農薬:防除学習帖
【防除学習帖】第22回 雑草防除の基礎知識<2>2019年10月11日
農作物を耕作する際に常に悩まされるのが雑草。この雑草を取り除くための作業“除草”を効率的に行うためには、雑草の特性や除草剤の特性を把握した上で正しく使用する必要がある。前回に続き、今回も雑草の生理について整理して紹介する。
1.雑草の生理
(1)二次休眠
発芽に好適な環境となっても発芽せずにじっとしている状態が休眠。これに対し、一度目を覚ました雑草の種子が、発芽・生育のための環境が不適なため、再び休眠に入ることを二次休眠といって区別している。二次休眠に入った雑草の種子は、その原因となった環境条件が生育に適したものになっても休眠は継続する。これが、さらに雑草の発生を不斉一にする。
(2)発芽・生育
発芽とは、雑草の種子が休眠を終えて細胞が旺盛な生育を始め、芽が出て植物体が地上に登場すること。種子が発芽するためには、必要な環境条件があり、水、酸素、温度、光が発芽を左右する。
まず、水と酸素である。種子は水を吸収して種子内の膨圧を高めて被膜を破る。このとき、酸素が胚芽細胞に取り込まれる。発芽には大量の酸素が必要で、酸素が欠乏する状態では正常に発芽・生育できないことが多い。
そして、雑草の種子それぞれには、発芽するために必要な最低温度、旺盛に発芽する適温がある。一般に冬生雑草(10~11月に発生し、4~6月に結実するもの)の発芽適温は10~20℃。タイヌビエやメヒシバなどの夏生雑草(4~5月に発生し、8~10月に結実するもの)の発芽適温は30~35℃である。ただし、これは発芽適温であって、これより温度が低いと発芽しないのかというとそうではない。雑草防除を考える場合には、最低温度(何度あれば発芽するかという温度)が重要である。
例えば、前出のタイヌビエの最低温度は10~15℃、メヒシバは13~20℃である。
水稲でいえば、代かき・田植えの時期に最低温度を超えていると田植え前に雑草の発生が旺盛になってしまい、除草剤の葉令適期を超えてしまう場合がある。また、田植え前後の気温が最低温度付近であると雑草がダラダラと発生しつづけた結果、せっかく除草剤を使用してもとりこぼしが多くなってしまうこともある。
最後に光である。耕地に生える雑草の大部分は光を必要とし、光の当たる時間、光の量によって発芽率が変化する。この性質を利用したのが、防草シートや黒マルチなどといった被覆資材。これらによって土壌表面を覆い、光が当たらないようにすると雑草の発芽を抑え、除草効果を得ることができる。また、葉などが遮光しやすい作物の根本では雑草も大きくなることができない。そのため、作物が雑草より早く大きくすることができれば、雑草害を少なくすることができる。
(3)発生深度
雑草には発生に適した土壌の深さがあり、深さが好適であると雑草の発生が多くなる。逆に、深すぎるなど発生に不適な深さであると雑草の発生は少なくなる。これを応用すると、浅い深度を好む雑草の場合には、天地返して種子を土中深くに埋めることで、発生を少なくすることができる。
(4)土壌環境
雑草も植物であるので、根から水分や養分を吸収し、光合成をしてエネルギーをつくり生育していく。このとき、土壌の温度や水分、土壌pH、肥沃度が雑草の生育に影響を与える。温度については、前述のとおり発生時期を左右するので、発生が早い年には除草剤の撒き遅れなどが起こりやすくなる。水分は、雑草の耐水性に差があるので、水が苦手な雑草は水田化することで減らすことができるし、水を好む雑草は畑地化により減らすことができる。こういった意味で、田畑輪換は、雑草の量を減らすのに役立つ技術でもある。
土壌pHについては、作物同様に中性~酸性を好むものが多く、アルカリ性土壌には弱い。中には、メヒシバなどアルカリ性でも生育できるものもある。いずれにしろ、作物が生育しやすい土壌pHであれば、雑草も旺盛に生育できるということである。
肥沃度、いわゆる土壌養分の多い少ないが雑草の生育に影響する。一般に窒素成分を要求する雑草が多く、窒素が十分であると旺盛な生育が起こる。当然、作物にも窒素肥料が不可欠なため、肥沃度の調整で雑草を防除することは難しい。
(5)多産性・早熟性
雑草が防除しても無くならない1つの要因に多産性と発芽から登熟結実までの期間の短さ、早熟性にある。つまり、おびただしい数の発芽が可能な種子を作物より早く実らせて次世代を残す能力が強いことがあげられる。 生産される種子数は、少ない雑草でも1株あたり1000粒を超え、多いものになると80万粒を超えるものもある。これだけ多量に種子が作られると、除草には大変な苦労が伴う。また、一年生雑草は、一般に20~40日で結実することが多く、作物よりも早く結実する。
このため、一年生雑草は、結実する前に、多年生雑草であれば塊茎を充実させる前に、出来るだけ早めに除草してほ場内で結実(充実)させないようにすることが鉄則だ。
(6)種子の寿命
雑草の発生は、7~8割が前年に生産された種子、残りが前々年に生産された種子による発生と言われている。しかし、カヤツリグサやツユクサ、ハコベなど5年が経過しても多くの種子が発芽するものもあるので、このような種子の寿命が長い雑草の場合、雑草の密度を減らすためには、複数年に渡って除草を行う必要がある。
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