農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2019
【土づくり】気候変動への対応は、地力増強と環境の負荷軽減2019年12月5日
高品質な農作物を安定的に生産し供給するためには、しっかりとした土づくりが必要だ。
10月の第1土曜日は昭和47年に全農が制定した「土の日」であり、12月5日は国連が制定した「世界土壌デー」である。本紙も、この時期に合わせて「土づくり」の特集を企画し、土づくりの重要性を語る吉田吉明氏に執筆していただいた。
1.水稲の土づくり
今年の新潟県は、猛暑やフェーン現象もあり、1等米比率が極端に低下した地域があった。たまたま、その管内の生産者の土壌を分析する機会があり結果を見て驚いた。pHが5.3、石灰飽和度28%、塩基飽和度31%であり、リン酸、ケイ酸も低水準であった。この管内ではかなりの頻度で見られるとのことである。
表1は、土づくり肥料の代表である石灰窒素、ケイカル、ようりんの生産量の推移を示したが、高温障害で乳白米の発生が顕在化した平成10年の前から大幅に減少し、それ以降も年々減少が続いている。しかも、この頃から窒素施用量も8kg/10aを下回り、低タンパク米指向から現在は6kg前後となっている。堆肥の施用も、ここ30年間で1/4に減少しており、地力窒素が水田から消耗し続けていることになる。
表1 主要な土づくり肥料およびりん酸質肥料の生産量の推移
表2 米生産費による10a当たりの化学肥料の施肥量の推移
水稲は窒素の全吸収量の2/3以上が土壌由来で地力窒素の役割は大きく、堆肥の施用は重要である。しかし、実態は、刈取り後稲わらは放置され春すき込みが多く(東北では80%ともいわれている)、田植後の還元障害による生育抑制が減収や収量変動の要因となっている。そのため、筆者は、刈取り後、稲わらに石灰窒素を20kg/10a散布しすき込む(排水の悪いほ場は浅耕が良い)ことを薦めている。土中堆肥といい、堆肥と同等それ以上の効果が知られており、上述の生育障害も回避でき、地力窒素の増強も図れる。また、温室効果ガスであるメタンの発生を大幅に削減でき、炭素貯留にも貢献するため、環境負荷軽減に役立つと考えている。
一方、水稲はケイ酸植物といわれるように、収量600kg/10aの場合、ケイ酸成分(SiO)で120kg吸収し(窒素吸収量の10倍)、重要な役割を果たす。ケイ酸の施用により、退化籾数が減り籾生産効率(単位面積当りの籾数/窒素吸収量)を高める。また、成熟期茎葉のケイ酸・窒素比が高い水稲は、窒素籾生産効率(玄米収量/成熟期窒素吸収量)が向上し、タンパク質含有量を下げ、不稔実籾の発生を抑制する。また、耐倒伏性も高まり、いもち病など耐病性も向上する。そのため、秋すき込み時にけい酸質肥料やようりんなどを同時にすき込むと相乗効果で稲わらの分解が進み、かつ塩基の改良、ケイ酸を供給することで、米の増収・品質向上を図ることができ、特に高温障害にはケイ酸の効果が高い。
2.野菜畑の土づくり
施設の野菜栽培では、堆肥など有機物が施用され、使う肥料も有機質肥料が多いため、土壌団粒構造が発達しており、土壌の物理性はおおむね良好である。化学性は、閉鎖系であるため塩類が集積しやすく、塩基などのアンバランスも問題となっており、リン酸も高い土壌が多い。これらを改善するには、下層土も含めて土壌診断を実施し適正な施肥管理で対応するとともに、水管理にも留意する必要がある。
一方、露地畑では重量農機や浅耕ロータリによる踏圧で圧密層が形成され、根の伸長阻害と排水性の悪化が顕在化している。加えて近年の異常降雨では、ほ場の排水性の良否が生育・収量に大きく影響する。激しい雨は土壌粒子を壊し地表面でクラスト層を形成し、冠水時間が長くなるだけでなく、水が引いても通気性が悪くなり、表面流亡も多くなる。土壌の団粒構造が発達していない土壌は、それが顕著に現れる。一般に、野菜類の耐水性(冠水した場合に重大な障害が発生しない時間)では、キュウリ、キャベツ、トマト、ダイコン等は5時間以内で影響が出やすく、排水対策が重要となる。このような排水性など物理性の悪化は土壌病害やセンチュウの被害を助長する場合が多い。
野菜畑では、同一のほ場で同じ仲間の作物を連作すると、寄生性のセンチュウが増加し収量、品質に重大な影響を及ぼす。そのため、連作は基本的に避ける。土づくりがセンチュウの害の予防にも役立つのは、腐植が多くて物理性や化学性が適正なほ場は、有益な微生物が生息し自活性センチュウも増えるため、寄生性のセンチュウの密度が少なくなるためである。石灰窒素は窒素質肥料であるが、主成分のカルシウムシアナミドは土壌病原菌、センチュウや雑草の密度を下げる効果があり、未分解有機物の分解を促進する効果も高く土づくりには格好な肥料である。しかし、病虫害が多発したほ場では限界があり、その場合は土壌消毒剤を使用するか、土壌消毒剤と併用すると効果が高まる。
