農薬:防除学習帖
【防除学習帖】第29回 水稲初期防除2019年11月29日
健全な苗づくりが終わり、田植えの時期に行うのが初期防除である。近年は、気候変動が激しく、毎年病害虫の発生状況が異なることが多く、例年どおりの防除を行っても適期を逃すケースが増えている。このため、発生する可能性のある病害虫については常に予防的な防除を行うと防除効率が上がる。特に本田初期の防除は、その年の病害虫の発生密度を減らしたりする効果もあるので、確実に実施するようにしてほしい。
1.予防散布による効率的防除
「病害虫が発生した時に必要な農薬を必要な量だけ散布すること」が効率的な防除法と考えられているようだが、いつ発生するかもわからない病害虫に目を光らせ、発生と同時に適切な防除を行うことはかなり難しい。近年の大規模化は、そのことをさらに難しくしており、発見した時には既に拡散し手遅れの場合もある。
例えば、病害の場合、感染してから発病するまで症状が出ない期間(潜伏期間)があるので、病斑が見つかった時には既に目の前の病斑以外にも、病気の症状は出ていないがすでに感染している株が広がっていることもある。
このため、発生する可能性がある病害虫については、病害虫が発生する前に予防剤を散布しておくことが、病害虫を確実かつ効率的に防除でき、農薬の使用回数も少なくする有効な方法だといえる。
もちろん、地域単位で全く出ない病害虫には防除の必要はないが、地域で毎年発生する病害虫に対しては、その年の変化に対応するためにも、長期に持続する農薬をあらかじめ散布しておき、確実に防除する方がより効率的な防除法といえる。
2.育苗箱処理剤による初期防除の徹底
本田の初期防除では、その効果の持続性や処理のしやすさなどから、長期持続型の育苗箱処理剤を使用することが多くなっている。
この長期持続型の有効成分を含む育苗箱処理剤は、育苗箱に予め処理しておくことで長期に安定した防除効果を発揮するため、確実な本田初期防除が可能となる。
表1に主な殺菌剤分と対象病害、表2に主な殺虫成分と対象害虫ならびに表3に育苗箱処理剤とその有効成分一覧を示したので、発生する病害虫から使用する剤を選択する。
殺菌剤成分では、現在では抵抗性誘導剤を有効成分とする箱処理剤が主流となっている。主なものは、イソチアニルを有効成分とするルーチン、スタウト、ツインターボ、フルターボなど、プロベナゾールを有効成分とするDr.オリゼ、ビルダーなど、チアジニルを有効成分とブイゲット剤などである。これらは、育苗箱に処理することでいもち病の他、細菌病にも防除効果が期待できる。
いもち病イネに侵入する際に必要なメラニンの合成を阻害する作用を持つ薬剤には2種あって還元酵素を阻害するMBI-Rと、それとは異なる酵素を阻害するMBI-Pとがある。MBI-Rには、ピロキロン(商品名:コラトップ)とフサライド(商品名:ラブサイド)とトリシクラゾール(商品名:ビーム)がある。MBI-Pには、トルプロカルブ(商品名:サンブラス)がある。これは、これまでのメラニン合成阻害剤が阻害する酵素とは異なる酵素を阻害するとともに、抵抗性誘導も起こすことにより、従来のメラニン合成阻害剤とは全く異なる作用を示し、いもち病だけでなく細菌病である籾枯細菌にも効果を発揮する。
いもち病と紋枯病の同時防除に威力を発揮するストロビルリン系薬剤は、耐性菌が発生して効果が低下している地域が多いので、指導機関の情報を十分に確かめるなど注意が必要だ。
殺虫成分では、初期の害虫であるイネミズゾウムシやイネドロオイムシに対し、カーバメート系(オンコルなど)、ネオニコチノイド系(アクタラ、アドマイヤー、ダントツなど)、フェニルピラゾール系(プリンスなど)が定番である。
最近では、チョウ目害虫に高い効果を示すジアミド系薬剤の新規薬剤シアントラニリプロール(ミネクト)が登場し、初期害虫はもとより幅広いチョウ目害虫を中心に多くの水稲害虫防除に有効である。
また、ウンカ類に長期の残効を示すピラキサルト(商品名:ゼクサロン)の評価が高い。同剤は、育苗箱処理で90日以上の残効があり、ウンカが媒介する縞葉枯病の感染阻止効果も高く、2019年のウンカ類が大発生した年にも高い効果を発揮した。
3.育苗箱処理剤以外による初期防除
育苗箱処理以外の主な初期防除に側条施肥機による処理がある。
この方法は、密苗、密播といった省力移植技術を行う場合に必要になる技術だ。通常の育苗箱処理剤は、1箱あたり50グラム、使用箱数20枚/10アールで効果を発揮するように設計されており、使用する育苗枚数を減らす密苗、密播では薬量不足が起こる恐れがある。そういった場合には、側条施用が可能な薬剤を選択して、側条施用することが望ましい。
【表1主な水稲殺菌成分の特性一覧】
【表2 主な殺虫成分と適用害虫】
【表3 主な育苗箱処理剤(殺虫・殺菌剤)一覧】
※画像をクリックすると拡大して見られます
本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
【防除学習帖】
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 高知県2024年7月16日
-
【注意報】イネカメムシ 県内全域で多発のおそれ 鳥取県2024年7月16日
-
30年目を迎えたパルシステムの予約登録米【熊野孝文・米マーケット情報】2024年7月16日
-
JA全農、ジェトロ、JFOODOが連携協定 日本産農畜産物の輸出拡大を推進2024年7月16日
-
「雨にも負けず塩にも負けず」環境変動に強いイネを開発 島根大学・赤間一仁教授インタビュー2024年7月16日
-
藤原紀香がMC 新番組「紀香とゆる飲み」YouTubeで配信開始 JAタウン2024年7月16日
-
身の回りの国産大豆商品に注目「国産大豆商品発見コンクール」開催 JA全農2024年7月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」鹿児島県で黒酢料理を堪能 JAタウン2024年7月16日
-
【役員人事】ジェイエイフーズおおいた(6月25日付)2024年7月16日
-
【人事異動】ジェイエイフーズおおいた(4月1日付)2024年7月16日
-
日清食品とJA全農「サプライチェーンイノベーション大賞」で優秀賞2024年7月16日
-
自然派Style ミルクの味わいがひろがる「にくきゅうアイスバー」新登場 コープ自然派2024年7月16日
-
熊本県にコメリパワー「山鹿店」28日に新規開店2024年7月16日
-
「いわて農業未来プロジェクト」岩手県産ブランドキャベツ「いわて春みどり」を支援開始2024年7月16日
-
北海道で農業×アルバイト×観光「農WORK(ノウワク)トリップ」開設2024年7月16日
-
水田用除草ロボット「SV01-2025」受注開始 ソルトフラッツ2024年7月16日
-
元気な地域づくりを目指す団体を資金面で応援 助成総額400万円 パルシステム神奈川2024年7月16日
-
環境と未来を学べる体験型イベント 小平と池袋で開催 生活クラブ2024年7月16日
-
ポーランドからの家きん肉等の一時輸入停止を解除 農水省2024年7月16日
-
JAタウンのショップ「ホクレン」北海道産メロンが当たる「野菜BOX」発売2024年7月16日