農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2019
【現場で役立つ農薬の基礎知識2019】秋冬野菜の病害虫防除2019年7月25日
昨年、50年に一度の災害といわれる西日本豪雨が襲ったのは記憶に新しい。地域によっては雨が少なく田植えもできないところもあったが、7月に入って台風の影響もあってか雨が増えてきた。近年の雨は、梅雨らしいシトシト雨ではなく、集中豪雨ばりのドカ雨が多いので、農作物への影響が本当に心配だ。特に鹿児島など九州南部を中心に中四国にも大雨が続いているので、注意してほしい。
※この記事は2019年に掲載した内容です。最新記事はこちらをご覧ください。
雨が多いと、雨媒伝染性の病害が多くなり、特に台風が通過したあとは傷口から病原菌が入りやすくなる。また、夏を過ぎると、オオタバコガやハスモンヨトウなどの大型チョウ目害虫の活動が活発になるため、いずれも早めに対策をしておきたい。
以下、秋冬野菜の主要な病害虫防除のポイントについて整理した。文中や病害虫防除剤の適用農薬一覧で適用薬剤を紹介しているが、紙面の関係上、薬剤を選ぶ際のヒントのみを示している。希釈倍率などラベル情報は省いた。実際に使う際は、農薬のラベルの内容をよく確認してから使ってほしい。
◆病害虫の発生状況をつかみ防除適期を逃さない
秋冬野菜に限らず、病害虫の発生が少なく、小さな幼虫の時期の防除は効率的に被害を抑えられ。この時期を逃さず防除するのが"適期防除"だ。
適期防除の例をあげると、小さい害虫にしか効かない農薬の場合は害虫が小さい時が"適期"といえる。病害が発生する前に散布しなければ効かない農薬の場合は、病害の発生前が"適期"であって、それを過ぎるといくら優れた農薬でも十分な効果は期待できない。病害虫も早期発見、早期防除が基本だ。
まずは、ほ場をよく観察し、病害虫がどんな状況にあるかをよく把握するよう心掛けてほしい。その上で、毎年発生する病害虫であれば、防除暦などが示す防除時期に確実に散布し、発生が例年と異なる場合には、発生状況に応じて早めの対処を行うようにしたい。その際は、発生予察情報や指導機関の指導をよく確認してほしい。
◆秋冬野菜の問題病害虫とその防除対策
【オオタバコガ】
オオタバコガは、盛夏から初秋にかけて被害が大きくなり、ナス科やウリ科、アブラナ科、レタスその他多くの野菜や花卉を食い荒らす非常にやっかいな害虫。とにかく発生の初期を見逃さずに確実に防除することが重要だ。そして、発生期間を通じて次から次へと発生するため、発生が始まったら定期的な薬剤散布が必要だ。特に果菜類では、幼虫が果実に喰い入る前に確実に防除できるよう、発生初期からの定期防除が不可欠だ。
効果のある薬剤としては、フェニックス顆粒水和剤やアファーム乳剤、スピノエース顆粒水和剤、トルネードフロアブル、プレオフロアブル、プレバソン顆粒水和剤の評判がよい。新規薬剤では、速効性に優れ、効果が高いグレーシア乳剤が登場し、注目されている。
気候変動などの理由により発生が読めない場合は、セル苗灌注処理法が効果的なようだ。この方法は、育苗期に薬液を灌注処理するだけで、本圃に移植してからも苗がまだ小さい時期の防除作業が省略でき、初期の被害や苗による持ち込みを防ぐことができる。キャベツやレタスなどの苗を植え付けてから1か月近くも効果を発揮するので、生育初期の被害を回避することができる。紹介した薬剤には、この処理法ができる薬剤も多いのでセル苗移植の場合は、一度試してみると良い。
(上の表をクリックすると大きな表が表示されます。)
【ハスモンヨトウ】
年に5~6回も発生し、施設内なら越冬もできるので、冬でも発生することがある。多食性で、ありとあらゆる作物を食い荒らす厄介な害虫だ。8月~10月の被害が特に大きいので、これからの季節は最重点で防除に取り組んでほしい。
この害虫の厄介なところは、6回ほど脱皮して蛹・成虫となる際に、齢期が進むにつれて薬剤が効きにくくなること。特に最終の6齢幼虫だと防除が難しくなる上、食害量も多くなるので大きくなる前にしっかりとした防除が必要だ。
このため、薬剤がよく効く幼虫がまだ小さい時期からの徹底防除が重要で、発生初期からの発生期間を通じた定期的な防除が必要となってくる。
指導機関などの資料で防除薬剤としての評価が高いのは、フェニックス顆粒水和剤、プレオフロアブル、プレバソン顆粒水和剤の3剤であり、古くからの薬剤では、アファーム乳剤、オルトラン水和剤、コテツフロアブル、ジェイエース水溶剤、ランネート45DF、ロムダンフロアブルなども価が高い。新規のグレーシア乳剤がオオタバコガ防除と同様に注目されている。
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【ナモグリバエ】
