農薬:防除学習帖
【防除学習帖】第27回 水稲の防除<1> 種子消毒2019年11月15日
前回までに効果的で安全な防除を行うために必要な基礎知識を解説してきた。それらは、具体的な防除を組み立てる際に役立つので、折に触れて思い出していただきたい。今回からは実際の現場での防除に焦点を当て、作物ごとに効率的な防除法について紹介。第1弾は水稲を取り上げる。以後何回かに分けて、水稲の生育時期ごとに必要な防除について紹介する。
まず苗づくりからスタートしたい。
健全な苗の育成は、良質なお米と豊かな収穫を得るために重要であり、苗づくりには、今も昔も変わることなく細心の注意と労力がかけられている。
その健全な苗の育成を妨げる大きな要因の1つが種子伝染性病害である。水稲に発生する多くの病害は、第1伝染源が罹病種子(病原菌が潜んでいる種子)であることが多いので、病害を起こさないようにするために、健全な種子の入手はもちろんのこと、種子消毒の徹底が必要だ。
1.主な種子伝染性病害
主な水稲の種子伝染性病害には、いもち病、ばか苗病、ごま葉枯病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病などがある。特に、いもち病の場合、苗で発生したものが本田に持ち込まれると、本田での発生源にもなるので、苗で発生しないよう種子の段階で確実に防除しておきたい。
また、もみ枯細菌病や苗立枯細菌病などは、育苗時に発生し、苗を台無しにしてしまう厄介な病害なので、これらも種子の段階で確実に防除しておきたい病害だ。
2.上手な種子消毒法
種子消毒は、種子伝染性病害の病原菌の活動を止めて、発病させないことを目的に行う。種子伝染性病害は、種子の内部に潜んでいることを念頭において消毒作業を行うようにする。
(1)塩水選
種子消毒における物理的防除の代表がこの塩水選だ。これは、病害に侵された種子は充実度が悪く軽い場合が多いので、塩水につけて、浮いた軽い病原菌を含んだ種子を取り除き、重く沈んだ健全な種子だけを選ぶようにする。
塩水選には、食塩や硫安を溶かした比重が重い溶液を使う。その比重は、うるち米で1.13、もち米で1.08であり、この比重の溶液で沈むものが、健全でよく充実した良い種子である。
(2)温湯消毒
種子消毒における物理的防除の2番手が温湯(おんとう)消毒だ。これは、高温のお湯(概ね60度前後)に10分ほど種籾を浸して殺菌する方法だ。このため、温度管理が重要で、温度が低いと消毒効果が十分でなくなったり、温度が高すぎると種籾の発芽率が下がったりしてしまう。種もみの発芽率を下げず、十分に消毒効果をあげられる温度が60℃ということだ。このため、いかに均一に全ての種籾を60℃のお湯に当てられるかが最大のポイントとなるので、種もみ袋の中心部にも十分に熱が伝わるように注意する必要がある。この対策のためには、専用の処理器を使ったり、湯量を多くしたり、種もみ袋をよくゆするなどの工夫が必要だ。
このように、消毒効果をあげるには、注意すべき点がいくつかあるので、使用する温湯消毒器の説明書を良く読み、器械ごとの正しい使用方法をよく把握してから使うように心がけてほしい。
(3)種子消毒剤
種子消毒に使われる農薬が種子消毒剤だ。現在の種子消毒で最も多く用いられる方法で行う。現在市販されている種子消毒剤には、化学合成農薬と微生物が有効成分である微生物農薬がある。(表参照)
種子消毒剤を選択するポイントは、どの病害を対象にするかである。
自家採種であれば、前年の病害発生状況をもとに防除対象の病害を決めることになる。その場合は特に前年の穂での発病を確認して決めるようにする。
一方、県や地域のブランド化や種子伝染性病害回避の観点から、地域ごとに種子更新によって健全な種子を入手することが多くなっている。どの病害を防除すればいいかは、種籾の産地に確認する作業が必要になるが、購入種子は、基本的に病害対策が万全になされているので安心だ。ただし、その場合でも、多くの産地では念のために種子消毒を行うことが多い。
このため、現在は、種子伝染性病害の全てを適用内容に持つ種子消毒剤を使用することが多い。そのような種子消毒剤は、いもち病などの糸状菌(かび)が原因の病害を防ぐ有効成分であるイプコナゾール、ペフラゾエート、ベノミルなどと、細菌が原因の病害を防ぐ銅やオキソリニック酸との組み合わせで製剤化されたものである。
表1を参考に選択すると良いが、効果の安定度と使いやすさから「テクリードCフロアブル」が最も多く使われている種子消毒剤だという。
なお、微生物農薬は、病原菌の栄養を横取りしたり、住処を奪ったりすることで効果を発揮するので、病原菌より先に微生物農薬の有効成分菌を増殖させることがより効果を安定させるコツである。微生物ごとに最も効果の出る正しい使い方があるので、ラベル記載の使用方法を着実に順守するようにしてほしい。
また、当たり前のことではあるが、種子処理後の廃液は河川等への流出等に十分注意し、廃液処理方法を指導機関やメーカーに確認するなどして、環境に影響の無いように適切に廃棄するようにしてほしい。
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