遅れになりやすい害虫。
その理由は、冬季にマシン油乳剤を散布することが少なくなったこと、6月に使われる殺虫剤が有機リン剤から本種に効果の低いネオニコチノイド系剤へシフトしていること、散布ムラが多いこと(特にスプリンクラー散布やSS散布の場合)が最近の多発生の原因だ。
他のカイガラムシ類よりも早い5月下旬からの散布が必要。8月下旬の仕上げ摘果の際に寄生果実を見つけたら、直ちに有機リン剤を散布する。
【ミカンハダニ】
果実への寄生は商品価値を大きく低下させるため、8月下旬から9月上旬にかけて殺ダニ剤を散布する。この時点で発生していなければその必要はなく、その後の発生に応じて対応する。
殺ダニ剤の効果低下の問題は以前に比べて少なくなっており、多くの剤で安定した効果が期待できる。ただし、抵抗性の発達を遅らせるために、同一薬剤を毎年連続して使ってはならない。ここ数年で使用していない殺ダニ剤を散布すること。
監修:田代暢哉(佐賀県上場営農センター)
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