農薬:防除学習帖
【防除学習帖】第14回 害虫の防除方法(生物的防除Ⅱ天敵)2019年8月9日
農作物を加害する害虫を効率的に防除するには様々な防除法を組み合わせて行う総合的防除(IPM)が重要で、その一翼を担うのが生物的防除だ。生物的防除にも色々あって、前回は微生物由来の生物農薬について紹介した。今回は、天敵昆虫や天敵線虫が主成分である天敵農薬を紹介する。
◆生物的防除の留意点
生物的防除は、天敵や微生物など天然に存在する生物等を利用して害虫を抑える防除法で、(1)人畜への安全性が高いこと(2)抵抗性害虫が発生しにくいこと(3)開発費用が安くすむことなどのメリットがある。
一方、デメリットは、(1)防除できる害虫が限られること(2)すぐに効かないこと(3)大量製造が難しいこと(4)効果を発揮させるための技術(コツ)が必要なことなどが挙げられる。
このように、生物的防除は、使用する資材の使い方を誤ると全く効果が出ないこともあるので、特性を良くつかんだ上で正しく使うよう十分に留意してほしい。
◆天敵農薬とは
天敵農薬とは、害虫の天敵(昆虫・ダニ・センチュウ)を利用して防除する資材。この天敵農薬は、天敵を人工的に増殖させ、効果を発揮できる数を確保したもので、ほ場に放飼して使用する資材だ。天敵も好みの害虫が異なるため、天敵の種類によって防除できる害虫の数や種類が異なる。
天敵農薬は、防除できる害虫に限りがある。現在、農薬登録がある天敵農薬は表のとおりだが、防除可能な害虫がほぼ1種類であることがわかる。
ただし、スワルスキーカブリダニだけは、単独でアザミウマ類、コナジラミ類、チャノホコリダニ、チャノホコリダニといった複数の害虫を捕食する。このため、アザミウマ類とコナジラミ類など複数の害虫が同時発生する果菜類などでは、スワルスキーカブリダニは大変ありがたい存在だ。
◆天敵農薬の害虫防除メカニズム
天敵農薬は、天敵が害虫を捕食あるいは寄生することによって効果を発揮する。
捕食とは文字通り、害虫そのものを天敵が餌として食べて害虫を駆除すること。餌となる害虫がほ場にいることが不可欠だ。天敵農薬が害虫防除効果を発揮し続けるためには、ほ場内に一定数の天敵が定着していることが不可欠で、そのためには、餌となる害虫が、天敵が生存し続けるのに十分な程度に発生していなければならない。これが天敵農薬で成果をあげることの難しさの要因となっている。
このため、天敵が活動しやすい環境を整えるには、害虫と天敵の双方の生態をよく把握し、実際の栽培体系や栽培管理の方法を考える必要がある。
◆天敵農薬の上手な使い方
天敵農薬を使う場合に難しい点を整理すると、以下のようになる。
(1)害虫がいつ発生してくるかが分からないことが多いため、いつ天敵を放飼したらよいかわからない。
(2)一般に栽培作物のほ場では、天敵の隠れ家や産卵場所が少なく、それに加え、温度や湿度、散水や農薬散布といった天敵に影響のある要因が多く存在すること。
(3)もし、1回の放飼で天敵が定着しなかった場合、再び天敵を放飼しなければならなくならなくなり、天敵農薬代が余分にかかってしまう(コスト高)。
これらを通常の栽培管理で行おうとしても一般には難しい。こうした場合はバンカーシートを利用すると良い。
バンカーシートは、天敵の隠れ家や産卵場所、天敵の種類によっては増殖場所を提供できる資材であり次のような特長を持っている。
(1)天敵をシートの中で発生、増殖させることができるため、害虫の発生前に設置でき、害虫の発生を待ち伏せることができる。
(2)天敵の隠れ家と産卵場所を提供し、温度、湿度、散水、農薬散布の影響を少なくできる。
(3)長期間、天敵が働いてくれるようになるため、1回の設置で十分な効果が得られ、追加放飼などの追加コストが不要になる。
現在、ミヤコカブリダニ用の「ミヤコバンカー」とスワルスキーカブリダニ用の「スワルバンカー」が石原バイオサイエンスよりJA全農を通じて販売されているので、試してみると良い。詳しい利用マニュアルが農研機構から提供されているので、合わせて参考にすると良い。
(4)在来天敵
人工的に増殖させた天敵を使う天敵農薬の他に、自然に存在する在来天敵を活用する防除法もある。在来天敵が害虫防除に効果を発揮するようにするためには、栽培方法や天敵に影響の大きい農薬を厳しく制限するなど、在来天敵が活動しやすいようにほ場の環境を整える必要があるが、うまくほ場環境をコントロールすることができれば、資材費の少ない防除が可能となる。代表的なものとして、アブラムシを捕食するナナホシテントウがよく知られている。一方、在来天敵は、食酢や重曹とともに、農薬ではないが防除効果を示す資材「特定防除資材」に指定されている。
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