名前のとおり葉にもぐりこんで葉の内部を食害して絵かき症状を示す害虫だ。多くの葉菜類に寄生し、特にレタスでは、心葉を加害し、最悪の場合、枯死するなど大きな被害を起こす要注意な害虫。常発地域では、育苗期や発生初期の徹底した防除が必要だ。
防除薬剤では、ダントツ粒剤やモスピラン粒剤などの植穴処理やリーフガード顆粒水和剤やアファーム乳剤などの散布は効果が高い。特に植え付け初期の被害を防ぐ場合は、ジュリボフロアブルなどを育苗期後半にセルトレイに処理すると効率の良い防除ができる。
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【ネコブセンチュウ】
サツマイモネコブセンチュウによる被害が多く、作物別ではトマトやサツマイモでの被害が大きい。被害は、土壌中にいるネコブセンチュウが野菜の根に寄生して根にコブを形成させ、根の機能を低下させることによって起こり、生育不良や葉の黄変などを起こす。
防除対策としては、センチュウの密度がまだ少ない時には、ネマトリンのような土壌処理粒剤の効果が高く、散布労力も少なくて済む。しかし、発生密度が高くなってくると土壌処理粒剤だけでは防ぎきれなくなる。その場合は、ソイリーンなど土壌消毒剤による徹底防除が必要になってくる。 しかし、センチュウは土壌の深いところに生存している場合もあり、根絶させるのは難しい。このため、対抗植物「マリーゴールド」の作付けや太陽熱消毒など耕種的防除と組み合わせて総合的な防除が行うように心がけたい。
【アブラムシ】
多くの野菜に寄生し、吸汁被害やウイルス媒介などの被害を起こす。レタスではモモアカアブラムシとジャガイモヒゲナガアブラムシが寄生するが、両主ともに様々な野菜に寄生する。
比較的防除しやすい害虫で、モスピランやダントツ、スタークルなどネオニコチノイド系剤の効果が高く、粒剤の土壌処理や薬液散布など用途に合わせて使える。その他、トレボンなどピレスロイド剤の効果も高い。また、フーモンなど気門封鎖剤は、収穫前日まで使え、使用回数制限の無いことからローテーションの1剤として有効的に活用したい。
【根こぶ病】
アブラナ科作物の根に、大・小不揃いのコブをつくり、根の機能を低下させ、生育不良やひどい場合には枯死させる病害。病原菌は、かびの仲間だが、耐久体をつくって土中に5年~6年という長期間生存する厄介な病害だ。そのため、アブラナ科作物を連作すると病原菌が土壌中に増え続け、なかなか減らすことができない。土壌水分が多く、酸性ほ場の場合に発生が多くなるため、排水をよくして土壌の水分を下げたり、石灰窒素や石灰の施用による土壌のアルカリ化を図ることが防除の基本だ。
防除薬剤には、作条土壌処理もしくは全面土壌処理を行うものにネビリュウやネビジン粉剤、フロンサイド粉剤やオラクル粉剤などがある。
また、セル苗灌注によって定植初期の根こぶ病感染を防ぎ、被害を少なくできる方法がある。これは、散布の手間が省け、使用する薬量も少なくて済むので省力的な方法だ。
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【べと病】
葉に、黄色~淡褐色(ハクサイ)や淡黄緑色(キャベツ)、淡黄褐色(ブロッコリー)の葉脈に囲まれた不整形病斑をつくり、秋~冬の多湿時に発生が多くなる。
病原菌はべん毛菌類と呼ばれる湿度を好むカビで、感染から発病までの期間が短く、気付いた時にはすでにかなりの範囲で病気が広がっていることが多い。そのため、発生が多くなるジメジメした時期は、丁寧に観察し、病斑が見つかったら速やかに防除するようにしたい。
また、どの病害にもいえるが、病斑を見つけてから防除するよりも、病気が発生する前の予防的散布が最も効果が安定する。毎年発生するようなほ場では、発生前から定期的な予防散布を行う方が効率的だ。
散布の際には、葉の裏にもしっかりと薬剤が届くよう丁寧に散布し、特に降雨など湿度が増す恐れがある場合などは、早め早めに薬剤散布を行うことを心がける。
薬剤防除は、予防効果に優れ残効も長い保護殺菌剤(ジマンダイセン、ダコニール、ペンコゼブなど)をローテーション散布の基本として、少しでも病勢が進むなら速やかに治療効果が期待できる薬剤(プロポーズ顆粒水和剤やレーバスフロアブル、アミスターオプティフロアブルやリドミルゴールドMZなど)を使用して、病勢を止めるようにするとよい。ただし、治療効果が期待できる薬剤は、耐性菌発生のリスクがあるため、防除時期の前に地域の指導機関に確認するようにしてほしい。
(本シリーズのその他の記事)
・連作障害対策に有効活用を(19.06.24)
・いもち・ウンカ防除は計画的に(19.06.21)
・水稲の本田防除 本田防除は予防散布で計画的に(19.06.11)
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・春野菜 防除のコツ 病害虫の発生初期を見逃すな(19.04.24)
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