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農薬:防除学習帖

【防除学習帖】第41回 水稲の防除<9> 出穂期以降の害虫防除2020年2月29日

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 出穂期に発生する病害虫雑草は、米の品質と収量に大きく影響を与えるので、十分な注意が必要だ。前回は病害を中心に紹介したので、今回は害虫防除を中心に紹介する。 なお、各害虫別の防除薬剤は、有効成分名で紹介した。この時期に使用される農薬は、殺虫殺菌混合剤が多いので、別途整理して紹介する。

 1.カメムシ防除

 斑点米カメムシには、大型のカメムシと小型のカメムシがおり、被害を起こす主なものは全部で15種ぐらいといわれている。

 近年は、小型のカスミカメ類(アカヒゲホソミドリカスミカメ・アカスジカスミカメ)の斑点米被害が多く発生している。

 まずは、カスミカメ類についての知っておきたいポイントを紹介する。

 カスミカメ類の口吻(稲体に突き刺して汁を吸う針状の器官)は弱いので、籾殻を貫通して中の玄米を加害することはできない。このため、出穂~乳熟期(出穂10~14日後程度)の籾殻の先端部分がまだ柔らかく、合わせ目も完全に閉じていない時期を狙う。カスミカメ類の成虫はこの柔らかい籾殻先の端部分から口吻を貫通し、もしくは合わせ目の隙間から挿入させて加害するため、玄米頂部に斑点ができる被害が出やすいという特徴がある。

 また、品種や栽培条件によっては、籾殻よりも中の玄米が早く生育してしまい籾殻の接合部に割れ目ができることによって、中の玄米が一部露出する籾、いわゆる「割れ籾」が起こることがある。

 この割れ籾は、カスミカメ類の弱い口吻でも容易に加害することができ、最も弱いカスミカメの1齢幼虫でも加害できる。このため割籾の被害が大きくなり、頂部だけでなく、本来なら発生しないはずの側部にも斑点の被害が起こってしまうのである。

 これに対し、ホソハリカメムシやクモヘリカメムシは自分で固い籾でも貫通する能力を持っており、カスミカメ類よりも籾への加害期間が長い。

 しかも、大型カメムシは体が大きいため、効果を発揮するには小型よりも多くの有効成分量が必要であり、散布濃度が低かったような場合など十分な効果が得られない場合がある。このため、大型のカメムシが多く発生しているようなほ場では、殺虫剤に定められた用法・用量を良く確認し、防除適期に確実に防除するようにしてほしい。

 カメムシ類防除の基本は、穂ばらみ期以降に1~2回の防除を徹底することである。

 近年は、ネオニコチノイド系薬剤(スタークル剤やメガフレア剤など)の育苗箱1回処理で小型カメムシ類は抑えられるようになっている。ほ場におけるカメムシの発生が、小型のカメムシが中心である場合には、それらの害虫に対する殺虫剤の効果は高く、省力的で効率的な防除が可能である。

 ただし、大型カメムシが混発していたり、優先しているようなほ場の場合は、散布剤による徹底防除が必要である。

 大型カメムシ対象では、キラップ剤が効果・残効面での評価が高いようである。


 2.ウンカ防除

 2019年は、西日本を中心にトビイロウンカが大発生し、九州や中四国管内を中心に、坪枯れ等の被害が多発したのは記憶に新しい。毎年飛来が認められるが、2019年は特に多かった。

 ウンカには色々な種類があって、トビイロウンカ、セジロウンカ、ヒメトビウンカが主なものである。このうち、トビイロウンカとセジロウンカは、イネにのみ寄生し、国内では越冬できず、6月下旬から7月中旬にベトナム北部から中国やタイを経由してジェット気流に乗って飛来するという特徴を持っている。

 特にトビイロウンカは、飛来後の天候が高温少雨傾向になると水田内で急激に増殖し、水田内の一部分に稲を集中して吸汁し、ついには稲を枯れさせてしまう「坪枯れ症状」を起こすことが知られており、特に中晩生の品種での被害が大きくなる恐ろしい害虫である。

 このため、トビイロウンカの発生が多くなると、各県の防除所から注意報や警報が出されて緊急防除が促されるのである。

 ウンカ類に有効な耕種的防除がないため、殺虫剤による防除が中心になる。

 近年、水稲の害虫防除は、長期持続型の有効成分を配合した育苗箱施用剤が中心となっており、育苗箱施用1回でも大半の害虫が防除でき、被害と散布労力の軽減に大きな力を発揮している。しかし、本年のようにトビイロウンカが早生種の栽培後半(田植え80日前後・お盆の頃)に大量発生する年では、いくら長期持続型の殺虫成分といえども残効が持たず、被害が出てしまうことになる。このような場合には、水和剤やフロアブル、粉剤といった地上散布剤を水田に散布し防除する必要が出てくる。

 ところが、近年はベトナム北部や中国で殺虫剤抵抗性を獲得したウンカが飛来することが多く、特に育苗箱処理剤の主力成分であるネオニコチノイド系殺虫剤抵抗性を持ったウンカが飛来している。このため、散布する殺虫剤を選ぶ際には、指導機関等によく確認し、抵抗害虫にも効果のある殺虫剤を選ぶ必要がある。ウンカ類登録のある殺虫剤を薬剤系統別に分類したので、殺虫剤を選ぶ際の参考にしてほしい。

 表中の新規殺虫剤であるメソイオン系のゼクサロン剤(通称:ピラキサルト剤)は、育苗箱施用か側条施用でしか登録がなく、地上散布では使えない。

 その反面、ピラキサルト剤は、箱施用であっても90日を超える残効があり、本年のような発生様相の年でも育苗箱処理1回で十分な効果を発揮する性能を持っているようだ。しかも、ウンカが吸汁針を差し込んだら即効果を発揮するので、病害ウイルスの伝搬も防ぐことができるといった優れた特長も持っている。

 このため、ピラキサルト剤のような超長期の残効が期待できる殺虫剤を配合した育苗箱処理剤であれば、本年のようなウンカ類が後半に多くなる年であっても、育苗箱処理1回で十分な効果を発揮できると期待されている。

農薬表

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