3.野菜畑の土壌病害虫の防除
土壌消毒剤は、長い間主流であった臭化メチルに代わり、現場で多く使われている。土壌消毒には、熱を利用するものもあるが、いずれも消毒効果を高めるためには、処理方法をきちんと守ることが重要である。以下、主な消毒方法について紹介する。
(1)太陽熱・石灰窒素法
夏季の太陽熱と石灰窒素による腐熟促進効果および発酵熱を利用した防除法である。ハウス内で切りわらを1~1.5トンに対し石灰窒素100~150kgを散布後所定の作業を行い、ハウスを20~30日密閉する方法である。センチュウに高い防除効果を示し、フザリウム菌による難土壌病害にも効果がある。
(2) 土壌還元消毒法
この方法は、ふすま、米ぬかや廃糖蜜など、分解されやすい有機物を土壌に混入したうえで、土壌を水で満たし、太陽熱による加熱を行う。土壌中の微生物により有機物が分解される過程で土壌の酸素を消費して還元状態になり、病原菌を窒息させて死滅させる。
(3) 蒸気・熱水消毒
文字通り、土壌に蒸気や熱水を注入し、土壌中の温度を上昇させ消毒する方法である。病害虫が死滅する原理は太陽熱と同じで、いかに土壌内部の温度を上昇させるかが鍵である。
(1)(2)(3)は、持続農業法の「持続性の高い農業生産方式」の化学農薬低減技術として認定されている。
(4) 土壌消毒剤による消毒
主な消毒剤の特性や効果の範囲を表3に整理したので、使用法をよく把握した上で、効率良く安全に利用したい。
主な土壌消毒剤の特性を示す。
◎ クロルピクリン【商品名:クロールピクリン、ドジョウピクリンなど】
揮発性の液体で、土壌に注入することで効果を発揮する。激しい刺激臭がするので、防護具等の使用が必須である。ガス抜き作業が不要なのが特徴である。
◎ D-D【商品名:D-D、DC油剤、テロン】
くん蒸期間は7~14日であるが、クロルピクリンに比べガス抜けが悪いので、丁寧に耕起して、ガス抜き期間3~4日を確実において作付けする。ガス抜きが不十分だと薬害が起きるので注意する。
◎クロルピクリンD-D剤【商品名:ソイリーン、ダブルストッパー】
クロルピクリンとD-Dを効率的に配合し、両者の長所を生かした製品である。刺激臭もやや少なく扱いやすいが、D-Dのガス抜き期間をきちんと守る必要がある。
◎ダゾメット【商品名:ガスタード微粒剤、バスアミド微粒剤】
微粒剤を土壌に均一散布し、土壌の水分に反応して、有効成分であるMITC(メチルイソシアネート)を出して効果を発揮する。そのため、処理時には適度な水分が必要であり、ガス抜き期間も10~14日と比較的長く耕耘が2回以上必要である。主に土壌病害に効果を示す。
◎主なセンチュウ防除剤
一般の土壌消毒剤のように燻蒸するのではなく。土壌中に薬剤を均一に散布、混和することで土壌中のセンチュウなどを防除する薬剤。主な薬剤として、ネマッキク粒剤・液剤、ネマクリーン粒剤、ネマトリンエース粒剤、ガートホープ液剤などがある。土壌中の病害虫の密度があまりにも多い場合は効果が不安定になるので、いったん土壌消毒剤で燻蒸処理して密度を下げた後に使うと効果が安定する。
◆おわりに
今年は特筆すべきことが幾つかあった。先ずは、新天皇の即位にともない、11月14~15日、五穀豊穣を祈念する大嘗祭が行われたこと。土づくりに関しては、3月に農水省が土づくりの重要性のPRと組織的な展開を目指し「土づくりコンソーシアム」を開催したこと、第200回国会で11月27日に「肥料の品質確保等に関する法律」が成立したが、その審議の中で地力や土づくりに関する議論が国会で行われたことは、新しい動きであり、土づくりの機運の高まりを期待している。また、今年になり経済団体や一部の大学で、「持続的な開発目標(SDGs)」の取り組みが目立つようになってきた。17のGOALの内、少なくとも12は農業に関係すると思われ、環境負荷軽減にも配慮した持続性の高い農業生産を行う観点から、「土づくり」も大きな役割を果たせることを付け加えたい。
最後に、令和元年産米の全国のJAに聞く特集(本誌2390号)の中で、「自然災害、台風、長雨が当たり前になっている。やはり土づくりなど基本をしっかりすることが大切だと実感している」という声があった。土づくりの原点に戻って大いに進めて欲しいというのが筆者の思いである。
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